表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君に伝える恋物語

作者: mamacros

time 7/19/13:11

from 空

sub 久しぶり!!

----------------------

空、


ぴこっ、ぴこっ。

目の前で、カーソルが瞬く。


「うぅぅぅ……。」


書けないよ──……。


☆☆☆


何て伝えたら良い?

いや、伝えるべきなのか?

……でも。

でもっ!!

俺は、緒都がっ……!!


☆☆☆


ごおぉぉっ……


「あ…飛行機……。」


あんなに大きいものじゃなくて良いから、飛行機を飛ばせられたら良いのに。

そうしたら、空の所まで行って、

本当の気持ち、聞くのに。


「嫌われちゃったかな……?」


ふるふる、首をふって、頭からそんなバカな考えを追い出そうとする。


「そんなこと、考えてる暇なんか、」


ない、はず、


「ねぇ緒都──っ?」

「!?!?……な、何、沙梨亜!?あんた、授業はっ!?」

「私、次空いてるの。選択取ってないもん。」

「そっか……。」

「あ、そうじゃなくてさ。緒都、空君帰って来るんだって?」

「へ?」

「良かったね!!」

「う、うん。ありがと」


何それ。

ねぇ、空。

空は灰色。

貴方がいない。

空が青くない。

どうして?


空と恋人同士になったのは、去年の春だった。

高校2年に上がる前の終業式の日、晴れて私達は両想いになった。

幼馴染みがカップルに変わるのは、簡単だった。

でも、その先に待っていたのは、空の留学。

そうして私は、去年の夏から1年、愛する空の帰りを、星と共に待っている。


メールだって、してくれるって言った。

電話もしてくれるって。

寂しくなったら、いつでも呼べって。


でも。


「ごめん緒都、ちょっとこれからレポート忙しくなるから、返事出来なくなる。」


そう言った空の言葉は、怖くなる程に、やけに冷たくて。


「うん……分かった。」


その会話だけで、音信不通になってしまったのが、2週間前。


「ねぇ…なんで私じゃ……、」


駄目なの?


☆☆☆


「ん…と……、ここからエクスプレス?」


自らを落ち着ける為に、意識的に言葉を口に出す。


多分、あいつには散々心配かけたから。

だから、会って、抱きしめて、

本当の愛を伝えるんだ。


「夜になっちまうな……。」


空を見上げて、

月を見つけて。


俺の名前と同じ、宇宙の宝物。


「月、か……。」


I love you.を、心の中で転がした。


☆☆☆


「♪いつからだろう 君のことを 追いかける 私がいた」


君の知らない物語。

知って欲しいのに、

知ってもらえない。


夏の夜空を見上げながら、ふと思い出して、宇宙に響かせる。

……なんだか、ぴったりだ。


「♪見つかったって 届きはしない 駄目だよ 泣かないで そう言い聞かせた」


最後まで、声が出なくて。

なんで。

なんで。

きゅう、って、心の奥が痛い。


幸せはどこに消えちゃったの?


☆☆☆


帰って来たら、始めにやりたいことがあった。

ずいぶん飛行機の中で寝たのに、直らなかった時差ボケの眠気に襲われながら、真っ直ぐ目的地へ。

あぁ、でも間で1つだけ、寄り道。


「お、沙梨亜!!」

「空!お帰り!!」

「お前、本当に花屋でバイトしてんのな。」


(沙梨亜も変わったよな……。昔はどんだけ暗かったことか。)


「そうだよ!!ほら、好きなの買ってって!!」

「持ってって、じゃねーの?」

「流石にそれは無理──。」

「仕方ねーな、ったく……。」


俺がいなかった間に、この町もずいぶん変わって。

俺がいなかった間に、季節は巡って。


俺がいなかった間に、

──あいつは変わって?


いや、やめよう。俺らしくない。


あいつが一番好きな花を手に取って、俺は沙梨亜の元へ急いだ。


☆☆☆


沙梨亜に相談しよう、なんて思った私が馬鹿だった。


「さり、……ぁ……。」


声が止まって、

息が止まって、

足が止まって。


「……、……!!」

「……、……。」

「……!!」

「……!!」


遠くから、

愛する空と、

大好きな沙梨亜の、

楽しげな笑い声。


どうしたら良いの。

私は、どうしたら、


嫌だ、

嫌だ、


そばにいたいよ!!

今までのままが良いよ!!


2人の笑顔が、ぎゅっとつむった瞼の裏できらめいて。

もっとぎゅっとしたら、端から涙がきらめいて、


落ちた。


☆☆☆


たん、たん、たん、たん、


……この規則的な足音は?

それも、遠ざかっていく。


どうして、俺はそれが分かる?


──まさか。


「緒都?」


声に出すと、何故か安心した。

そうだ、緒都だ。

疑問が確信に変わる。

小さい頃からそうだった。

あまりにも規則的なリズム。


追いかけた先にあったのは、いつも、


笑顔か涙。


──もしも。

もしも、今、俺が沙梨亜と話していたことで、緒都が何か誤解をしていたら?

それなら、去っていくことも説明がつく。

でも。


嫌だ、

嫌だ、


俺は緒都に、そんなことがしたくてここに帰って来た訳じゃ無いんだ。


嘘だ、

こんなの俺は、


「緒都──っ!!」


駆け出す。

こんなの、許さない。

こんなの、許されない!!


☆☆☆


「緒都──っ!!」


嫌だよ、何で分かるの。

気付かれないように、逃げて来たのに。


「緒都、緒都っ!!」


長かった私と空との距離は、空の長い足が一瞬で埋めてしまって。

所構わず抱きしめられて、不覚にも赤くなってしまった。


「……離れて」


努めて、冷たい声で。

あなたが沙梨亜を好きなら、私は。

もう嫌だ。ここにいたくないし、サヨナラしたい。


「どうして?」


だから告げる。

サヨナラを。

心のままに。


「空は沙梨亜が好きなんでしょ!!」


涙を流すまいと、必死に言葉を並べた。


「はあぁぁぁ──っ!?!?」


でも、返って来たのは、場違いな叫び声。


「んな訳あるかよっ!!」


ぎゅっ、がぎゅうぅぅっ、になる。


「俺が好きなのは緒都だけ。今までも、これからも、永遠に。」

「空……。」

「ほら、これ。」


空の手に現れたのは、ミニブーケ。


「沙梨亜が花屋でバイトしてるって言ってたから、俺がお前の好きな花、ストックしといてくれって頼んだんだ。」

「それだけ……?」

「それだけ。……嬉しいな、妬いてくれたんだろ?」

「妬く前に、すっごく不安になったよ!!」

「……悪ぃ。」


もう止まんない。

止まんないよ。


涙があふれて、あふれて、私と空の間に落ちていった。

空は、それを一瞬見て、

私をぎゅっとして、頭を撫で始めた。

大きくて優しい空の手は、とっても暖かかった。

──まるで、本当の、


「大丈夫。もう絶対、離れないし離さないから。」


空みたいに。


「サヨナラなんか、言わせない。」

「空……お願い。」

「緒都?」

「そばに、いさせてくださいっ……!!」


ふぁさり。


私の目の前に、ミニブーケが差し出される。


「あ……!!カナリーグラス!!」

「これは、お前の誕生花だよな。」

「うん!!」


随分沙梨亜の影響で、花の名前を覚えた。

これは、


アルストロメリア、ブルーファンタジー、カルミア、ヘリオトープ、

カナリーグラス、

チューリップ。


「チューリップ、無理して入れて貰うの大変だったんだ。」


少し照れながら、空が言う。


そうだ。

赤・白・黄色のチューリップの花言葉は、“私は、あなたの美しさに夢中”。


「ありがと、空。」

「あぁ。……ったく、いい加減泣き止めよな、緒都。」

「昔は空の方が、泣き虫だったのにね。」


無理して笑顔を作って、胸の奥の奥の苦しさに気付かれないように、ブーケをぎゅっとして。

でもそんなささやかな努力も、無駄だったみたい。


「無理させたのは俺だから……まず、ごめん。でもさ、俺、ちゃんと戻って来たから。だから、今はもう、無理しないで泣いてくれないか?」


止まった涙腺は、もう一度崩壊。


「ごめんな、緒都。」

「ううん……ううん……!!ありがと、空!!」


ぎゅってして、ぎゅってされて、

泣きじゃくって、泣いて、泣いて、

泣き疲れて、空に寄りかかっていたら、空が優しく、私の髪をすき始めた。

この柔らかい感じが、昔からずっと好き。


なんだか妙に懐かしくて、

あぁ、空が帰って来た、って思えた。


ふと、思いついて聞いてみる。


「ねぇ、空、何か変わった?」

「へ?」

「今日の空、おかしい……。私の知ってる空じゃないみたいだよ。空は、こんなに饒舌じゃなかった。」


でも、そうして返ってきた言葉に、私はまた幸せを感じることになる。


「ちょっとだけ、強くなって帰って来れたのかもな。」

「え……?」

「緒都を守れる位、強くなりたかったんだ。だから、強くなって、戻って来た。本当に強くなれたか、分からないけど。」

「空……大好きだよ!!」

「緒都……。俺も緒都が大好きだ!!」


あんなに引っ込み思案で、人見知りで。

そんな空が、私を追い抜いて行っちゃうみたいだ、なんて。


「なんか少し、ズルい気がするけど……、空は強くなったよ。」

「そうか?」

「うん。昔は空、こんなんじゃなかったもん。」

「それは緒都もだろ。」

「え?」

「凄く綺麗になった。」

「そう……なの?」

「そうだよ。俺、どうしたら良いか分からなくなったんだぜ。」

「そう、なんだ……。」

「照れるなっ!!俺も困る!!」

「って言われても〜〜!!」


顔を見合わせて、笑顔になれて。

うん、幸せが戻って来た。


「空、幸せをありがとう。」

「緒都、愛をありがとう。」


私達の世界は、

私達の幸せは、


ここから始まる、


君に伝える恋物語。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ