少年兵と薬莢と
パシッという乾いた音とともに隣にいた青年の額にまるで内側から何かが爆発したかのように穴が穿たれた。膝から崩れ落ちる青年。
そのすぐ後ろでふらふらしながら僕は腰だめでロシア製のアサルトライフルを連射していた。
廃墟となった市街地の一角。肌色と橙色の中間の色のような建物が左右に立ち並び幾つもタイヤが道の隅で黒煙を上げて燃えている。
20メートルほどの幅の通りでいろんな種類の銃声が聞こえる。
身体中に穴が開いている死体が幾つも転がっていて血だまりを作っている。
死体はどれもまだ子供だ。
しかしここではそれは普通のことだった。彼らは外の世界を知らない。そして銃弾で親を失うと彼らは聖戦を掲げる武装集団に戦闘員として加わることになる。
敵の武装勢力が放った銃弾が今度は僕の左足すぐ前に着弾した。
ガッガッガと音を立てる僕のアサルトライフル。激しい反動が僕の体の芯を揺さぶる。
僕は13才まで父と母と妹と暮らしていた。
僕は貧困のなかで育ってきた。食事は3日に一回パンが1枚食べられればいい方だった。そして僕の国ではいつも人間が殺し合っていた。何も殺しあわなくてもこんなにも強烈な飢餓と不衛生極まりない環境が混在していればみんないつかは自然に死んでしまうのになぜ殺しあうのか僕にはわからなかった。
泥水を啜る生活、地獄のような飢餓、平然と街中で行われるレイプ。発砲音。
そして僕が13才になってすぐのある日、お父さんとお母さんは殺され僕と妹は連れ去られていた。そこで銃をもった大人たちは今すぐ死ぬか国のために戦って死ぬかを選べと僕に聞いてきた。僕は武装集団で武器をもった。少年兵になった。妹はどこかに売られていった。
お前の親父は我々を批判していた、だから殺した。僕を連れ去った男の一人がそういった。
僕は銃の扱い方を徹底的に教え込まれた。僕の他にもたくさんの少年兵がいた。まだ子供の僕たちにはアサルトライフルは重かった。
お父さんとお母さんを殺したものと同じものなのだろうかと僕はよく考えていた。
顔のすぐ横を銃弾がかすめて飛んで行った。僕は虚ろな目でフラフラしながらアサルトライフルを打ち続ける。敵の姿がよく見えない。視界がぐにゃぐにゃとして定まらないのだ。その時横に立っていた少年兵が意味不明な言葉を叫びながら敵のいる方向へフラフラと歩き出した。歩き出した少年兵はアサルトライフルを打ちまくっていた。少年の銃から吐き出された弾は廃墟の建物にあたり地面にあたり燃えているタイヤに当たった。
そして弾が切れたところで敵の集中砲火を浴びて血飛沫を上げながら崩れ落ちた。
僕はこの国の外のことを知らない、本なんてないしもっとも僕は字が読み書きできない。しかし外の世界から飢えている人々へ食料を運んできたりワクチンを持って病気からこの国を救おうとした人たちがいたことは知っている。その人たちは僕たちを確かに助けようとしていたが武器をもった男たちは彼らを殺した。そしてついに彼らはこの国から離れていた。そしてとうとう今度は黒いヘリコプターに乗った外の世界の軍隊が攻め入ってきた。その人たちと僕らは戦った。数え切れないくらいの少年、少女、そして武器を持たない人たちが死んだ。
攻め入ってくる相手に対して盾として利用されたのだ。外の世界の軍隊は苦戦を強いられた。黒いヘリコプターが一機落ちた。そしてその落下地点が激戦地になった。そして外の世界の軍隊も諦めて帰っていった。
僕ら少年兵は短い訓練期間が終わるとすぐにゲリラの中に加わる。一番最初に敵の前に飛び出すのは主に少年兵だ。最初は銃の発砲音や爆弾が炸裂する音に足がすくんだ。初めて人を殺したのは14歳の時だった。機関銃を荷台に積んだ敵勢力の車を無反動砲で木っ端微塵に吹き飛ばした時だ。
すぐ近くで人が撃たれ死んでいく。そんな光景を見ながら僕は何も考えなかった。というよりも考えることができなくなっていたのだ。少年兵は最前線で大人たちの盾となりそして敵を殺す武器になる。そんな中で正気を保てる子供なんていないのだ。だから大人たちは戦闘が始まる前に子供達に薬物を投与する。薬物がないときは銃弾の火薬を鼻から吸わせる。そして弾切れを起こして死ぬまで、ただ前へ前へと進ませるのだ。
僕は平衡感覚を失いつつある体で敵の方へ向かっていく。
横に転がっている少年兵は瞳と口をだらしなく開いていた。
僕はもう一度腰だめでアサルトライフルを構えて連射した。薬物のせいで視界が曲がるから当たったかどうかはわからないがそれでも撃ち続ける。
僕は世界を憎んではいない。僕は不幸ではない。僕は死ぬのなんて怖くはない。
気がつくと弾は一発も残っていなかった。
僕は死ぬのなんて怖くはない。
戦闘服の左胸のポケットから手榴弾を取り出す。
怖くない。
右手でピンを引き抜く。
死ぬのなんて。
虚ろな目から涙が流れていた。
そして僕は僕では無くなった。