-始まり-
迂闊だった。
俺がいつも買っている週刊誌の特別号が、今日販売日だということを忘れていた。
俺たち中学生にとって、週刊誌の話題は最も重要なもので、それに追いつけない者は仲間からハブにされて 、一生の不覚となる。
たったそれだけで?
そう思う人もいるかもしれないが、中学生にとして生きている俺たちにとっては、当たり前とも言えるセオリーなのだ。
話は元に戻すが、その特別号の発売日を忘れていた俺は今、とてつもない危機に面している…。
金がない…。
その雑誌の情報は何度か週刊誌でも報告していたのだが、それを忘れていた俺は、先日友人と一緒にゲームセンターへ行ったとき、金を使い果たしてしまったのだ。
心残りというか、何かもやもやとした思いがあったが、何とかなるという単純な考えから、何の躊躇もなく夏目漱石を両替機へと与えてしまったのだ。
「今日、特別号の発売日だね」
学校からの帰り道、友人Aのその言葉で、俺はその事実を思い出した。
「忘れるわけないじゃん。もちろん買うよな?」
無情にも友人Bが俺に質問した。
「あ、当たり前だよ。俺は一ヶ月前から買う計画をしていたんだぞ!」
プライドというのは、時として主人の心をズタズタに傷つけることがある。今回がそのパターンだ。
「じゃあ明日話しような」
「ああ。今から楽しみだよ」
友人A、Bは笑顔で言葉を放った。
普段なら、彼らの笑顔があると嫌なことがすべて晴れるほどの特効薬があるのだが、今日のその微笑みは俺を見下すようで、かなりのストレス元であった。
学校が終わり、女の子にモテるからという理由で入部したバスケット部のやりたくもないトレーニングをやったあと、家に帰って部屋中のありとあらゆる場所をあさった。
三百五十円。
それくらいの金額が、俺をこんなにも苦しめるとは夢にも思わなかった。
数十分探して発掘できたのは、百円玉が三枚、五十円が一枚、十円玉が七枚、それに一円玉が十七枚。しかし雑誌の値段には当然及ばない。
誰かに金を借りようと考えたが、共働きで両親は家にいないし、一人っ子で兄弟もいない。
父方の祖父母の家は遠い田舎にあり、かといって母親の実家も車で三十分はかかる場所にある。
友人に借りるなどというのは、自分のプライドが許すはずなかった。
ここで質問である。読者の中で「立ち読みすればいいじゃん」と思った人もいるだろう。
まったくその通りである。
「そうだ! 立ち読みをすればいいんだ」
俺はハッと気が付いた。別にお金がなくても立ち読みさえすれば、金を払うことなく雑誌の内部を見ることが出来る…。
俺は頭がいい。
そんなことを考えながら、俺は家の外へ出ることにした。
家から二分ほどで、町内一の広さを誇る本屋『川嶋書店』に着いた。
俺は店内に入り特別号を探した。
探しているとき、レジにいるスキンヘッドで目の鋭い店員と目が合った。
俺がこの書店を訪れるとたまにいるその店員は、まるで極道の世界を渡り歩いたかのような殺気があるので、俺たち町内の中学生の間では、ちょっとした有名人だった。
「やばいな。立ち読みがこんなに難しいなんて」
そこで俺はあることに気が付いてしまった。
皮肉にも俺が探していた特別号が、スキンヘッド店員がいるレジの目の前に置かれた棚の上に置かれていたのだ。
血の気が引くとはこのことであろう。
身体中が一瞬凍りついたように冷たくなった。
そこで立ち読みをするという行為は、まるでいつ爆発するかわからない爆弾も目の前で立ち読みをするくらい危険な行為だった。
一度帰って計画をたてることにしよう。そう考え俺はスキンヘッドに別れを告げるようにレジを通り過ぎ外へと出て行った。




