君に伝える恋物語
time 7/19/13:11
from 空
sub 久しぶり!!
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空、
ぴこっ、ぴこっ。
目の前で、カーソルが瞬く。
「うぅぅぅ……。」
書けないよ──……。
☆☆☆
何て伝えたら良い?
いや、伝えるべきなのか?
……でも。
でもっ!!
俺は、緒都がっ……!!
☆☆☆
ごおぉぉっ……
「あ…飛行機……。」
あんなに大きいものじゃなくて良いから、飛行機を飛ばせられたら良いのに。
そうしたら、空の所まで行って、
本当の気持ち、聞くのに。
「嫌われちゃったかな……?」
ふるふる、首をふって、頭からそんなバカな考えを追い出そうとする。
「そんなこと、考えてる暇なんか、」
ない、はず、
「ねぇ緒都──っ?」
「!?!?……な、何、沙梨亜!?あんた、授業はっ!?」
「私、次空いてるの。選択取ってないもん。」
「そっか……。」
「あ、そうじゃなくてさ。緒都、空君帰って来るんだって?」
「へ?」
「良かったね!!」
「う、うん。ありがと」
何それ。
ねぇ、空。
空は灰色。
貴方がいない。
空が青くない。
どうして?
空と恋人同士になったのは、去年の春だった。
高校2年に上がる前の終業式の日、晴れて私達は両想いになった。
幼馴染みがカップルに変わるのは、簡単だった。
でも、その先に待っていたのは、空の留学。
そうして私は、去年の夏から1年、愛する空の帰りを、星と共に待っている。
メールだって、してくれるって言った。
電話もしてくれるって。
寂しくなったら、いつでも呼べって。
でも。
「ごめん緒都、ちょっとこれからレポート忙しくなるから、返事出来なくなる。」
そう言った空の言葉は、怖くなる程に、やけに冷たくて。
「うん……分かった。」
その会話だけで、音信不通になってしまったのが、2週間前。
「ねぇ…なんで私じゃ……、」
駄目なの?
☆☆☆
「ん…と……、ここからエクスプレス?」
自らを落ち着ける為に、意識的に言葉を口に出す。
多分、あいつには散々心配かけたから。
だから、会って、抱きしめて、
本当の愛を伝えるんだ。
「夜になっちまうな……。」
空を見上げて、
月を見つけて。
俺の名前と同じ、宇宙の宝物。
「月、か……。」
I love you.を、心の中で転がした。
☆☆☆
「♪いつからだろう 君のことを 追いかける 私がいた」
君の知らない物語。
知って欲しいのに、
知ってもらえない。
夏の夜空を見上げながら、ふと思い出して、宇宙に響かせる。
……なんだか、ぴったりだ。
「♪見つかったって 届きはしない 駄目だよ 泣かないで そう言い聞かせた」
最後まで、声が出なくて。
なんで。
なんで。
きゅう、って、心の奥が痛い。
幸せはどこに消えちゃったの?
☆☆☆
帰って来たら、始めにやりたいことがあった。
ずいぶん飛行機の中で寝たのに、直らなかった時差ボケの眠気に襲われながら、真っ直ぐ目的地へ。
あぁ、でも間で1つだけ、寄り道。
「お、沙梨亜!!」
「空!お帰り!!」
「お前、本当に花屋でバイトしてんのな。」
(沙梨亜も変わったよな……。昔はどんだけ暗かったことか。)
「そうだよ!!ほら、好きなの買ってって!!」
「持ってって、じゃねーの?」
「流石にそれは無理──。」
「仕方ねーな、ったく……。」
俺がいなかった間に、この町もずいぶん変わって。
俺がいなかった間に、季節は巡って。
俺がいなかった間に、
──あいつは変わって?
いや、やめよう。俺らしくない。
あいつが一番好きな花を手に取って、俺は沙梨亜の元へ急いだ。
☆☆☆
沙梨亜に相談しよう、なんて思った私が馬鹿だった。
「さり、……ぁ……。」
声が止まって、
息が止まって、
足が止まって。
「……、……!!」
「……、……。」
「……!!」
「……!!」
遠くから、
愛する空と、
大好きな沙梨亜の、
楽しげな笑い声。
どうしたら良いの。
私は、どうしたら、
嫌だ、
嫌だ、
そばにいたいよ!!
今までのままが良いよ!!
2人の笑顔が、ぎゅっとつむった瞼の裏できらめいて。
もっとぎゅっとしたら、端から涙がきらめいて、
落ちた。
☆☆☆
たん、たん、たん、たん、
……この規則的な足音は?
それも、遠ざかっていく。
どうして、俺はそれが分かる?
──まさか。
「緒都?」
声に出すと、何故か安心した。
そうだ、緒都だ。
疑問が確信に変わる。
小さい頃からそうだった。
あまりにも規則的なリズム。
追いかけた先にあったのは、いつも、
笑顔か涙。
──もしも。
もしも、今、俺が沙梨亜と話していたことで、緒都が何か誤解をしていたら?
それなら、去っていくことも説明がつく。
でも。
嫌だ、
嫌だ、
俺は緒都に、そんなことがしたくてここに帰って来た訳じゃ無いんだ。
嘘だ、
こんなの俺は、
「緒都──っ!!」
駆け出す。
こんなの、許さない。
こんなの、許されない!!
☆☆☆
「緒都──っ!!」
嫌だよ、何で分かるの。
気付かれないように、逃げて来たのに。
「緒都、緒都っ!!」
長かった私と空との距離は、空の長い足が一瞬で埋めてしまって。
所構わず抱きしめられて、不覚にも赤くなってしまった。
「……離れて」
努めて、冷たい声で。
あなたが沙梨亜を好きなら、私は。
もう嫌だ。ここにいたくないし、サヨナラしたい。
「どうして?」
だから告げる。
サヨナラを。
心のままに。
「空は沙梨亜が好きなんでしょ!!」
涙を流すまいと、必死に言葉を並べた。
「はあぁぁぁ──っ!?!?」
でも、返って来たのは、場違いな叫び声。
「んな訳あるかよっ!!」
ぎゅっ、がぎゅうぅぅっ、になる。
「俺が好きなのは緒都だけ。今までも、これからも、永遠に。」
「空……。」
「ほら、これ。」
空の手に現れたのは、ミニブーケ。
「沙梨亜が花屋でバイトしてるって言ってたから、俺がお前の好きな花、ストックしといてくれって頼んだんだ。」
「それだけ……?」
「それだけ。……嬉しいな、妬いてくれたんだろ?」
「妬く前に、すっごく不安になったよ!!」
「……悪ぃ。」
もう止まんない。
止まんないよ。
涙があふれて、あふれて、私と空の間に落ちていった。
空は、それを一瞬見て、
私をぎゅっとして、頭を撫で始めた。
大きくて優しい空の手は、とっても暖かかった。
──まるで、本当の、
「大丈夫。もう絶対、離れないし離さないから。」
空みたいに。
「サヨナラなんか、言わせない。」
「空……お願い。」
「緒都?」
「そばに、いさせてくださいっ……!!」
ふぁさり。
私の目の前に、ミニブーケが差し出される。
「あ……!!カナリーグラス!!」
「これは、お前の誕生花だよな。」
「うん!!」
随分沙梨亜の影響で、花の名前を覚えた。
これは、
アルストロメリア、ブルーファンタジー、カルミア、ヘリオトープ、
カナリーグラス、
チューリップ。
「チューリップ、無理して入れて貰うの大変だったんだ。」
少し照れながら、空が言う。
そうだ。
赤・白・黄色のチューリップの花言葉は、“私は、あなたの美しさに夢中”。
「ありがと、空。」
「あぁ。……ったく、いい加減泣き止めよな、緒都。」
「昔は空の方が、泣き虫だったのにね。」
無理して笑顔を作って、胸の奥の奥の苦しさに気付かれないように、ブーケをぎゅっとして。
でもそんなささやかな努力も、無駄だったみたい。
「無理させたのは俺だから……まず、ごめん。でもさ、俺、ちゃんと戻って来たから。だから、今はもう、無理しないで泣いてくれないか?」
止まった涙腺は、もう一度崩壊。
「ごめんな、緒都。」
「ううん……ううん……!!ありがと、空!!」
ぎゅってして、ぎゅってされて、
泣きじゃくって、泣いて、泣いて、
泣き疲れて、空に寄りかかっていたら、空が優しく、私の髪をすき始めた。
この柔らかい感じが、昔からずっと好き。
なんだか妙に懐かしくて、
あぁ、空が帰って来た、って思えた。
ふと、思いついて聞いてみる。
「ねぇ、空、何か変わった?」
「へ?」
「今日の空、おかしい……。私の知ってる空じゃないみたいだよ。空は、こんなに饒舌じゃなかった。」
でも、そうして返ってきた言葉に、私はまた幸せを感じることになる。
「ちょっとだけ、強くなって帰って来れたのかもな。」
「え……?」
「緒都を守れる位、強くなりたかったんだ。だから、強くなって、戻って来た。本当に強くなれたか、分からないけど。」
「空……大好きだよ!!」
「緒都……。俺も緒都が大好きだ!!」
あんなに引っ込み思案で、人見知りで。
そんな空が、私を追い抜いて行っちゃうみたいだ、なんて。
「なんか少し、ズルい気がするけど……、空は強くなったよ。」
「そうか?」
「うん。昔は空、こんなんじゃなかったもん。」
「それは緒都もだろ。」
「え?」
「凄く綺麗になった。」
「そう……なの?」
「そうだよ。俺、どうしたら良いか分からなくなったんだぜ。」
「そう、なんだ……。」
「照れるなっ!!俺も困る!!」
「って言われても〜〜!!」
顔を見合わせて、笑顔になれて。
うん、幸せが戻って来た。
「空、幸せをありがとう。」
「緒都、愛をありがとう。」
私達の世界は、
私達の幸せは、
ここから始まる、
君に伝える恋物語。