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光の記憶  作者: ラスカル
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歓迎の宴

その日の夜、頼邑のために宴が開かれ、男たちはここぞとおいて美味の酒を持って宴が行われる場所へ、ぞろぞろ集まってくる。 そこでは、男たちの笑い声が絶えない。その中に伊助の姿もある。怪我しているので伊助は、酒はひかえ、飯だけにした。肩口の傷のためである。

「さぁさぁ、頼邑どの。遠慮せずに飲んでくだせぇ」

そう言って頼邑のお猪口に酒をついだのは平八郎へいはちろうだ。

平八郎は、三十八歳。あの伊助と酒をくみか わすほどの仲なので手当してくれた頼邑に、

「伊助の命の恩人と一杯やりてぇ」

と言って、家から酒を持ってきたのだ。

平八郎は酒好きで、何かにかこつけては飲みたがるのである。

「にしても、伊助。とんだ阿呆だな」

「おれも聞いてあきれた。こんな話もあるんだな」

なぜ、伊助が怪我を負ったのか伊助自身が、 事の成り行きを話した。襲った相手に助けられたことを聞いたものだから、おかしくて中には、ひっくり返るほど大笑いをしている者もいる。

「だってよ! 頼邑さまが、あやかしかと思ってよ」

伊助は、口をとがらせ、ねるように言った 。

伊助は、最初は頼邑どの、と呼んでいたが、 頼邑さまと呼ぶようになった。

「私が、あやかしに見えたのか」

予想もしない言葉に頼邑は驚きを隠せない。

「そりゃねぇだろう。頼邑どのが、あやかしなら伊助は貧乏神だな」

平八郎が、伊助の顔を覗きながら言った。

「その言葉は、そっくりお前に返してやろう 」

平八郎こそ、酒臭い息をし、だらしのない格好になっている。肩まで伸びた総髪が乱れてくしゃくしゃになっている。 あごがしゃくれ、頬が肉を抉り取ったようにこけている般若のような顔が、貧乏神のようである。

「そいつはいいゃあ」

男たちは高々と笑い声を上げた。

「伊助どの、先の言葉の意味を教えてくれ」

笑いの中、頼邑の声に振り返った伊助は、思い詰めたような表情があった。

「それは、狐の化け物のせいだ」

平八郎が、しゃっくりをしながら言った。

「狐の化け物?」

すると、脇にいた伊助が、

「馬の丈ほどある、でけぇ狐でよ。尾がいくつも生えてるんだ。人里におりて来なかったのに、ここら最近、現れるようになったんだ 。悪さもしねぇから、気にもとめていなかっ たんだが、ついに人間を食い殺した」

と、言い添えた。

「食い殺したのは熊だが、狐が従えてるってんだ。それより、厄介なのが人間が俺たちを殺そうとしてる」

お猪口を手に持ちながら、

「その人間は、恐ろしい力を持っている。おぞましい力だ。巫女みてぇな力で、名はかんなぎという」

頼邑の横に座った、吉之介が言った。

頼邑よりさほど、歳が変わらないように見えた。

「だから、伊助は見なれず、そなたを狐の類いだと勘違いしてしまったのだ。すまぬことをした」

伊助の代わりに吉之介が、詫びを入れてきた が、重い感情はなく、軽く聞こえた。

頼邑は、それには何も答えず、

「伊助どのは、川を渡る前からずっと私をつけておられたか」

と、伊助に言った。

すると伊助は、首をひねった。

「へ?おれがつけてきたのは、杉林のとこからですよ」

「本当か」

てっきり、川を渡る前からつけられているとばかり思っていた。あの時、確かに気配はあった。

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