【3-1-1】アーガ
「――もう一度だ」
倒れていた身体を無理やり起こす。そして再度彼女へ向けて炎を放つ。
「いい熱量だが、少し足りんな」
その言葉と同時に炎は霧散していた。だがこちらも既に次に移っている。たとえ一瞬だろうと私の姿は視界から消えたはず。その隙を狙って彼女へと渾身の一撃を見舞う。一撃目は彼女に防御されるが、続け様に攻撃を繰り出す。
しかし、それでも彼女に至ることはない。
「……どうした? その程度か」
今度は彼女が攻撃を仕掛けてくる。突然身体に衝撃が届き、私の身体は後方へと吹き飛ぶ。彼女はゆうゆうと私へと近づく。
「ほらどうした。もう終わりか?」
勿論ここで終わらせるつもりはない。今度は炎だけでなく、氷や土系の魔法を見舞う。ただそれらでもダメージを与えることは出来ない。魔法系は彼女達にはどうも効き目が悪い。前に聞いた通りに生まれ持った性質なのだろう。
それであればと、私は魔素を使い身体を強化する。習ったばかりだが、試してみる価値はある。身体を伏せ勢いをつける。弾丸のように彼女へ剣を振るう。
ここで私の攻撃は初めて彼女へと至る。戦い始めてから一度も攻撃が有効打になることはなかったが、これが初めての彼女に傷を付けた攻撃だ。
「……いいぞ。それは中々だ」
彼女は攻撃を受けた部位を押さえている。ただ苦悶ではなく、むしろ喜びの表情が浮かんでいた。
「そら、続けるぞ。限界まで追い込んでもっと力を引き出せ」
私たちの特訓はその後丸一日続いた。
レオとの別れから、私は自分の力をコントロールすることに殆どの時間を費やした。ジーとレナードからは魔法の扱いを、モノからは白兵戦での戦闘方法を学んだ。
思ったよりもスムーズに進んだのは、やはりこの肉体のおかげだろう。素材自体は最高峰のものが積まれている。剣技についても姉のリムは堪能だったのだ。私が上手く扱えないはずもない。
ある程度学び終えた後、リムさんから『スーニャ、一度私と戦え。出来栄えを見てやる』と言われ今に至っている。彼女も私の事が気にはなっていたのだろう。
「ある程度は出来上がりつつあるな」
私達は特訓を終えて家の中で休憩をしていた。余裕そうにしている彼女に対して私はクタクタだった。
「……ありがとうございます」
椅子にだらんと身体を預ける。
「特にあの一撃はよかったぞ。魔素を込めた攻撃なら私達へも有効打になり得る」
そうは言っても、貴方全然余裕そうだったじゃんかと思いつつ相槌を打っておく。ただ確かにあの攻撃くらいしか彼女にダメージを与えることは出来なかった。
「でも、スーニャは上手く肉体強化も使ってましたね?」
そばで話していたジーが会話に加わってくる。確かに多少なりとも習った事が出来たのは成果だろう。
「うーん、まあ見よう見まねだけどね。ただ確かに使う事は出来たかな?」
身体に魔素を込めて強化するという技法は、この世界の強者においては一般的であるらしい。ガブリエットなんかも用いていたようだ。
「それで、使ってみた感想はどうですか?」
「うーん、やっぱり長丁場には向かないのかなあ」
自分に魔素を用いた時を思い出す。あの瞬間には身体は軽く感じて、想像以上の力が出たことは間違いない。
ただその後には、その反動からか身体中の痛みに襲われた。私はアンジェルの特性があるために、魔素切れというものも考えづらいが、普通であれば限りが生じる。確かに長時間の使用には向いてはいない術のように思えた。
「そうですね。どんな人でも短時間の使用というのが基本です」
「そうだよねー。そうなると、やっぱり強化をしていない時間を狙うのが妥当かな?」
臨戦体制でない限り強化が為されていないなら、それを使う前に倒すというのがベターだろう。ガブリエットもミームも正面切っての先頭よりは暗殺の方が都合がいいということか。
「うーん、でも実は――」
リムさんがジーの言葉を手で遮る。ここから先は自分が説明するとの意思表示だ。ジーもそれを察したのか言葉を止める。
「スーニャ。私達、太古の神々は常に身体に魔素が漲っている。つまり常に身体が強化されているようなものだ。だから貴様が言う不意打ちも意味を為さんぞ」
「……いや、それならどうしろと」
言葉の通りに頭を抱える。ガブリエットはともかくとしてミームには正攻法も、不意打ちも通用しない。だとすると打つ手がなくなってしまう。リムさんもリムさんで『さてな?』なんて考えてくれる様子もない。自分で何とかしろということだろう。
私はうーんと頭を捻りながらに考える。今回リムさんと戦った中では少なくとも魔法系は効かないことは分かった。なら私が今伸ばすべきはやはり白兵戦の部分だろう。
翌日から肉体強化と剣と肉弾戦での特訓がメインになった。
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