106話 《調和》。《理想郷》と道を分かつ
護るために国境を築いたもの。
自由のために境目を求めない者。
そして、許容範囲の自由を守る者。
ビアンカさんがこちらの言葉に頷いてくれたのに安堵して、すぐに行動を移した。
ありとあらゆる部族を説得して――ビアンカさんが協力してくれたが、罠だと思ってこなかった部族も多かった――マイケルが拠点としていた場所から離れた地域で拠点を置き、ちょうど中間あたりで――マイケルの民が動き回っていないのは確認済みだ――国境を引くとマイケル達に宣言した。
「トーマ!! いきなり何をするんだい!?」
宣言して二日後――来るのが早かったなと思いつつ――国境を引いて柵の作り上げた場所にマイケルが姿を現した。
「国境なんてもの必要ないだろう!!」
「――うん。そうだね」
僕もそう思っていたよ。
「なら」
「――でも、国境を引かないと守れないものもあるんだよ」
君には分からないだろうけどね。
「トーマ!!」
「ああ。そうそう。僕の国に移住したい人は今なら受け入れるよ。僕が国を作った事を全員に伝えてないしね」
急に国を作りましたと言っても戸惑うだろうしね。
「そんな横暴は許さないんだぞ!!」
文句を言ってくるマイケルを見て、
「じゃあ、僕も僕が守る民に君らがした事は許せないね」
君がした事。そう告げたが、
「なんの事だい?」
マイケルは分かっていない。分かってないから自分以外の自分と異なる考えが想像できない。
「反対に君の国に移住したいものはそちらに送るよ。じゃあ」
「おいっ⁉ トーマ!!」
まだなんか言っているマイケルから背を向けて対策をする。
マイケルとマイケルを生み出した民だ。
おそらく、
(戦争が起こる……)
「――いいのか?」
ビアンカが現れて声を掛けてくる。
「いいんです」
僕も僕の民も決めた事だ。
「ごめんなさい。ビアンカさん」
「何がだ?
謝らないといけない。そう思っていたのに不思議そうにビアンカが聞いてくる。
「……ビアンカさん達は国というものを必要としなかったのに。国という箱に閉じ込めてしまう事です」
国境などなく、流浪と民として生きている者達も多いのにそれを妨げてしまう。それに対して詫びないといけないと思っての発言だが、
「――気にしてない」
「ビアンカさん?」
「この国では自由に動き回れるのだろう?」
尋ねられて、
「はい」
それは保証します。
「なら、いい」
……ビアンカさんが納得しているのに戸惑うが、そんなあっさりしていて逆に心配になる。
「不自由になるんですよ。いいんですか。
あっさり認めて。
不安になって確認してしまう。
「………」
じっと、ビアンカはこちらを見て。
「お前は我等を守ろうとしているのだろう」
その対価が僅かな不自由なら受け入れる。そんな断言。
「そんなあっさり……」
「もちろん」
まだ何か言おうとしていたのを遮られる。
「お前達の告げる不自由が許容範囲から外れていればいくらでも抵抗するさ」
ビアンカはわずかに笑う。
だから、気にするな。
そう告げられた気がする。
「そうですね」
そう言われれば安心します。
一方的な正義を押し付けていないかと不安だったが、その言葉で安心した。
のちのリア充である




