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価値

作者: 成沢直史

 あるとき、これといった特徴の無い寂れた田舎町で、大事件が起きた。

 いつものように住人たちが畑仕事に勤しんでいると、突然夕暮れの空が禍々(まがまが)しいほどに暗くなり、次の瞬間には、無数の小さな石が、雨のように落ちてきたのだ。

 石の雨は半日近く降り続け、町中を覆い尽くした。

 大半の石は豆粒ほどの大きさだったが、それでも屋根には穴が開き、怪我をする人もいた。

 翌日。明るくなってから事件を聞きつけた報道関係者たちがやってきて、静かな町は一転して大騒ぎになった。

 政府の調査によって、落下物は巨大隕石の残骸だということが分かったが、更に詳しく調べたところ、なんとその石には、地球に存在しない強力なエネルギーが蓄えられていることも判明した。


 緊急特番の組まれたワイドショーでは、コメントを求められた専門家が興奮したように言う。

「この石を十キロほど集めるだけで、国の電力は少なくとも三年賄まかなえるでしょう」

 すると別の専門家も言う。

「科学の進歩にも、非常に大きな力となりますよ。ロケットのエンジンなどに使えれば、宇宙探査の幅を広げることも出来る」


 石にすさまじい価値があると分かるやいなや、町には現代のゴールドラッシュを狙った人々が全国からやってきて、驚くほどの賑わいを見せるようになった。

 なにしろ、そこらへんの道端に落ちている石を拾うだけで、大金になるのだ。こんなにおいしい事はないと、皆、地面を注視しながら、盲目的に歩いた。はたから見たら、奇妙極まりないものだったが、気にしている余裕などない。

 現地の大人も、畑仕事を放棄して石探しに没頭し、子供も通学時には必ず、道端や草むらに目を凝らすことを両親から覚えさせられた。

 腰を据えて探そうという移住者も増え、長い間空き家となっていたボロ屋には、我先にと人が住むようになった。


 しかし、それも一時的だ。早い者勝ちの乱獲によって石の数が激減すると、人口もそれに比例して減少していった。石がなければ、ただの何も無い田舎町なのだから、無理も無いことだろう……。

 けれどそんな中でも、一財産を築いた上で、なお、この地に残る選択をする者もいた。


 そこには、石集めで出会った一組のカップルがいた。女は地元民で、男は石拾いを目的に外からやってきた人物だった。

 贅沢三昧なデートを重ね、一年が経とうとした頃、男にとって、もっとも特別な日がやってきた。

 町で一番のおしゃれな料理屋でディナーを済ませた後、女に告白したのだ。

 何度も練習したキザで甘い言葉を囁き、その締めとして、大きなダイヤモンドがついた指輪を彼女へ差し出した。

 しかし、予想外なことに彼女のテンションは上がらず、憮然として黙ったままだった。てっきり涙でも流して受け取ってくれるかと思っていた男は、どうしたことかと彼女にそれとなく訊ねた。

 すると、

「あなたのことは、まあまあ好きだし、こういったシチュエーションにも憧れていたわ。でも、この指輪に価値を感じないのよ」

「どうしてだい?」

「だって、路肩に落ちていた石のほうが高級だったじゃない。その石以下の指輪だって思うと、貰っても恥ずかしくて付けられないわ」

「………………」


 こうして、男のプロポーズは、失敗に終わったのだった。

―――――――――――――――――――――終

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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