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ふたりの約束  作者: くわとろプロジェクト
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最終話 ふたりの約束

 夢を見ていた。はっきりとは覚えていないけど、私の手を握ってくれていた懐かしい温もり。光也の温もり。ずっと求めていた温もり。


 目を覚ますと身体中が痛い。横には隆二さんがいる。光也はいないのかな?

「大丈夫か、さおり?」

隆二さんが涙目で話しかけてくれてる。

「体が痛いです。私どうしたの?」

声を出すのも結構しんどいな。

「さおりが乗っていた電車が脱線したんだよ。心配したよ」

そうだったのか。全然覚えていないな・・・。

「もうしゃべるなよ。ゆっくり休むんだ」

そうしよう。今は休みたい。ゆっくりと目を閉じる。


 それから二ヶ月ほど入院していた。ひとまず基本的な生活を送る分には支障はないほど回復した。まだ無理はできないけど。退院して自宅に戻ってきた。久しぶりの我が家はやっぱりホッとするな。

「光也もこんな気分だったのかな?」こんなことをふと考えてしまう私は・・・。

入院中もそうだったけど、退院してからも光也からの連絡はなかった。顔も見せてくれないって、どうかしたのかな?


 数日経ってから真美さんから電話が入った。

「さおりさん、退院おめでとう。いろいろ大変だったわね。大丈夫?」

ああ、なんかとても懐かしい声だな。

「はい、ありがとうございます。まだしばらくは通院しないといけませんけど。あの、光也さんは・・・?」

気になっていたことを思い切って聞いてみた。

「ごめんなさいね、お見舞いにも来てないでしょ?光也、これまでの仕事を辞めて、県外に就職したの。一人暮らししてるの」

「そうなんですね。いえ、少し気になっていたので」

どことなく寂しさが込み上げてくる。





「どうした?ぼーっとしてるよ」

テーブルの向こうで隆二さんが見てる。

「ううん、なんでもない。ごめんなさい」

慌てて食事を進める。

「けど、順調に回復してて良かったよ。一時はどうなることかと思ってから」

「ありがとう、隆二さん」

なんか隆二さんの言葉に心が痛みを感じているのかもしれない。チクチクする。


帰りの車の中でも心を重く感じる

「隆二さん、ごめんなさい、いろいろ心配かけてしまって。私・・・」

本当に申し訳ないと思う。

「いや、気にしないで。さおりのせいじゃないよ」

「私・・・隆二さんに言わないといけないことがあります」

すでに私は泣いている。

「私、目が覚めるまで光也さんのことを夢で見ていたように思います。光也さんがそばにいてくれたような気がしてました」

隆二さんは黙って私の言葉を待っている。

「やっぱり、私、今も光也さんが忘れられないのかもしれません。隆二さんのこともとても大切に思っているんですけど、心の奥には光也さんが・・・」

「いつかさおりからその言葉が出てくるんじゃないかと思ってたよ。俺どこかで覚悟していたよ。だけど、これからもさおりとやっていきたい・・・」

私を包んでくれる優しさがこれほど痛く感じたことはなかった。

「ごめんなさい、隆二さん・・・私・・・」

これ以上何も言えなくなった。

「さおり・・・」

「ごめんなさい、こんな気持ちじゃ隆二さんとは・・・私・・・」


家に着くと倒れこむようにベッドに横になった。

とめどなく涙が溢れた。もう涙も枯れてしまったと思っていたけど、それでも流れ続けた。一晩中泣き続けた。



 新しい生活も慣れてきたな。新しい仕事もなんとなく流れも把握できてきた。気分もリセットできたかな。気がつくと電話が鳴ってる。隆二からだ。

「もしもし、どうした?こんな時間に」

もう夜中だぜ?

「光也、やっぱりさおりちゃんはお前を求めてるんだよ。八神光也を」

「おいおい、いきなり何を・・・」

隆二のこんな声は初めて聞いた気がする。

「さっきさおりちゃんに言われたんだ。こんな気持ちじゃ一緒にいられないって」

ドキッとした。僕が春花さんに言った言葉と同じだ。

「隆二・・・」

それ以上かける言葉が見つからない。

「光也、さおりちゃんを・・・大切にな」

電話が切れた。僕にどうしろと・・・。


 次の日にさおりに電話を入れた。さおりが通院している病院の近くで会うことにした。しばらく見ないうちに回復しているようだけど、表情は沈んでいる。


「さおり、何やってるんだよ、隆二と別れて!それでいいのか?今からでも間に合う。隆二と・・・」

僕の言葉を遮ってさおりが話す。

「私、もう何が良くて、何が悪いのかわからないよ。ただ、今は自分の気持ちに正直になりたい。私、光也が好き・・・」

さおりを抱きしめた。キャシャな体つきは変わらない。

「い、痛いよ、光也」

「あ、ごめん」

しばらく沈黙があった。

「僕もさおりが好きだよ。ずっと好きだったよ。でも、このままじゃ気持ちの整理がつかないよ、お互いに」

静かに頷くさおり。

「少し時間を空けよう。その時に今の気持ちのままだったらまた会おう」


「あの時、僕たちの約束が果たせなかった同じ日に同じ時間にさ」

僕たちの時間が止まったあの時に戻りたい。

「うん、わかった。でも、どちらかが来なくても恨みっこなしだよ」

さおりの悪戯っぽい笑顔だ。




 あれからこの日までさおりのことを忘れたことはない。今日は12月23日。ふたりの約束が果たせなかった日であり、ふたりの約束の始まりの日でもある。

 僕はあの場所へ向かう。僕とさおりの約束の場所へ。

「ふたりの約束」を読んでいただきありがとうございます。ついに完結しました。いかがだったでしょうか?今日、この日に完結させるために慌ただしくほぼ毎日更新してしまい、一話一話がとても展開が早すぎたと思います。申し訳ありませんでした。読みづらい、話の内容がよくわからないとう箇所も多々あったと思います。

感想なんかもコメントいただけると嬉しいので、気が向いた方はよろしくお願いします。それとたくさんのアクセスありがとうございます。まさかこんなたくさんの方に読んでいただけるとは思いませんでした。次回投稿することがあれば、もっと時間をかけてゆっくりした展開にしていきます。ありがとうございました。

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