表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の記憶  作者: ラスカル
3/31

呪森

暗がりの夜から日の出が頼邑を迎えるように辺りがうっすらと明るくなり始める。それでも、休むことなく走り続けていく。 やがて、陽はだいぶ高くなってきた。よく晴れて、大気には秋を感じさせる清々がある。ここも雨がないせいか、砂埃がたっていたが、爽やかな陽気である。

さらに休めることなく、走り続けていくと海原が見えてくる。青い空と海原 のなかにくっきりの陽の光が浮かび上がって見えた。

「これが、海というものか」

海を見るのは生まれて初めてのことだ。いつか、長老が海といのは青々とした水は塩辛いと言っていた。海は地平線にのび、それはどこまでつづいているのか頼邑には想像できないものだった。

東へ向かう頼邑に潮風が心地好かった。そして、海をはなれ、再び景色は森 へと変わる。 しばらくすると、右手に寺が見えてきた。境内はひっそりしている。頼邑は 、馬のアオをとめ、そこから足で歩き、山門をくぐると庵の方に歩いた。ふい に、前を歩いていた頼邑の足がとまった。庵の前に人が立っていたのである。 この寺の和尚だった。 頼邑の姿に気付いたのか和尚が近寄ってくる。

「もし、旅人のお方であられますか」

和尚は、穏やかな微笑みを浮かべて頼邑を見つめていた。それから、頼邑は 庵の中で茶菓子を馳走になった。

「では、あなたの国ではそのようなことが起こっておりましたか……」

頼邑が旅をしているわけを聞いた和尚は、湯のみを持ったまま虚空な眼で、

「やはり、あの森のせいか」

と、顔をゆがめてつぶやくように言った。

「森」

頼邑が訊いた。

「ここから、さらに山を越えたところに、豊かな暮らしをしている集落があるそうです。その先には、神々が宿る深い森がある。それは、不死の森と呼ばれております」

和尚は、まだ湯のみに虚空にとめたままである。

「その森は、ここから何里ほどでしょうか」

和尚は手にした湯のみを飲まず膳に置いた。

「行こうとするのはやめなされ。その森は、またの名を呪われた森と呼ばれております」

急に声を低くし、眼付きも変わっていた。

「…………」

山の向こうの夕日が辺りを赤く染めていた。カナカナとひぐらしが鳴いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ