【2-9-4】
「じゃあ試しに私を浮かび上がらせてください」
ジーの指示に従ってイメージをとる。どうやら私は実際に身体を動かしつつやるとスムーズだとわかった。今もまたジーへ向かって手を伸ばす。
そうすると遠く離れたジーが突然宙に浮かび始める。つまりは私の魔素が思惑通りに働いているわけだ。私は彼女が怪我をしないようにゆっくりと下ろして息をついた。
「やりましたね! 無事に出来るようになりましたよー!」
ジーが喜びながらに私に近づいてくる。私もまたそれに応じる。彼女のおかげである程度は形になった。あとは戦闘に備えての応用を練習しておかないとだ。
それとは別に、ずっと気になっていた事がある。私の姉のリムが使っていた術のことだ。
あの方法は魔法とは異なるように思える。ただ今私が扱ったものともまた違う。それではいったいなんなのか。私はジーへ見たものを説明してみた。
「うーん? どうも聞いた限りでは魔法とは違うし、ただ魔素を扱った攻撃には似てますよね。でもお姉さんは魔素が殆ど無かったんですよね?」
そうなのだ。私もリムも魔素を殆ど持たずに生まれた。そのために自分の魔素を用いて、そんな事が出来るはずもない。
「……ちょっと考えてみても私には分からないですね。特殊なスキルか何か、というくらいしか」
『お力になれなくてすみません……』なんて言いながらにしょげている。私は慌ててそれを否定する。
「いやいや大丈夫大丈夫! もし分かったらくらいの気持ちだったから!」
彼女の頭を撫でつつ、私は明るい声で彼女に接する。ジーでも分からないのであれば致し方ない。今度はレナードやリムさんにも聞いてみよう。
私達はそれから程々に特訓をし家路へ着く。今日は山菜の採取がてらに少し遠出をしていたのだ。もういい頃合いだったし帰って諸々の家事もある。
さて今日の夕食はなんだろうななんて考えながらに家へと帰ると、まさかの人物に出会った。
その人はカイリの墓の前に佇んでいた。風に揺蕩うその金色の髪は見覚えがあるものだった。
ただ、まさかこんな形で再会することになろうとは。
「――久しぶりだね。レオ」
「……ああ。息災か? スーニャ」
私の声で彼女はこちらへと振り向く。
あのレオが目の前にいた。
立ち話もなんだからと隠れ家の中へ入るように促したのだが、彼女に丁重に断られた。どうもカイリの墓参りが目的であり、あまりゆっくりしていられる時間もないのだとか。まあ確かに忙しい身ではあるだろう。ここにくるのにも大分時間を割いたはず。
というかそもそもここに来て問題はないのだろうか? 確かにラフェシアやマグノリアから離れてはいるが。
「レオ。こんなところ来てて大丈夫なの?」
「ん? どう言う意味だ?」
「そりゃ人族の大将の一人が、こんなところにいちゃ何かと誤解されないの? って事だけども」
『なんだそんなことか』と笑われる。こちらとしては心配したつもりだったのだが。
「問題ない。今は少し暇を貰っている。それにここに来る事も誰にも言ってはいないし、無論つけられていないかも確認している」
『だから心配いらないさ』などと返される。まあそれなら別にいいのだけれども。ただなぜこのタイミングで来たのか、しかし尋ねる前にレオから話を切り出される。
「……スーニャ。インヴィーディアを倒したというのは本当か?」
さっきまでとは変わって真面目な表情をしている。なるほど私に用があったのだろう。それであればと包み隠すことなく答える。
「本当だよ。彼女は私が殺した」
私の回答を受けて、レオは表情が変わる事はなく『そうか』とだけ発して、ゆっくりと頷いた。言葉を飲み込んでいるような仕草だった。
「インヴィーディアがいなくなった影響は大きい。今や亜族は名だたる将がいなくなった」
確かに彼女の言う通りだろう。四大種族の長がそれぞれ消えたのだ。さぞ混乱が生まれているに違いない。
「……対して、人族はまだ無傷の軍、将を有している」
その言葉の流れから何を言うのかは、容易に想像が出来た。ただあまりにも性急ではなかろうか。人族にも被害は出ているし、用意も十分ではないはずだ。
「――私達は最後の決戦として、亜族へと攻め込む」
彼女も腹を決めたのだろう。その言葉には強い力が込められていた。
「……それをカイリに報告しに来たってわけ?」
「ああ。その通りだ。見守ってくれとな」
「そっか……」
私は思わず空を見上げる。青々とした空が広がっている。その光の強さに思わず顔を顰める。それでもまだその空を眺めていた。
「……じゃあ、次に会うのは本当に戦場かもね」
私は再度レオへと視線を戻す。
「ガブリエットとミームを打ち取れる機会なんて、普通ないからさ。だから私も参戦するよ。――貴方の敵として」
「ああ。お前ならそう言うと思っていたよ。そうなってほしくは無かったけれどな」
なんて、曖昧な諦めたような笑みを浮かべている。ふぅと一度息を吐き、そして顔つきが変わる。纏っていた空気もまた変わっていた。
「――スーニャ。貴様と次会うならば、その場その時に命のやり取りをすることになるだろう。私は躊躇いなく貴様を殺す。ゆえに貴様も相応の覚悟を持って掛かってくるがいい」
彼女の声と迫力に辺りの空気が飲まれる。私もまた彼女に気押される。これが本来のレオか。私は彼女の言葉に遅ればせながらに返答する。
「……ま、お手柔らかにね?」
私の回答を受けて、レオは苦笑していた。そしてその後には挨拶もせずに踵を返して去っていく。私は彼女の背中が見えなくなるまで見つめていた。
彼女が言った通り、次に会うのは戦場でその時には殺し合いになるだろう。ただそれも致し方ない。私の邪魔をするものは全て躊躇なく殺す。そう決めたのだから。
ガブリエットやミームと戦う日もそう遠くない。そんな予感が私の体を巡っていた。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
これにて第2部完結となります。明日からは第3部をお届けしますので、これからもお付き合い頂けたら嬉しいです。
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