あやかし使いの欠点 壱
「我が息子に何をしている?このあばずれ。どこの手の者だ?」
「あばずれとは何でしょう。娘を娘とも思わない人でなしの老いぼれさん」
私が遠慮なく罵ると、私の手首を掴む手に力が入ったのが分かった。
「何だと?私を罵倒するな。この忌み子め」
「は?人が何もしていないのにたまたま忌むべき年に生まれてしまったからって離れに幽閉したあんたの方が忌み子よりも質が悪いと思いますわ」
私が感情の籠らない笑みを向けると、その後ろにいた母と思しききつめの美人が袖を口元に当てた。
「ま、嫌な女。やっぱり瑠璃華を花嫁に選ばなくて良かったわ。あんな嫌な噂だらけの男にこんなに素晴らしい女性の瑠璃華を嫁がせるわけにはいかないわ。その点お前はお似合いね」
「えっ?どういうことですか?」
ここに来て私は戸惑いを感じた。今日は瑠璃華のお祝いじゃないの?
「あなた、流石に説明してあげたら?あんな男に瑠璃華の身代わりとして嫁ぐんだもの」
意地悪くそう言った母に、私は不信感を抑えられなくなる。
「お姉様の身代わり?お母様、何を仰っているのですか?」
「私を母と呼ぶんじゃない!」
あり得ない速さで、母の閉じた扇が私の頬をぶった。痛い。頬が切れたのを感じる。生ぬるい液体が頬を伝う。血だ。まずい、これじゃあ殺欲が反応しちゃう。あやかし使いの欠点。それは殺欲という人を殺したい衝動を抑えられないことだ。殺欲は自分や他人の血を見たり匂いを嗅ぐと反応し、同じあやかし使いに出会って少し身を触れただけでも反応する。あやかし使いだってバレたくないのに。私が何とか理性を保って耐えていると、満那斗が私の手を取って立ち上がった。
「父上、母上。葵月桜お姉様の具合が悪そうなので、一旦廊下に連れていきますね」
父と母は私を睨むと、満那斗に優しく頷いた。
「満那斗……」
私が掠れ声で名前を呼ぶと、私の可愛い弟はニコッと笑ってくれた。
「姉さん。大丈夫だから」
私たちは大広間から離れた満那斗の部屋に行った。
「み、満那斗……大丈夫だから、他の部屋に行って」
私がうずくまりながら手で満那斗を軽く押すと、彼は私の背中を優しく擦ってくれた。
「大丈夫じゃないでしょ?どんな事情か知らないけど、側にいさせて」
駄目。あなたは、誰よりも大切な、大切にしてきた私の宝物なの。だから、傷付けたくない。
「駄目よ。出ていって。お願い」
自分の爪が鋭く伸びていくのが分かる。もう、抑えられない。私が「出ていって」と言い続けると、満那斗は不満げな顔をしながら廊下に出ていった。私はついに我慢できなくなり、満那斗の布団を爪で切り裂き、歯で引き裂いた。自分が自分でないようだ。そんなことを思いながら私は周りの家具をできるだけ力を抑えてなぎ倒していく。そこで障子が開いた。入ってきたのは弥月だった。
「葵月桜様!?どうなさったのですか!?」
人を見ると襲いたくなってしまう。来ないで!私はそう言おうとしたのに、口が言うことを聞かない。
「コ、ナ、イ……」
私が片言で出来る限りの言葉を発すると、弥月はそっと頷いて廊下に出ていく。私はしばらく胸を押さえて耐えていたが、爪が元に戻ったのを感じて家具の配置を直し始めた。




