【3-3-1】同系
「……えっとさっきまでとは景色が一変してるんですけど」
辺り一面雪景色。いや本当に文字の如くで吹雪のせいで目の前は真っ白だ。これが旅行やら観光なら、わー雪だーなんて楽しむところなのだが、今まさしく外にいて顔で雪を受け止めている状況で、なおかつこの中を進んでいかなければならないとなるとちょっと洒落にならない。
「……くそなんでこの私がこんな目に」
ぶつぶつと呟きながらにリムさんもノソノソと歩いている。
「あははは……。これは思った以上ですね」
レナードの虚しい笑い声が風に飲み込まれていく。いやしっかし本当にきついし寒い。歩くのは勿論億劫だし、みんなモコモコの耐寒防具を着ているのに全く意味をなしていない。風も台風の時の様な強さで身体が吹き飛ばされそうだ。
「――ああ! リムさんが!!」
早速その風に煽られて、目の前にいたリムさんが飛ばされている。
「ちょっとレナード手伝――」
後ろを歩いていたレナードを見ると、雪に埋もれ始めている。あはは人工雪だるまだー、なんていや言ってる場合じゃない!
「――ちょっともう二人とも!!」
街での準備が終わった後に私達は再度馬車に乗り、山の麓のあたりまでは運んでもらった。そのあとは馬車では入り込めないために自分の足での行軍だ。
ディーヴァヌ山脈自体は非常に標高が高い山脈であり、中腹からは雪が積もっていることも分かっていた。しかし、まさかこんな強い吹雪になるとは……。
私達はたまたま見つけた岩穴に避難する。ここまで吹雪が強くなっては先に進むのも危険だ。見たところ奥は行き止まりにはなっているが、三人で入る分に問題はない。状況が落ち着くまでここで様子見をしよう。
私は周りに落ちていた枯葉や枝を集める。湿気ってしまっているかと思ったが、なんとか火がついてくれた。パチパチと音を鳴らしながらに立ち上る炎を見て、なんだかホッとする。私達は三人で炎を囲み暖を取ることにした。
「あーあったかい……」
「本当ですね……。でもスーニャ先ほどはありがとうございました。危うく埋もれる所でしたよ」
「いや、ね。でもレナードもリムさんもひとまずよかったよ」
ちょっと本当に大変だったけれども、まあ付き合ってもらっているのは私だ。文句を言える立場でもないしむしろ二人にはついて来てくれて感謝している。
「……この私をこんな目に合わせるやつなど、いつ以来だろうな」
リムさんが珍しく虚ろな目をしている。相当応えたのだろうか。まあ失礼な話し、普段リムさんはインドア側だし山登りなんて絶対しないだろう。
「……スーニャ。覚えておけよ」
「え、私? いやいやいや」
ジロリとリムさんに睨まれる。私だって好きでこんな状況の中で進んでいるわけでは……。
その後もなかなか吹雪も止まないようで、私達は雪を溶かして白湯を飲んだり食事を取ったりと自由に時間を過ごす。
他には特にする事もないので自然と仮眠でも取ろうかとの話になった。ただ目を瞑ったところで中々寝付くことも出来ない。私は二人が休んでいるのを確認しつつ、音を立てぬように出口付近で外を眺め時間を潰すことにした。
今更だが前世を入れても雪に触れるのは初めてだった。転生した後もパラパラと雪が降るのを見たことはあったが、ここまでのものを見たことはない。
私は雪を手で取り掌でもて遊んでみる。体温から少しずつ水として溶けていく。やがて雪はなくなり、水もまた手のひらからこぼれ落ちていく。私はそんなことを意味もなく何度か繰り返していた。
「雪がお好きなんですか?」
声をかけられてビクッと身体が強張る。
「……起こしちゃったかな?」
『いえいえ、たまたま目が覚めまして』とレナードがこちらへと寄ってくる。
「スーニャは、最初雪を見た時に喜んでいましたね」
確かに私はこの山を登るにあたって少しずつ増えていく雪に喜んでいた。そんな私を見てレナードもリムさんの二人は怪訝そう顔をしていた。
「ほとんど初めてみるものだったからね。レナードは雪好きじゃないの?」
「……どうなんでしょう。雪の事を好きも嫌いもあまり考えたことはありませんでしたね」
「そっかそっか。じゃあ見たことは自体はあるんだ?」
「ええ。ありますよ。あまり、良い記憶もありせんね」
そう言われると、雪についての話は聞き辛い。私はただ『そっか』なんて言いながらに再度外を眺める。
まだまだ吹雪は止みそうになかった。
「……今まで気にはなってたんだけども、聞いてもいい?」
「はい? どうぞ?」
「……レナードは、なんでラフェシアに潜入してたの?」
ずっと疑問に思っていたことだ。ただなんだか聞くタイミングがなかった。
「……そうですね。初めにお伝えしたとおり、リム様の指示ですね」
「でも、リムさんて別に情勢に興味が強いわけでもないでしょ?」
レナードが私の言葉に頷く。ただそうすると理由が分からなかった。私の思いは理解しているのか、レナードが説明をしてくれる。
「リム様はあくまで、自分の研究に役立てるために僕を派遣したんですよ。僕がラフェシアにいることで情報が入りやすくなりますからね。賢人であったり、亜族であったり、はたまたモンスターであったり、普通の人では手に入らない情報を得られましたから」
それは確かにそうか。特にラフェシアは戦争の機会も多い。リムさんにとってはうってつけな国であったというわけだ。
「……その結果、あなたの里を襲ったことを許してもらうつもりはありません。ただ改めて謝罪はさせてください」
レナードから頭を下げられる。私はそんなつもりではなかったと慌てて頭を上げさせる。
私は彼に対してなんというべきか言葉がうまく見つからなかった。そんな私の様子を見てレナードは分かっていますよ、とでも言いたげな微笑をしていた。私はなんだか居た堪れなくなり話を切り上げる。
「……あーもうやめやめ。なんだか変な空気になっちゃったし私も少し寝させてもらうかな」
元々横になっていた場所にバタバタと戻り毛布を羽織る。
「ええ。お休みなさいスーニャ」
返事もせずに目を瞑る。それでも中々寝付けなかったが、それなりの時間が経った頃にようやく私は意識を手放した。
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