外を眺めていた。
青い空に白い雲が浮かぶ。その白はゆっくりと進み、何処かに流れていく。そして、新しい白が青と交じる。
空は同じ姿を見せない。
あれから二週間が過ぎた。
僕も、変わらない生活から抜け出したのかも知れない。
「和泉、宿題見せてくれよ」
そんな声が聞こえるたび、僕は机の中からノートやプリントを取り出し、声の主に渡す。
「わりいな」
声の主がその場を離れると「俺も写させてもらうわ」と遠くから声がしたので、右手を軽く上げて応じる。
あの友達から発言から二日後くらいだったと思う。急にクラスの男子が数名、僕に近づいて来たのは。何故かはわかっている。
「お二人さん、なんか進展ありましたか?」
僕の右斜め前、桑原さんの左斜め後ろに立ち、両手を伸ばして僕の机と桑原さんの椅子にタッチする新見さんの姿。
そう、最近新見さんは僕らの進展が気になって仕方ない様子で、こう聞くことが毎日の日課である。
こう見えても男子からは絶大な人気、女子からは壮絶な信用の新見さん。僕と仲良く出来れば、新見さんとおしゃべりする機会も増えるし、新見さんと仲良くなれば、女子とおしゃべりする機会が増えるのだ。
そういった理由で、僕に近づく人はきっかけとして、宿題を見せてもらうという行為に出てきた。前の僕にそういう人はいなかった。最初は悩んだものの、桑原さんが女子にしていることと同じことを男子にしていると思えば、悩むことなかった。要は僕も僕に近づく人をきっかけにしている。桑原さんと同じという自己満足を得るための。
「別に変わらないよ」
僕が答えると、桑原さんも「ええ」と微笑む。
学校が終わったら何となくメールをしたり、たまに一緒に下校したり。とりあえず普通の友達を実行中。
変わったことと言えば、僕らの口調が砕けたことだが、それは報告をするまでもない。知っているし。
「そうなんだ」
呆気なく引くところが新見さんの良いところなのかも知れない。僕らを気遣ってくれるが、必要以上の追求はしない。急かすこともない。
「そうだ! 放課後作戦会議しようよ。今後の二人についてさ」
教室全域に響く声に、男子の視線を感じた気がする。
「桑原さんは大丈夫?」
新見さんが振り返ると桑原さんは「うん」と返事をした。
「じゃあ放課後ね」
そう言い残し、新見さんは女子の集まる集団の一つに混ざっていった。
僕に確認は取らないんだ……。
「これ、サンキュー。なあ、作戦会議ってなんだよ?」
宿題のプリントを返しに来るクラスメイト。
「いや、別に」
プリントを受け取り、机の中に戻した。
「お前には委員長様がいるんだろ。両手に花は良くねえぞ」
茶化すように言われたので、少し癪に障った。
「いや、そういうのじゃないですからほんと」
一つの花を両手で抱えている僕に、もう一つ持つ余裕など、到底ない。
「まあ、いいわ。じゃあ放課後ね」
冗談なのか本気なのかわからないが、新見さんの真似をして、満足そうに笑いながら自席へ戻っていった。
夢を見ていますか? 夢を持っていますか?
幻想、空想、理想。
はかない想いを想像し、理想と願い夢を見る。
現実を見ている今、未来を想像する夢。
睡眠中に見る夢は自分を変える。例えば視覚、例えば聴覚。有り得ないことを感じられるその意味は、実現させたい夢を叶えるために必要なものを教えてくれているのではないだろうか? 柔軟な感性を得るためには、夢を見ることが不可欠なんじゃないだろうか。
だからなんだろうか、僕は夢を見ている。
真っ白な世界で誰かと手を繋いでいる。白い指先が僕の右手を強く握っている。
視線を上げた。太陽の順光線がその顔を隠している。
誰だろう……でも……。
――幸せだ。