【3-1-5】
「シェスカはディーヴァヌ山脈の麓に位置します。その国から奥へと入っていく方が良いでしょう。他の地域から進むルートもありますが、目的が越境でなく、山頂という事であればそちらからの方がいいと思います」
……シェスカはガブリエットの故郷だったはずだ。彼が若干発言に躊躇があったのは、私と彼女の関係を慮ったためだろう。ただその考えは正解で私はアーガの事を一瞬忘れていた。もしかしたら彼女とも遭遇できるかもしれないと。ただまずは話を纏めないと。
「……それじゃシェスカからの登頂にしようか。ちなみに一緒にきてくれるって人はいるかな?」
正直我が事ながら自分一人では心許ない。可能なら誰か着いてきて欲しいのだけれど。
「僕が行きますよ」
早速声を上げてくれたのがレナードだ。私は内心ガッツポーズを取る。正直今回彼には来て欲しかった。シェスカ経由ということはラフェシアの領土を通ることを意味する。それであれば元ラフェシア幹部である彼の知識と経験は非常に有用だ。
「ありがとレナード。頼りになるよ」
『いえいえとんでもない』なんて言ってくれている。次に残りの三人へ私は視線を向ける。
「……美味しいの食べれないならパス」
「私も今回はやめておこうかな。レナードもいますし十分ですよ」
モノとジーに断られる。二人には先の祖龍討伐、特にモノは鬼人族の里にも同行して貰った。何度も頼むのも心苦しいために無理強いは出来ない。まあモノ本人は食べ物が重要のようだが。
それであればと残りの一人に目を向ける。状況を踏まえると彼女には来て欲しかった。具体的な位置や建物の様子、そして何よりアーガの事を知るのは彼女だけなのだ。断られたとしても何とか交渉するしかないだろう。ただ私の懸念は杞憂に終わる。
「……致し方ないだろうな。私が行こう」
意外な反応に私は目を丸くしてしまう。ただそんな私の反応を見てリムさんは憮然とした表情を浮かべていた。
「……まったく。なんだその反応は。感謝して欲しいところなんだが?」
「いええっと、まさか来てくれるとは」
今までの感触から見るに付いてきてくれるとは思わなかった。そのためにお礼よりも先に驚いてしまった。
「ふん。私とて行きたくなどない。ただ今回は少し事情が事情だからな」
「それはアーガの事ですか?」
彼女が気にしているのはアーガの事で、私達が接触するのに何か気になることでもあるのだろうか。
「アーガの事だけではない」
「というと?」
山脈が危険であることが理由とか? いやでもそれくらいであれば、私達だけで行ってこいと言うだろう。他に何か理由があるのだろうか。
「……そこは、ギィのテリトリーだ。もし何かあった場合相手できるのは私しかいないだろう?」
ギィ=フクローラン。太古の神々の長姉。話を聞くとどうやら彼女はフクローランを統治しており、ディーヴァヌ山脈はその領土内であるのだとか。……やっぱり結局は太古の神々が世界を支配しているように思えてならない。
しかしもしそのリムさんの姉が現れ、争う事になどなったらそれこそ殺されてお終いだ。そうなると確かにリムさんに助けて貰う他手段はなかった。
「……まぁ念の為だ。万に一つも奴に会う可能性はないさ」
いずれにせよ彼女が来てくれるのであれば、私としては文句などない。
「ありがとうございます。私もリムさんに来て欲しいと思ってたんで心強いです」
感謝の言葉を伝える。ただリムさんはフンと鼻を鳴らすだけで食事を再開した。
これでルートもメンバーも決まった。あとは荷の準備を進めて出発するだけだ。私達はその日はそのままに食事をとり、各々の時間を過ごす。翌日から私達は旅の準備を始めた。
「山脈内で使用する道具はシェスカで工面しましょう。今手元で用意するよりそうした方が確実ですし、荷物も少なくなります」
何を持っていくかは事前に相談した上で決められた。レナードの言うように、目的であるディーヴァヌ山脈登頂のための必要品はシェスカで買い揃えることになった。私達が持っていくものは通常の旅の道具類一式、それも必要最低限だけだ。
今回の旅はまずバルディアに行き、不足している旅の食料や装備を買い揃える。そして雇った馬車でシェスカへと向かう。順当にいけば全部で十日も経たずに到着できるという日程感だ。ある程度の方針が定まったあとはバタバタと準備に勤しむ。といってもそんなやることもないのだが。
あらかたに準備を終えてあっという間に出発の日を迎える。私達は荷を背に持つ。
「それじゃ行きましょうか」
私がレナードとリムさんの二人に声を掛ける。
「ええ。よろしくお願いしますスーニャ」
「……私の荷物はスーニャが持てよ?」
「えー……」
結局話し合い私とレナードでリムさんの荷物を分け合うことにした。
「スーニャ。くれぐれも気をつけて下さいね? 魔法の練習もほどほどにね?」
「うん。ありがとジー。帰ってきたらまた教えてね」
ジーには移動中どのように魔法を訓練すべきか相談をしていたのだ。手元で出来る簡易的な方法など教えて貰った。暇を見つけては練習するようにしよう。
「みんなー気をつけてー」
「はーい。モノもあんまりダラダラし過ぎないよーにねー。ジーの手伝いとかするんだよー?」
一応釘を刺しておく。私達がいなくなったらジーは家事やら何やらで忙しく働いているのだろうが、モノはだらーんとした生活を送る未来しか想像できない。
「……はーい」
返事はするけれど私の顔は見ていない。あこいつやる気ないな。まったく……。
「あスーニャお願いある」
「ん? どしたのモノ」
「お土産期待してる。甘いの」
ブレないモノに思わず苦笑いをしてしまう。でもまあいいだろう。私は彼女の頭を撫でながらに『じゃ、とびっきりのやつね』と伝える。モノも私の回答に満足げな表情を浮かべていた。
そして私達はまずバルディアへと出発する。今回は前よりも長旅になりそうだ。
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