瑠璃華の身代わり 壱
家具の配置を直した私は、障子を開けて廊下で待っていた満那斗と弥月に声をかける。
「ごめんなさい。もう大丈夫」
私が硬い声でそう言うと、二人は私の方に近付いてきた。
「葵月桜様、どうなさったのですか?」
弥月の言葉に、私は答えられなかった。弥月が両親に漏らすことはないだろうが、あやかし使いだと告白した途端に態度を変えられたら嫌だ。恐れ敬うような態度で接されたくない。
「何でもない。本当に、何でもないの」
あんな狂ったような所を見てしまった弥月には信じられないかもしれないが、これだけは押し通さなければ。私の訴えるような視線が届いたのか、満那人と弥月は顔を見合せて頷いた。
「さ、戻りましょう」
私は乱れてしまった着物の胸元を直して歩き出した。もちろん、向かう先は大広間だ。三人で大広間に戻り、自分の席に座ると父が上座から私を鋭い瞳で見ながら口を開いた。
「今日は、妻を一人も囲っていないが呪いがかかっていると噂のあのあやかし使いに瑠璃華が嫁入りしないことを祝う宴のためにお前たちを集めた。もちろん、嫁がせないと我が家の品位が下がるのである女を身代わりの花嫁として嫁がせようと思う」
父の言葉を聞いた瞬間、私はビクッと反応してしまった。だって、その身代わりの花嫁って、絶対に私のことだから。
「忌々しいが名前を呼ばねばなるまい。葵月桜。忌み子であることを相手に知られず、瑠璃華の振りをして、我が家に益のあることをするため、あやかし使い・西ノ宮椿に嫁げ」
(こんなにひどいことって、あるんだ。あやかし使いは番うことができるが、その場合多くの人が犠牲になる。私はそんな、殺人鬼にはなりたくない。この家で、このまま、ひっそりと暮らしていくんだと思っていた。なのに……)
あやかし使いに嫁がなければならないなんて。私は絶望のあまりしばらく言葉を発せられなかったが、数秒後にようやく小さな声で「……はい」と呟いた。
翌日、離れでいつも通り部屋に飾る動物の形をした毛糸人形を作っていた私は、突然三つ編みにした黒髪を持ち上げられた。振り向くと、そこには瑠璃華がいた。
「何の用ですか?お姉様」
私が編んでいた愛の人形を縁側に置くと、瑠璃華は話し出した。
「あなたの未来の旦那さまの噂、聞かせてあげようと思って。気になるでしょう」
「はい。ここには外部の情報が一切届きませんからね」
私が冷ややかな声で返すと、瑠璃華は意地の悪い笑い声を響かせた。
「良かったわね、情報を知ることができなくて。ちなみにそのあやかし使い様は屋敷に来た人間を全て追い返し、使用人にもひどい当たり方をするとか。もちろん花嫁はいないわ。だって、女嫌いなんだもの」
かなりひどい噂のようだ。でも、会ってみないとそんなことは分からない。私は敢えて前向きに考え、瑠璃華に微笑みを向けた。
「ありがとうございます、お姉様。旦那さまの噂を聞かせてくださって。本当に助かりましたわ」
私がそう言うと、瑠璃華はふんっと言って離れを出ていった。それを見届けた私は愛の人形を編みながら考える。
(どうにかして、嫁いだ家から脱出できないかしら。あやかし使いの夫なんて、仲良くなることもできないわ)
私は穏やかな太陽の光の元、悶々と考え続けた。




