100話 《寄り添う者》。神の声を聴く
烏丸さんは大君とくつろぎ中だった。
かこん
鹿威しの音が響く。
「兵は強くなりそうですか?」
茶室でお茶を嗜みながら大君が尋ねる。
「ええ。――頑張ってますよ」
烏丸がお茶を点てながら告げる。
「民には悪い事をさせてしまいますね」
「何を言うのですか。真の平和は、牙を見せ、爪を研いで、それを見せつけての山で昼寝をする事。――初代様が良くおっしゃられてましたよ」
烏丸が告げると、
「そうでしたね。守る術があって。示威行為をする事で守れるものもある。――ずっと言われてましたね」
代々大君に伝わる口伝。今の大君も先代から教わってきた。
「それはそうと」
「はい」
「神が生まれたそうですね」
他国の者から。
「――はい」
「………」
沈黙。
かこん
鹿威しの音だけが響く。
「かの者は国に帰せませんね」
「ええ。そうです」
天都の民。その天都の優位性はこの国独特な環境。
神を生み出せる性質にある。
天都は門を作り、他国との交流を発っていたのは天都の民が奴隷として誘拐されていた事が大きな理由だった。
知識。技能。それらを目当てなら。許す事は出来ないがまだましな方。
国によっては神という存在欲しさにその神を生み出した民を誘拐したのだ。
誘拐した国の上層部は神という存在を人が生んだ兵器として認識して、民を人質にして戦争の兵器として駆り出した。
生み出した民を救うには神はその国に従うと判断して、戦場に降り立ち。
――戦闘能力の優れている神は、他国の都合で利用され、戦乱をより大きくさせた。
神は本来守るべき民のためにしか力を振るわない。そのはずだが、戦場で戦い。血を浴びて、死を与え続けて、自身を呪い。
――他でもない。攫われた民を取り戻そうとして、神が堕ちたのだ。
堕ちた神は眼を曇らせて、守るべき存在を見失い狂い。災いを与え続ける。
攫った国を滅ぼし。自分の生み出した民が死んでいる事実に気付かず暴走して争いをより広げて、事の危険さに多くの神が暴走を止めるために動かなければもっと被害が広まっただろう。
――そのせいで、多くの神をこの国は失い。しばらく、国は凶事が続いた。
時の大君を生贄にしないと立て直せないほどに――。
それゆえ。神は天都から出さないというのが不文律としてなっている。
「そう」
大君の目が遠い。
「――戦が起こる」
ぼそっ
大君が告げる。
その目は何も映ってない。
虚空のみ――。
「………」
そっと大君の手から茶碗を回収する。
今の大君は茶碗に意識が向いてないだろう。
「若き国。古き国。意見の相違。戦乱が起こる」
すぅぅぅ
「――烏丸」
「はい」
「神は国の争いに関与しない。関与したら多くの神が堕ちるだろう」
「承知しております」
大君の声を通して告げるのは神。
すぅぅぅ
「――神の言葉です」
「はい」
「烏丸」
「はい」
「取り込みなさい」
大君の言葉に、
「承知しました」
返事した。
嵐は近付いてきている……。




