第2話 不安と恐怖
何とか待ち合わせ時間前に着けてほっとした。電車が遅れていたから間に合うかドキドキしてたけど。さすがに明日はクリスマスイブ。人通りもいつもより多い気がする。駅前は色とりどりのネオンが輝いて、それを見ているだけで気分があがっていく。この時期はいくつになってもなんだかソワソワしてくる。
今夜は光也と会う約束をしてる。時計を見るとあと5分くらいで時間になる。いつもの待ち合わせ場所。今夜は私が早く着いたみたい。さっき光也からメールも来たし、もうすぐ会える。お互いになかなか時間が合わない中で、彼とはすごくうまくいっていると思う。私のことを大事にしてくれているのがわかるし、私自身も一緒にいるととても穏やかな気持ちになる。
「大事な話がある」っていってたけど、なんだろ。なんとなくは感じるけど、やっぱり直接聞かないとね。
ふと見ると約束の時間が過ぎている。「あれ?どこかですれ違った?場所はここで間違いないしな・・・。」今まで時間に遅れるときはお互いに連絡していたし、何もなしに時間に遅れるなんてこともなかった。
バッグからスマホを取り出し電話してみる。呼び出し音も無いまま留守電に切り替わっている。おかしいな・・・。
これまでの暖かくなっていた気持ちが不安に打ち消されていく。時間とともに増していく不安。ここを動いてさらに離れてしまうかもという思いから動けない。いや、動こうにも体が硬くなっているようだ。
少しの距離のところで救急車のサイレンが聞こえる。この音が自分の不安感を次第に大きくしている。まさかとは思うけど・・・。
いつの間にかまわりの賑やかな街の音が耳に入ってこない。どうすることもできずに時間ばかりが過ぎていく。約束の時間より一時間ちかく経過している。やっぱり光也に何かあったに違いない。そう考えると震えが止まらない。駅の中にある小さな交番へ向かう。自分の体じゃないように重い。足がなかなか進まない。まともに歩けていないのが自身にもわかる。
やっとの思いで到着するとすぐに近くで事故はなかったのか、さっきの救急車はなんだったのか、警官に問いただした。かなり取り乱していたらしく「とにかく落ち着いてください」との言葉でやっと我に返ったようだ。
静かに話を聞いている時も震えが止まらない。血の気が引くのもわかる。確かに近くで交通事故があったらしい。くわしい状況はわからないが、男性が巻き込まれたようだ。
不安が的中した。やっぱり光也が事故に遭った。電話もできないくらいの状態なのかも、と思うと涙が溢れてきた。運ばれた病院は連絡が来ていないらしく、まだわからない。
「光也・・・。わたし、どうしたらいいの・・・」
しばらく経った後、携帯電話が光っているのに気付いた。慌てて取り出したので思わず落としそうになる。画面を見ると光也の番号からの着信だった。
「光也?」
焦りのせいで声が裏返る。向こうから聞こえたのは女性の声だった。
「あの、さおりさんですか?」
女性の声は落ち着いているが涙が流れている気がする。
「はい、さおりです。これは光也さんの番号ですよね?」
電話を持つ手も震えている。
「そうです、光也の電話です。私、光也の姉で真美と言います。この電話の履歴から連絡しました」
光也にお姉さんがいるのは聞いていたけど話すのは初めてだ。
「光也さんはどうしたんですか?時間になっても会えないので交番にいたんです」
「ごめんなさい、あなたに会いに行く途中で自動車に跳ねられたみたいなの。今病院の集中治療室で手当てを受けているの」
涙が止まらない。声が出ない。頭が回らない。自分が何を感じているのかわからない。
「さおりさん、大丈夫?今から病院へ来れる?すぐに場所を教えるから」
教えてもらった場所のメモを取り、すぐにタクシーに乗り込む。
「光也、無事でいて・・・」それだけを願いながら。




