111話 《調和》。戦争を見る
見てるだけ~
パステルライツ。
トーマスはその国にそう名付けた。
淡い色。
たくさんの色がってそれぞれの生活がある。
どの生活もどの生き方も尊重しようという祈りを込めてその名を付けた。
それに対して、マイケルの民は国名をミレニアムヘヴンと付けた。
千年の理想郷。
楽園が永遠に続くようにと。そして、楽園に敵対する存在を倒すために付けられたその国の民は自分勝手――としか思えなかった――パステルライツの民が許せなかった。
規則とは守るためにある。
その規則を守ろうとしない者に制裁を。
それをスローガンに迫ってくる軍。
士気は高かった。
「無理しないで」
そんな敵――そう考え、意見が違えばそれは敵にしかならない――の様子を報告で受けて、まだ国という体制も不確かで、指導者も明確に決まっていない――暫定的には居るが、あくまで暫定だ――ので、トーマスが国の代表として部下に命じる。
「僕らの願いは細やかな幸せ。その幸せには誰かの犠牲はいらない」
だから、生きて帰ろうと、生きて帰って来てくれ。
祈り。
「死が、何かを繋ぐなど言わないで!! 貴方方一人一人の生存が僕達の幸せだから」
だから、
「――戻ってきてください」
それが命令。
戦い事に綺麗事は通じない。
死なないなんて無理だろう。
だけど、その言葉で彼らも考えるだろう。
犠牲者を少なく済む作戦を。
「象徴様」
暫定将軍が声を掛ける。
「細やかな幸せ。それを守るためには彼らの言葉に従えない。彼らはその細やかな幸せを壊す事しか考えて無いので」
「………」
「真の理想郷は相手の考えを尊重し合って、譲歩できるように話し合う事だと思います」
「……そうですね」
マイケルの事を思う。
彼は自分の抱いた理想が一方的だと気付いてくれるだろうか……。
報告が来る。
ミレニアムヘヴンが迫ってきている事を伝える。
それを耳にして合図を送る。
弓を構える兵たち。そこには、元から居た者と新しく来た者関係なくいつでも動けるようにしている。
「………」
「トーマス。陣屋に」
「いえ。見えるところに行きます」
足手まといになるかもしれない。いや、なるだろう。
だけど、
「見ないで結果だけ聞いたら僕は人の痛みに鈍い象徴になると思いますので――」
「………」
それに部下は答えない。
止めようとしたかったのだろうけど、意思は変わらないと判断したのだろう。
「すみません……」
象徴には、綺麗でいてもらいたい。
そんな細やかな祈りを無駄にしてしまう事に詫びてしまうが、
「この国の願いを僕は忘れないための楔が必要なんですよ」
そう告げると、それならばという譲歩の元高台に移動する。
俯瞰してみる戦場。
弓が飛び。馬の足を止めるための縄が引っ張られて足元が掬われ、前の混乱がそのまま後ろに響く。
「………」
視線の先にマイケルの姿が映る。
彼は塀に鼓舞するために先頭に立って動いている。
弓に怯まない。
弓を打ち払い、後ろも顧みず進んでいく。
……戦線から離脱していく部下達に気付いてない。
「別動隊は……?」
「すでに動いてます」
ならいい。
地獄絵図。今のところパステルライツが優勢だ。だが、
「そう上手くいくわけがない」
手負いの獣ほど厄介なモノは居ないから――。
因みにこの世界で銃があるのはエーリヒの国だけ




