98話 《盾》。友人の力を借りる
友人です。誰が何と言っても
マーレは優秀だった。
信じられない事に。
「うん。この印の特徴からして。僕のところで暴れていた輩だね」
そう告げるとさらさら~っと似顔絵を描き、
「多分。こいつがいると思う」
と告げて、国境の警備に見せれば反応あるかもしれないと言われて見せたのだが……。
「ビンゴだった」
「あっ、早いね」
もう分かったんだ。
マーレの言葉に、
「人の顔を覚えるのが得意な者が警備に居てな」
「ああ。フリューゲルの育てた部下あたりかな。その情報がすぐに入るって事は」
「…………」
図星である。
「じゃあ、すぐ動こう」
「すぐにか⁉」
「だって、準備してたら逃げられるよ」
僕もそれで逃がしたクチだし。
マーレの説明で、部下たちが集められる――何時の間にかマーレが指揮しているが俺より的確だ。まあ、それでも時折発言が止まるので俺が口出すが――そして、先手必勝とばかりに作戦が決行される。
「あ~あ。うちの国もこんな簡単だといいのに」
マーレがぼやく。
「お前の指揮は的確だったが?」
次々ととらえられる偽物づくりの組織の関係者。
それを横目にマーレがぼやく。
「僕のところはしょせんトカゲの尻尾切り。下っ端は捕らえられても上は逃げちゃうんだよ」
あ~。やだやだ。
「……大変だな」
「歴史が長いからね。政府関係者もその手の者から賄賂を貰っているから、上からの圧力で捜査に踏み込めないのもいるし」
まあ、その政治家が弱まれば別の政治家と癒着してる組織が証拠を提出してくれるから持ちつ持たれつと言う事かな。
「………」
マーレの国の闇を見た気がする。
でも、
(これは一部なんだろうな)
もっと奥が深そうだ。
「今回の組織は僕のところの組織同士の争いで負けた者達の生き残りだから。僕のところの罪状も叩けば出てくるだろね。――後で僕のところにも送ってね」
「――ああ。そうする」
「それにしても……大手柄じゃない」
「大手柄……」
マーレがにやにやと、
「フリューゲルが居れば褒めてくれるんじゃない?」
なんか企んでいるというか含んでるような言い方。
「マーレ……」
「先日の謀反の計画はフリューゲルに伝えにくいけど、今回の内容は伝えたら褒めてもらえると思うよ。――好きな人に褒めてもらえるって嬉しいよね」
「うっ……⁉」
何で知ってる。
「え~。有名な話でしょ。エーヴィヒの象徴は姉弟だけど、弟は姉を姉とは思っていない」
「………」
いや、愚痴っているが、カナリアとかカシューとかエドワードとか、シュトルツとかに。だけど、
「お前には言ってないと思うが………」
「あのね。カナリア兄ちゃんに言った事は俺とテッラ兄ちゃんに筒抜けと思った方がいいよ」
「………」
付き合いが深いとは聞いていたが、
「あと、他人の不幸は蜜の味。面白い話だと喜んで話す輩は多いからね。カシュー兄ちゃんとか」
後、ジェシカさんは同性同士なら新刊のネタになるのにとギリギリしていたよ。
マーレの言葉に、
「あっ、赤くなった」
「煩い」
「今度は青くなったね。今更慌てても遅いのに」
「黙れ」
「それにしてもこんなに分かり易いのにフリューゲルはどうして気付かないんだろうね」
「………」
もう口開くのも疲れた。
「もともと鈍いけど、フィルター掛かっているしね」
「……? フィルター?」
「そう。――やせっぽっちで弱くて象徴として頼りないと言われた頃のフィルターがね」
「………」
今は全然違うのにね。
「姉さんの…」
「うんっ?」
「姉さんの事を今はそう言う者は居ないだろう……」
告げると、
「そだね。――馬鹿にした象徴はみんな死んだし。人だってすでに居ないのにね」
苦笑。
「まあ、いまだにその声が消えないから象徴を一人にしろなんて馬鹿な輩が湧いてくるんだろうけど」
「我が国の情報が筒抜けなのが気に掛かるが……」
ついそんな愚痴が漏れてしまう。
「情報は力だから」
マーレの言葉に、姉さんの居ない間の留守を任せられているのにまだまだだと思えてきた。
フリューゲル「リヒトに友人か……(ほろり)」




