第6話 強がり
週末のたびに病院へ来るのもだいぶ慣れてきた。看護師さんたちと会話することも多くなってきた。いろんな話をできる人が増えてくるのは本当に有り難かった。少なくとも周りに人がいることで私も余計な考えが巡ることを少なくできる。心が折れそうになる時も支えてくれる人もいる。
季節はもうすぐ桜が咲こうかというころ。今まで冷たかった風がときおり気持ちのいいくらい暖かい時もある。少しずつ新しい命がその生命力を精一杯表現してくる。私が動物をとても好きなこともあり、近場に限らず遠方の動物園にたくさん出掛けた。特にこれからの時期は生まれた動物の赤ちゃんを公開するところが増えるから楽しみだった。
そのころの二人を思い出すとなんだか懐かしく思う。たった1年前の事なのにもう随分時間が経ったような錯覚さえ覚えてくる。
でも、今は目覚めない光也をじっと見つめているだけ。体の傷はほとんど完治している。内出血の跡も少し残っている程度だ。それなのに、まだ・・・。
ドアをノックする音が室内に響く。「どうぞ」と返事をする。中に入ってきたのは光也の友人たちだった。「気の合う仲間たちと飲み明かす会」のメンバーで私ももちろん知っている人たちだ。ほっとした気持ちで涙が出そうになる。
「来てくれたんですか、みなさん。ありがとうございます」
手渡された花束を受け取る。
「さおりちゃん、大丈夫?少し痩せたよね?」
光也の一番の親友と呼べる「戸口隆二」さんだ。
「いや、事故にあった時から見舞いに来たかったけど、意識が戻っていないって聞いてさ、押しかけるのも気が引けちゃって。でも、やっぱり来なくちゃって思って」
「いえ、そんなに気を使わないでくださいね。光也さんもみなさんに会いたがってるに違いないですよ」
洗濯から戻ってきた真美さんが部屋に入ってくる。
「あら、隆二君たちじゃない、来てくれたのね、ありがとう。光也も喜んでるわ。さおりさん、ここは私がいるからみなさんとコーヒーでも飲んできていいわよ」
真美さんも来てくれたみんなの顔見知りだったようだ。
「ありがとうございます。それじゃ少し離れますね」
静かに部屋を出ると休憩室へ向かう。
「さおりちゃん、光也は全く戻る気配はないの?」
「そうですね、全く・・・。でも、この状況にもだいぶん慣れてきましたよ。意外と過ごしやすいし。」
少し強がっていると自分でも思う。そうでもしないと崩れてしまいそうで怖い。
「そっか、無理だけはしちゃだめだよ。休むときはしっかり休んでおかないと」
みんなの優しさが本当に私の身体中に染み渡る。
「光也も早く起きないとな。ずっと近くにさおりちゃんがいてくれているのにいつまで寝てるのかってね。起きたらみんなで一回ずつゲンコツだな」
みんなとは久しぶりに会ったからしばらく話し込んでしまった。少し気が楽になった。「ありがとう。ほんとにありがとう」ロビーで見送りを終えて病室へ歩み出す。この先、いったいどうなるんだろ。様々な考えが頭を回る。




