第4話 私の居場所
あの事故から数日経ち、少し頭も整理できてきた。でも、光也は意識が戻らず治療中だ。あの時のまま時間が止まってしまったように感じている。年末休暇にも入ったからほぼ毎日病院へ来ている。病室へ入ることができたのは事故から2日後だった。光也は痛々しく見ていられない姿になってしまっている。まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
事故後の話を聞くと、自動車を運転していたドライバーは飲酒していてかなり酔っていたらしい。あの日、あの時間に待ち合わせしなければもしかすると違う結果になっていたのかもしれない。そんなこと考えても仕方がないのだけど。
せめて意識が戻って会話ができるのであればいいのだけど、それすらかなわない。私や真美さんの言葉になんの反応をしない光也に話しかけるばかりの毎日を過ごしている。でも、生きていてくれただけでもいいのかもしれない。
「ごめんね、光也。あのとき私、何もできなかったよ。ただ泣いていただけ。ごめんね・・・」
そっと光也の手を握る。いつもギュッと握り返してくれていた。この温もりが私の居場所だった。
「ねぇ、光也、目を開けてよ。私を見て・・・」
流し尽くしたと思っていた涙が次から次へ溢れる。きっと私たちの声は光也に届いてる、と思いたい。そのくらいはいいよね。
「真美さん、私、年明け仕事が始まるまでここに泊まります。真美さんずっと帰っていないですよね。少し休んでください」
事故当日から緊張し続けている真美さんも疲労の色が見える。という私も同じようなものだけど。
「ありがとう、さおりさん。そうね、今夜にでも少し帰って休ませてもらうわね。家もあの時のままだし。さおりさんも無理しちゃだめよ」
続けて真美さんが口を開く。
「私と光也は10年前に両親を亡くしてからは二人で暮らしてきたの。光也がまだ中学生のころだったからいろいろ大変だったけど。それが近々紹介したい人がいるって聞いたときは嬉しかった。さおりさんのことも少し聞いててね。でも、まさかこんな形で会うなんてね。目が覚めたら光也を怒らないと」
やっぱり光也は私との将来を考えてくれてた。とても嬉しい。
「私も真美さんと会うのがこうなるとは思ってませんでした。ほんと、光也さんには謝ってもらわないといけませんね」
二人でクスクスと笑った。あの事故の日以来笑ったことはなかった。
「光也、早く目を覚まして改めてさおりさんを私に紹介してよ。将来の妹になる人なんでしょ」
また涙が流れてしまう。早く目覚めてほしい。




