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光の記憶  作者: ラスカル
20/31

伊助の決意

屋根に朝陽が射し、子供の泣き声、女の甲高い声などが聞こえていた。里の一日が動き出したのである。

井戸端に、肌脱ぎで伊助がひとり立っていた。

朝の喧騒につつまれていたが、いつも井戸端に集まっている女房連中の姿はなかった。

伊助の肩には晒が巻いてあった。頼邑を襲ったときに手傷を負ったものだ。

その手には刀が握られている。伊助は、手の具合を確かめるように、ゆっくりと素振りを始めた。傷を負ってから五日経っていた。

…………抜いてみるか。

伊助は、釣瓶で水を汲み、手ぬぐいで体の汗をぬぐってから着物の袖を通して、刀を腰に差した。

鯉口を切ると、腰に沈め、気魄を込めて抜刀した。

シャッ、という鞘走る音とともに刀身が朝陽を反射て閃光を放った。

…………抜ける。

ほっとして、伊助が刀身を鞘に納めたとき、背後で下駄の音がした。

「もう大丈夫そうだな」

平八郎だった。

寝間着は着替えていたが、単衣を三尺帯で縛っただけのだらしない格好だった。帯には手ぬぐいをぶら下げていた。

顔を洗いに来たようである。

「このとおり、しゃっきりしている」

伊助は両腕をふって見せた。

「それなら、仕掛けてもいいな」

そう言うと、平八郎は釣瓶の水を近くにあった平桶に汲んで顔を洗った。

あの騒動のあと、長老は銀の掘採作業に関わる里の者を撤退させた。さらに、この地を拠点としている地侍に対して、追い返したのである。里の者で力を合わせれば簡単なことだった。いつまでも役人や地侍の思いのままにさせておくにはいかなかった。

「戦になるかもしれんな」

平八郎が訊いた。

「長老は無論、そのつもりだ」

伊助は、強い語気で言った。

「だが、頼邑さまがさきだというのに、長老は少し薄情じゃねぇか」

「いや、そうとは限らぬな」

横目で平八郎を見た。

「どういう意味だ」

「長老がおれたちに頼邑さまを探すように頼まれた」

「というと……」

「不死の森に行く」

伊助はそう言って、濡れた顔を手ぬぐいでぬぐった。

「分かった」

平八郎は、獲物をみつけた野犬のような目をしてついてきた。

「それとお花にも頼まれたのだ」

そう言うと、伊助は井戸端を離れ、平八郎の部屋の方に足を運んだ。

「そうだったのか。まぁ、ここのところお花のやつ、頼邑様の部屋によくいたからなぁ」

平八郎は、そのことをお静から聞いていた。

最初は、お花は女のこいではなく、少女の憧れであり、夢見るような淡い恋心なのだと思っていた。

…………お花は、頼邑さまを慕っていたのか。

伊助は察した。

お花の胸の内には、里の女が抱いているような憧れるような気持ちとはちがう強い思慕の念があるかもしれない。

「お花、辛れぇたろうなぁ……」

平八郎が、ため息をついて言った。

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