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ニンギョウタチの物語  作者: 高月水都
外伝  《調和》と《理想郷》。そして《魂》
119/185

117話。  《理想郷》。その望みに手を伸ばし…そして

正義の味方にマイケルは憧れていた。(今現在も)

 俺が負ける……。


 認めたくない。

 そんなの。

「認められるわけないだろう!!」

 前方のビアンカ。

 後方のトーマ。


 その二人を振り払うように叫ぶと。牛の角に付いていたはずの松明が消滅する。


「ははっ」

 松明があったから牛が暴走していたのだ。それが消えると牛も沈静化していく。

「どうやら、最後に勝つのは俺の様なんだぞ!!」

 やっぱり、正義は勝つんだぞ。


 勝利を確信してきた二人が信じられないものを見るように見てくるが、主人公は途中は危機に陥るが、最後には勝利するのは主人公おれなんだぞと勝ち誇ったように笑う。


「……マイク」

「……トーマス」

 同じ顔の兄弟で向かい合う。

「君は……自分の力を」

「何言ってんだい!!」

 トーマスが何を言いたいのか分からないんだぞ。だけど。


「俺に逆らったんだからお仕置きが必要だよね」

 そうだ。

 主人公おれに敵対したんだ。悪は倒さないと。


「……ビアンカさん。逃げて下さい」

 トーマスは覚悟を決めたように告げる。

「トーマ!!」

「僕の事は気にしないで下さい」

「仲間は逃がすか。悪の美学ってやつかい? でも、悪は根絶しないといけないんだぞ」

「マイク……マイケル。この世界に悪は居ない」

「いるさ。――俺の《理想郷》を壊すものはみんな悪なんだぞ」

「――じゃあ、お前は一人ぼっちになるな」

 一人ぼっち?

 ああ。

「みんな同じ考えなら、象徴なんてものはいらなくなるんだな」

 それなら確かに一人ぼっちだ。

 でも、それは素晴らしい平和な世界ではないか。


「……君は分かってない」

「ハハッ。負け犬の遠吠えかい?」

 それなら、きちんと聞いてあげよう。


「………」

 トーマはビアンカを庇ってずっと俺を見つめている。


「ヒロインを庇うポジションは俺の方じゃないのかい?」

「………物語と現実は違うだろ」

 呆れたようなトーマスの言葉。

「いや。同じだよ」

 だって、勝つのは正義なんだから。

「正義が勝つんじゃない。勝った者が正義と名乗れるんだ。君は歴史でそう学ばなかったのかい?」

「歴史なんて古臭いもの。学ぶものなどないだろう」

「――分かってない。人は……象徴もかつて歴史で語られた事を繰り返す。文明の終わりも人の傲慢さも同じ事で、それから学んで回避するのが歴史を学ぶという事だ」

「学習能力がないだけじゃないかい?」

「記憶も記録も風化する。だからこその歴史を学ぶ事だろう」

「勉強は嫌いなんだぞ」

「嫌いだから。理解できないから。そうやって拒絶ばかりしていても人も象徴も成長しない」

「お説教は聞き飽きたよ」

 君のいう事は綺麗事ばっかりだ。


「打つ手がないから口しか出ないんだろうけど」

 打つ手がないだろうトーマに向かって腹を蹴り上げる。

「――その作戦は聞かないんだぞ!!」

 あいにく武器なんて野蛮なモノを持ってない。

 せいぜい縄と乗馬用の鞭ぐらいだ。


「ねえ、トーマ」

 悪は滅びるべきだ。

 蹴り上げて、腹に足を乗せて体重を掛ける。


「兄弟のよしみだ。降参して、国境なんてものを消し去りなよ。そうしたら君の民は救うよ」

「それは……もともとこの地に居た民は入ってないだろう!!」

「トーマ」

 トーマの感情的な反論なんて初めて見たんだぞ。


「原住民?」

 そんなの。

「元々居なかっただろう」

 マイケルの言葉にトーマスの表情が怒りに染まる。


「マイク!!」

「トーマ。落ち着け!!」

 怒りで我を忘れそうになっているトーマスにビアンカが止める。


「そろそろだ」

 ビアンカの言葉が小さく聞こえた。

 

 その言葉に合わせるように、

「大変です!!」

 部下の報告が来る。

「本陣壊滅!!」

 なんで、どうして……。


「――言っただろ」

 間に合った。

 トーマスが小さく呟く。

「歴史を学べと」

 そう告げるトーマスは、勝利を確信して笑っていた。







そろそろ過去編も終わりかな。

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