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ふたりの約束  作者: くわとろプロジェクト
12/20

第12話 お前達ならきっと

「退院おめでとうございます。よくここまで頑張ったね」

「長いことお世話になりました」

担当医からの言葉に頭をさげる。約半年のリハビリで生活に支障がない程度体力もついた。ただ、自分の中ではあの時のまま時間が止まっているような感覚だ。1年半もの間で起きたことなど全く知らないし。さおりとはあれから連絡も取らずにいた。さおりにはさおりの人生があるし、僕も僕の人生がある、っと言い聞かせた。


「光也、これからのことなんだけど、私が勤めてる会社の取引先に欠員が出て募集の話が来てるの。話だけでも聞いてみない?」

前の仕事はもちろん好きだったけど、事故の日からしばらくして退職している。姉からの話はありがたいなと思う。

「でも、事故の話はしてる?1年以上も動けなかったし」

「もちろん話してるわよ。でも、光也さえ良ければどうか?って」

車の中での会話ってのもなんだか久しぶりだ。流れていく景色も懐かしく感じる。所々見覚えのない建物があるが。

「うん、それなら話聞くだけでも行ってみるよ。体を動かしたいし」


 久しぶりに入る自分の部屋ってのはいいな。落ち着く。久しぶりに横になるベッドも変わってない。使っていたパソコン、テレビ、本棚。何もかもが懐かしい。僕は変われるのかな。変わらないといけないのかな?

 帰宅した次の日に電話が鳴る。隆二からだ。

「もしもし、光也?」

「ああ、久しぶり。元気だった?」

隆二の声を聞くのも懐かしく思う。

「退院したって、真美さんからメールが来てさ、電話したんだ。良かったな、みんな心配してたんだぞ」

「ああ、すまん。本当に」

本当に申し訳ないな、みんなには。

「それで、いつか退院祝いも兼ねてみんなで集まらないか?光也が良ければさ」

「ああ、いいねぇ!みんなに会いたいね!」

みんなは元気にしてるかな?しばらく見ないうちに老けてしまったやつもいるんじゃないか?そう考えると少し笑えてくる。

「じゃあ、今度の土曜日の夜7時頃迎えに来るよ。まだ体もキツイだろうから」

「わかった。よろしく」

隆二も相変わらずリーダー的な存在だな。あいつに任せておけばみんなは安心してまとまってくる。


 隆二の迎えで会場へ向かう。途中いろんな話で盛り上がる。といっても、昔のことだけど。案内された居酒屋に入るともうみんなが集まってた。

「みんな、光也連れてきたよ」

「光也、おかえり〜!もう!心配したんだから!」

クラッカーの音に驚きながら、懐かしい顔ぶれに心が暖かくなる。

「みんな、ごめん。いろいろ心配かけて」

深々と頭を下げた。

「まぁ、こうやってまた集まることができたからいいじゃない!今夜は楽しも!」

みんなからの言葉がうれしい。油断すると涙が出そうだ。

見渡すと、奥にさおりが座っていた。「久しぶり」と小さく手を挙げあいさつする。さおりも軽く頷く。

 いろいろみんなの近況報告もあり、本当に楽しい一時だ。僕が知らない時間に転勤したやつ、独立を目指して準備してるやつ。以前はこれが当たり前のように感じていたけど、そうじゃなかったんだ。みんなと過ごせるのは奇跡に近いのかもしれない、大袈裟ではなく。


 あっという間に楽しい時間が終りを告げる。近々また集まるのを約束し解散する。隆二が送ってくれるようだ。

「光也、ちょっといいか?話があるんだけど」

「どした?改まって。いいよ。そこの店にでも入ろうか」

目に止まったカフェに入る。隆二がさおりも連れてくる。ドキッとしたが。

「ごねんな、光也。呼び止めちゃって。話ってのがな」

なんとなくわかってきた。そういうことなのかな。

「実は俺、さおりちゃんと付き合ってるんだ。もう、1年以上になる。そのことを話さなくちゃと思って」

やっぱりそうなんだな。正直ショックは隠せない。

「そうだったのか。付き合ってる人がいるって聞いたっきりだったから、気にはなってたんだけど、隆二だったのか」

時間は戻せないだろうか。戻せるのならあの時に・・・。

「光也さん、ごめんなさい」

さおりが口を開く。

「いや、さおりが謝ることじゃないよ。びっくりしたけど、隆二なら僕も安心できるよ。他の全然知らない人だったら殴っていたかも」

軽く笑いながら拳を見せた。

「隆二、彼女をよろしく頼むよ。お前達ならきっと上手くいく。そう思うよ」

今はそう思う。今の僕にはさおりを幸せにはできないんじゃないかと思う。

「光也、ありがとう。光也が寝てる間に奪ってしまったことになってごめん」

「頭をあげろよ、隆二。そうなる運命だったんだよ」


帰宅する直前に隆二と握手する。「さおりを頼むよ」

しっかりと頷く隆二。

テールランプが見えなくなるのを確認して部屋に入る。

「あの二人なら僕も安心だな」

ぼそっとつぶやくが頬には涙が流れた。

「ふたりの約束」を読んでいただきありがとうございます。早いものでもう12話です。これでそれぞれの人生が交わることのなくなった光也とさおりです。別れるのはすごくパワーが必要ですよね(経験上)。これからもよろしくお願いいいたします。

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