112話 《理想郷》。その現実を目の当たりする
格下扱いしていたからこそその態度が許せない。
弓矢の雨――。
「姿を見せないなんて卑怯だぞ!!」
矢を打ち払い叫ぶ。
縄が足元に現れて落馬する部下達。
混乱の中行軍が乱れる。
「森に火を掛けたら……」
「それだと後衛の者達に影響が……」
部下に諭されて、それが実行できないと不満を抱く。
「数の暴力だぞ!!」
そう、トーマスが卑怯にもこの大陸に居た原住民を味方にして数を増やしていった。
その数の優位性で自分達を攻めているのだ。
「トーマスのくせに生意気なんだぞ!!」
叫んで、何とか森を抜ける。
平野。
そこにはあっちこっちで柵が仕掛けられている。
直行させない作戦だろう。柵のせいで道が細くなっているので、軍も少しずつでないと進めない様になっている。
「わあぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が上がると同時に落とし穴に落ちる。ただし、落とし穴は比較的浅いので脱出が可能だが、馬は使い物にならない。
――そう。被害を出来るだけ少なく。
その象徴の願いは味方だけでなく敵にも向けられている。
だけど、その祈りは味方を不利にする。
それは分かっている。分かっているが。
甘い考えになってしまう。
「――ホント馬鹿だな」
そんな感情が見え隠れしているのを当然マイケルは気付いていた。
だから笑う。
馬鹿にする。
「俺に逆らってまで、そんな甘い事出来るなんて……」
ホント馬鹿。
「お前は俺の言う事を黙って聞いていればいいんだぞ」
そうこんな大事な事で甘い考えが出るのだ。大局なんて判断できないだろう。それなら適材適所で俺がした方がいい。
「さっさと降参した方が身のためだぞ~!!」
お前は俺の後ろでこそこそしている方がお似合いだ。
「――貴方はそう見るの?」
近くで声。
その声に合わせるように松明を付けた牛が次々とこちらに向かって走ってくる。
「なら、貴方はトーマの事を知らなすぎる」
先頭の牛に乗って迫ってくる女性。その手には弓矢。
オルグ・パパ族の象徴――ビアンカ。
いや、彼女だけではない。そこには――。
「なんで……⁉」
信じられない。
「なんで何だい!?」
牛に乗っているのは一人ではない。
それぞれの牛に、原住民の象徴--祭祀と呼ばれる存在がそれぞれ敵対行動をとっているのだ。
「何でなんだいッ⁉ なんでトーマの味方に……⁉」
俺の方が彼らと共存できていたじゃないか。遅れている文明。知識を教えて、便利な道具を授けた。なのにどうしてっ⁉
「――それぐらいしか分からない貴方には」
弓が射掛けられる。
「――ー生分からない」
そうはっきりとビアンカは告げれた。
それでも数の暴力と彼は捕らえるのだろうか……。




