【3-1-3】
再度リムさんと向き合う。今度は最初から全力だ。私は肉体に魔素を込めて彼女へと突進する。彼女はというと普段と変わらず悠々と構えたままだった。
剣を振るう。避けられる。相手に向けて蹴りをだす。避けられる。炎を放つ。払われる。……いやこれどうしろっていうのか。
「前よりも動きは良くなっているな。ただワンパターンだぞ。それでは私に当てる事は出来んな」
肉体強化だけでない。剣技だって魔法の扱いだって以前よりも良くなっているはずだ。ただそれでも足りない。
それであればと、彼女に手を向ける。
「む? 何か新しい攻撃か?」
「ええちょっと試してみたくて」
彼女は若干楽しみにしているようだった。ご期待に沿えるといいのだが。私は手に魔素を集中させる。そしてそれが手から放たれるイメージをする。例の魔素ごと放出する攻撃だ。何回も練習して一定の扱いは出来るようになっていた。
私の攻撃はそのままにリムさんに当たる。油断していたのかリムさんは後ろへと吹き飛んだ。
「……ほう。これも出来るようになったのか。いいぞ。もっとみせろ」
あやばい。リムさんがやる気になられておられる。まだそんなこれ単体だけでは出来ることも少ないのだけれども。
私達はその攻撃を織り交ぜつつ、戦いを続ける。それ自体は有効なようで、リムさんも避け辛そうにしていた。ダメージを与えるという所までは至っていないものの、この結果は思った以上のものだ。改めて特訓しておこう。
「他には何かあるのか?」
「いーや、これで打ち止めです」
暫くやり合った後、満足したのかリムさんが話しかけてくる。実際この他の攻撃は持ち合わせてはいなかった。やはり何かしらの攻撃手段を身につける必要がある。ただそれが何なのかはまだ答えが見つかっていなかった。
「なるほどな。ただ以前よりも随分と上達したじゃないか?」
「ええ。それはそうなんですが……」
それは本当にその通りだ。前とは雲泥の差だろう。だがこのままでは足りない。あとひと押しなにかあればいいのだが。
「今の所何か他種族を、というのは無いですよね?」
若干気になってはいたのだ。ただ話はなかったので私もあえて聞いてはいなかった。
「それは移植を、という意味であってるな?」
彼女の問いに頷く。
「今貴様に与えたのはこの世界でも最高峰のものだ。ある点ではそれぞれが私達を凌駕する」
確かに彼女のいう通り、アンジェルならその回復力を、カイリならその魔法の素養を、ジンやディアさんもそうで、一部分においては太古の神々に劣るものではないはずだ。
「やりようによっては私達を超える事が出来るはずだ。ただ貴様はまだその力を上手く扱えていないだけに過ぎん」
バッサリと言われる。その通りなんだが若干凹む。
「……つまり今の所は何か移植することは考えていないと?」
「ああ。今の状態では追加で何をすればいいのか判然としていないからな。下手に移植して失敗してもつまらん」
彼女の言う事は至極真っ当だ。ようは考えろと言う事だろう。ただその解決策が見当たらないので困っているのだが。
――あ、一つ思い出したことがあった。
「そういえばリムさん。ーーアーガってご存知ですか?」
リムさんが目を丸くしている。珍しい反応だ。
「……知っている。それがどうかしたか?」
「いえ、ククルに教えて貰ったんです。アーガって賢人がいて会ってみると良いって」
ククルから受けた情報は本当に一部だけだ。あの一瞬で耳打ちされただけなので致し方ないだろう。リムさんにも聞いてみようと思っていたのだが今までバタバタとしていて忘れていた。
「……ククルがそう言っていたのか?」
「ええ。そうですけど」
『そうか』と言葉を溢し、少しの間黙り込む。何かまずい話題だったのだろうか。
「……確かに奴なら詳しい話を出来るかもしれんな」
『なるほど適任だ。しかしヤツは……』とぶつぶつと呟いている。私は話を続ける。
「結局アーガってなにものなんですか?」
私の言葉でリムさんもこちらに意識が戻る。
「……そうだな。端的に言えば、私達の次に最初に産まれた賢人だ。だからこそこの世界の誰よりも私達との関わりは長く深い」
それは思った以上に理想的ではなかろうか? 今よりも情報を得ることが出来るかもしれない。
「じゃあぜひその人に会わせて貰えないですか?」
リムさんも知っているのであれば話は早い。もし今いる場所も分かればいいのだが。しかし私の期待に反してリムさんは渋い顔をしていた。はて何か懸念があるのだろうか。
「えっと、どうされました?」
「アーガは賢人であると同時に、もう一つの側面がある」
彼女は思い出すように遠くを見つめながらに話している。その様子は過去を懐かしんでいるようでもあった。
「……過去の歴史上、人族であったり、亜族であったり、大なり小なり争いが絶えたことはない」
「え? えっと、はい。ただそれがなにか?」
時代によって増減があるとしても、人族と亜族、その他の種族間でも、争いは絶えることはない。それは異種族間だけでない。同じ種族内でもそうだ。しかしそれが今の話とどう関係するのだろうか。
「ただ我々神々に反逆するものは少ない」
「……いや少ないというよりいないんじゃ?」
そういう話は過去の逸話からも聞いた事がない。少ないという表現は適切ではないだろう。
「いや、歴史上で唯一私達に反逆した存在がいた。……それがアーガだ。ヤツだけは私達に対して明確な敵意と殺意を持っていた」
彼女の言葉に驚く。この世界の人たちはみな一様に太古の神々を信仰している。そこには種族の垣根も関係ない。だから、まさか敵対するものがいるなどとは思いもしなかった。……まあ私がそうではあるのだが、まさか前例がいるとは。
「それはその人とリムさん達で争ったと?」
ゆっくりと私の言葉に頷く。
「……その人はどうなったんですか?」
「決まりきっているだろう? ズタボロにされたさ」
まあそうだろう。賢人とは言ってもリムさん達には及ばない。アーガがどのように彼女達と争ったのかは分からないが勝つことは難しいだろう。
「でもまだ生きてはいるんですね?」
「ああ。……かろうじて、だろうがな」
何か含みのある言い方だ。ただ私はひとまずこの可能性に賭けるしかない。特に太古の神々を相手取ったということであれば、その点も興味深いものだった。
「それでその人は今どちらにいるか分かりますか?」
「分かるぞ。あの時から変わっていなければな」
この大陸には二つの大きな山脈が走っている。件のアーガという賢人はその内の片方。ここから北東部に当たるディーヴァヌ山脈にいるらしかった。
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