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ふたりの約束  作者: くわとろプロジェクト
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第17話 慟哭(後編)

 病院に着いた僕と春花さんは急いでロビーで待っている隆二と合流した。先ほどの電話口の様子から少し落ち着きを取り戻しているようだ。

「ごめん、光也。こんなことになって」

隆二が頭をさげる。

「いや、これは隆二のせいじゃない。頭を上げろよ。今はとにかくさおりのことが一番だろ?」

隆二の案内で病室の前まで来る。ゆっくりと隆二が口を開く。

「さっきやっと病室に入ることができたんだ。しばらくさおりのそばにいたよ。足を骨折してるし、肩や胸も打撲してるんだ。命に別状はないってことなんだけど、通常の生活に戻るのに時間がかかるらしいんだ。今は薬が効いてて寝ているんだけど、時々呼んでるんだ、光也、お前を。行ってやってくれないか」

僕の方を軽くポンと隆二が叩いた。さおりが僕を呼んでいるって・・・。

「わかった。少しでいい、時間をくれないか。春花さんはここにいてください」

隆二と春花さんは声を出さずに頷いた。


なるべく音がしないようにドアを開け静かに病室へ入った。

痛々しい姿になってしまったさおりを見ると涙が出る。ベッドの横の椅子へ腰掛けさおりの手を握った。懐かしいさおりの温もり。


「さおり、大丈夫か?寝てるから聞こえないか。あんまりびっくりさせないでよ。心臓止まるかと思った」


軽くさおりの頭をなでた。さおりの髪に触れるのもどのくらいぶりだろ。


「さおり、綺麗になったな。僕と一緒にいた頃はまだ幼さがあったよね。今はほんとに綺麗だ。いつの間にこんな綺麗になったんだよ。僕が事故にあって、目が覚めなかった時はこうやってずっと待っててくれたんだよな?あの時は・・・本当にごめん。僕以上に辛かったよね」


涙が止まらない。


「僕はずっとさおりが好きだよ。これから先もずっとさおりのことを好きなんだろうな、たぶんね・・・。でも、さおりを幸せにできるのは僕じゃない。僕のことは忘れて自分の幸せを考えて。さおりのことをちゃんと見ててくれるヤツもいるからさ。だから僕のことは忘れてほしい。忘れなきゃいけないよ」


我慢しないと声を出して泣きそうだ。


「これまで苦しい思いをしてきたから、きっとこれからは素敵なことがたくさんあると思うよ。苦しい思いをさせてしまったのは僕なんだけどさ」


「さおり、これまでありがとう。そして、ごめん。どっちかというと謝らなきゃいけないことが多いよね」


さおりの手に少し力が入ったように感じた。夢の中で誰と手をつないでいるの?


「さおり、そろそろ行くよ。これで本当にさよならだね」

握っていたさおりの手を元に戻す。そして静かに病室を後にした。

すぐに隆二の目の前に立ち止まり

「隆二、さおりを頼むよ。幸せにしてやってくれ」

「光也・・・。わかった」がっちり隆二と握手する。


春花さんが立ち上がって僕のそばにきた。

「春花さん、帰りましょう」

驚いた表情で僕を見ている春花さん。軽く隆二に頭を下げて二人で病院から出た。

車に乗り込みさおりの状態を説明した後沈黙があった。

帰り道の途中で僕から口を開いた。


「春花さん、僕の話を聞いてください」

「はい、ちゃんと聞きます、どんなことでも」

春花さんはしっかり答えてくれた。

「僕、今でもさおりのことが好きです。誰よりも好きです」

一瞬ビクッとなった春花さんの言葉は

「はい、知ってます。それは私と付き合い始める前からですよね。私が光也さんを好きになった時には、光也さんの中にさおりさんがいました。それでも私は光也さんが好きです」


「春花さん、ありがとうございます。その言葉とても嬉しいです。この約半年の間、春花さんと付き合えてとても心が暖かくなりました。でも、このまま春花さんと一緒にいたら、きっと春花さんを深く傷つけてしまうと思うんです」

春花さんは涙を堪えているのか、少し震えているようだ。僕も涙が流れ始める。


「光也さん、私・・・」

もう声を発することができなくなってしまったようだ。

「春花さん、すみません。これ以上春花さんとは・・・同じ時間を過ごすことができないです・・・。僕のせいで・・・」


春花さんのアパートにつき春花さんを降ろした後一人でしばらくあてもなく走った。

僕はどうしたいんだろ。自分で自分の気持ちがわからないほど麻痺している。気が付いたら海が見える。車を止めると、今まで抑えていたものが溢れ出した。声を出して泣いたのは初めてだった。


僕は・・・。

「ふたりの約束」を読んでいただきありがとうございます。第17話の後編を書かせていただきました。春花に別れを告げるところは悩みました。光也と春花の感情を表現できているでしょうか?

次回で最終話の予定です。あと少し「ふたりの約束」におつきあいください。

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