【3-2-2】
「ね〜レナード後どれくらいで着くかなあ〜」
「えーと、あと五日くらいでしょうか。ラフェシア内は比較的道が整備されてますからね」
いやまだ後五日あるのかとげんなりする。最初は良かった。青々とした草原、屹立する森林、黄色一色に染まった一面の花畑。全てが新鮮でこれぞ冒険と興奮したものだ。現れるモンスターもまたその醍醐味と思っていた。
しかしそれも何時間も何日も繰り返されると流石に飽きがくる。特にラフェシアに入ってからというもの景色がある程度似通ったものが続いている。気候が近しく安定しているということではあるのだろうが、長旅には向かない国だなんて悪態をついてしまう。
「流石にちょっと飽きたなあ……」
「ふふっ。長旅にはつきものの悩みですね」
レナードは慣れたものなのだろう。平常時と様子が変わっていない。リムさんの様子を見ると、一心不乱に書物を読んでいるようだ。流石に長い生を有する存在。時間の使い方も慣れたものなのだろう。
さて私はどうしたものかと思案する。魔法の訓練をしようとも思ったが、馬車場では実際に魔法を放つ訳にもいかず、出来る事は限られていた。もちろんイメージトレーニングや肉体強化の練習は続けている。ただそれもずっと続けられるものでもない。私が出来るのはやはり外を眺めることくらいしかすることはなかった。
「――あれ? あの二人ってもしかして……」
まだ距離はあるが前方に男女の二人組がいる。そしてその2人には見覚えがあった。私達は距離が近づくと馬車を降りて彼らへ話しかける。
「スタン! 久しぶりー!」
私の声に驚いている。相変わらずの金髪ボサボサ頭だ。前会った時と全然変わっていない。ただ前の時は4人組だったはずだが今は二人になっていた。
「スーニャさん! お久しぶりです!」
相変わらず元気そうで安心する。ただ若干痩せただろうか?
「スタンもニーナも元気にしてた? 久々だねー」
「ええおかげさまで。スーニャさんの噂は聞いてましたよ。不死鳥だけじゃなくて祖龍も討ち取ったって! すっかりギルド内では有名人ですよ」
ああそれは確かに話が回っていてもおかしくはない。自分の手柄だけではないのだけれども。
「もうCランクなんですよね? 負けてられないなあ」
「いやまあ、ね。でも前に一緒にいた人たちはどうしたの?」
あまり深掘りされても困るので慌てて話題を変える。確か人族と獣人族のパーティだったはずだ。ただ私の質問で彼は若干顔を曇らせる。
「ええ。そうだったんですが、今は人族も亜族も大変でしょう? とても一緒に冒険をしていられる状況ではなくて」
私は彼の言葉を聞いて浅はかな発言だったと後悔する。確かに先の戦争は双方酷い被害が出ている。その二人「 にも知人や家族もいたはずでそれどころではないのだろう。
「そっか……」
なんと声を掛けるべきかと逡巡する。ただ彼も私の反応を見て察したのか笑みを浮かべていた。
「あはは。スーニャさんが気にする事ないですよ。それに周りの状況はともかくまた一緒にパーティを組める日が来るって信じてますよ」
改めて好青年だなあなんて感心する。そういえば彼らはどこから来たのだろう。何かの帰りだろうか。
「二人はクエストか何かの帰りかな?」
「ええ。最近はモンスターの討伐依頼も多くてそれの帰りなんです。今からはバルディアへ向かおうかと思ってるんですけどね」
マーニャさんも言っていたようにそこかしこで綻びが出ているようだ。ふと、スタンの首元に目が行く。そこには、ニーナと同じ首飾りがあった。
「あれそれって?」
「あ、これですか? 僕も実はアヌ教に入信したんですよ! ニーナの勧めもあって」
隣でニーナもうんうんと頷いている。確かに今の情勢では心の拠り所も必要だろう。
「今はこんな世界なので、入信者も増えているみたいですね。僕も改めて話を聞きましたが良いものですよ」
『ぜひスーニャさんも宜しければ』なんて言われるが、機会があればーとやんわりと断る。元々あまりそういった類いに興味はないし、詳しい教えは知らないが私の行いはそもそも彼女達に迎合出来るとも思えなかった。
ちらりとニーナの首元が目に入る。そこには花、いや鳥のタトゥーだろうか? が施されていた。前には無かったように思う。私の視線が気になったのかニーナが照れた表情を浮かべる。
「こちらが気になりましたか? これはアヌ教の神様の象徴なんですよ。こうすることで身も心もアヌ神の教えとともにいられるんです」
熱に浮かされたその表情は申し訳なくも若干不気味に感じる。そんな私の顔を見てスタンが再度苦笑いを浮かべていた。
「……人族も大変な被害でしたからね。これで元気になるならまあいいかと」
ボソッと私に聞こえる程度の声量で呟く。ああ彼も苦労しているんだなあと思う。
「そういえばスーニャさん達はどちらに?」
「ああ、私達はディーヴァヌ山脈に用があって」
「えっ?」
ニーナが私の回答に反応してくる。はて何かあるのだろうか。
「ディーヴァヌ山脈はアヌ教徒も訪れる場所なんですよ。山脈を越えた先はもうフクローランですからね」
確かにフクローランとは目と鼻の先で、彼らにとって神聖な場所として扱われていてもおかしくはなかった。
「私も何回か訪れたことはあります。アヌ神が作られた大地の跡がそのまま色濃く残っていて、巡礼に訪れる人もいるくらいなんですよ」
だいぶ険しい山々の印象だが、確かにそういう目的には都合もよいのかもしれない。にしても危険だが。
「でもモンスターとかも出るんですよね? 普通の人には危ないんじゃ」
「もちろん護衛の方も付けてになります。それでも年間数千もの人が訪れているんですよ?」
その回答に素直に驚く。アヌ教の教えはこの世界に強く根付いているのだろう。それにそういえばこの世界ではアヌ教以外の宗教は聞いた事がなかった。
しかしそうなると、アヌ神の手足である太古の神々を倒す、というのは果たして看過されるものなのだろうか。
若干の疑問は抱きつつも、もちろんその話題を伝えることはしない。その後も私達は会話もほどほどに別れを告げる。またいつか会うことを約束しながら。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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