【2-9-1】奔流
久々に帰った隠れ家はなんだか随分と懐かしく感じた。自然に帰ってきたなんて気持ちになっているのだから、不思議なものだ。
とにかく私達は家の中に入り、ひとまず休憩をすることにした。ジーはモノを寝室に連れていく。そのまま回復魔法を使ってあげるのだそうだ。私とリムさんは椅子に座る。ここにきて私はなんだかどっと疲れを感じた。
「スーニャ、無事で何よりでした」
声をかけてきたのは私たちが帰ってきたと気づき、パタパタと出迎えてくれたのがレナードである。今は私たちのためにお茶を用意してくれていた。
「うんありがとレナード。いやぁ今回は疲れたなぁ……」
「大変でしたね……。ゆっくりしてください」
レナードの言葉に甘えて机に突っ伏す。態度が悪いとは分かっていたものの、本気でちょっと草臥れた。少しの間くらい許してほしいホントに。
「スーニャ」
「……すみません」
リムさんに言われちゃ仕方がない。私はギギギと身体を起こす。
「いや違う。貴様、ククルに会ったのだろう?」
あれそっちか。でもそうか。ククルはリムさんにとっては姉に当たるために、気にもなるはず。
「はい。会いましたよ。会ってすぐに殺されましたけども」
「クククッ。そうか。だが無事に生き残れてるじゃないか。運の良い奴め」
「まあそれはそうなんですけども……」
しかしリムさんの方が妹なんだよなぁ。ククルと比べると全く妹感がない。姉なら分かるんだけれども。
「リムさんはククルのことは?」
そもそも二人はどういう関係なのだろうか。あんまり仲が良さそうなペアでもないけれども。
「私は面倒であまり関わりには行かなかったからな。そんな詳しくは知らん」
「えー」
姉妹でしかもそれぞれめちゃくちゃ長寿なのにそんなものか。
「ただやたら不安定なやつだったな。感情や力を上手くコントロール出来ないようで、お気に入りを見つけては壊してしまってよく泣いていた」
ああ昔からそうなのか……。ただそうなると壊れないアンジェルは確かに彼女にはうってつけだったろう。
「私達は一時期同じ場所で過ごしていた。随分と昔の話だがな」
レナードが出してくれたお茶を飲みながら話している。自分達の事を話すリムさんは珍しい。
「そういえば、ククルに貴方達を殺すことは出来るか聞いたんですよ」
リムさんが目を丸くしている。そしてすぐに笑い始めた。
「ハハハハッ。それでアイツはなんて答えたんだ?」
「殺せるって」
「ああその通りだ。私達は所詮ただの生き物で貴様らと何も変わらん。単純に、私達よりも強ければいい。それだけだ」
簡単にリムさんは言うけれども、そう簡単には行かないからこそ困っているのだが……。
「今回で竜の骨、鬼の筋を手に入れた。これで貴様の強さは今とは次元を異にする。――楽しみだ。私の理想にまた一歩近づく」
彼女の口元には笑みが浮かんでいた。しかし反面私はその自信に懐疑的だった。
「これで十分なんでしょうか……」
本心を伝えてみる。私の言葉にリムさんは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「む? どうした?」
「いえ……。私は今回この世界でも最高峰の人達と争ってきたと思ってます。ただあまりに歯が立たなくて……」
今回ヴェルグから始まったいくつかの戦いは、私が真っ向から戦って勝てたというものはあっただろうか。全てが他の人の力を借りたもので、独力と言えるものは無かったはず。だとしたら、本当にこのままミームやガブリエットを倒せるのだろうか。
ただ私の言葉を受けてのリムさんの反応は至極あっさりとしたものだった。
「それは当たり前だろう?」
何を言っているんだコイツという顔をしながらに私を見ている。その反応に若干私もムッとする。
「だって、私は不死鳥とエルフの力を継いだのでしょう? それならもう少し……」
不死鳥とエルフというのもこの世界では最高峰に近い存在のはず。その二つの力が合わさるだけでも相当な存在になるはずなのだが。
「……呆れた。貴様、自覚がないのだな」
「どういう意味ですか?」
はぁと大きくため息をつかれる。近くにいたレナードも苦笑いをしていた。
「スーニャ。貴様は既に化け物の領域に十分入っている」
「でもそれにしては……」
「殺されるたびに生き返っておいて、何が不服なのか理解ができんな。それに歯がたたんといったな?」
「ええだってそうだったんですよ?」
「それはまだ戦い方を理解していないからだ。その中で貴様は生き残り、ましてや敵を屠ってきたわけだ。これは傍目から見たら異常だぞ」
ただ、私はそれでも納得は出来なかった。その様子を見てかレナードが口を挟んでくる。
「スーニャ。次の手術を終えたら一度ゆっくり時間を作りましょう。貴方は強くなります。それこそガブリエットよりも」
そう、なのだろうか。強くなれるだろうか。ガブリエットに再開した時、血液が逆流しそうなくらいに身体が熱くなった。殺してやる復讐してやると、そう誓ったはずなのに。それを為すことは出来なかった。何をしていたのか、間違っていたんじゃないかと、疑問に思ってしまったことは嘘ではない。
「そうだな。確かに今まで戦い方を教える時間はほぼなかったからな。少し付き合ってやるか」
リムさんも勝手に納得したのか、うんうんと頷いている。いや貴方、戦い方は本番で学ぶものだとか言って全然関与しなかったじゃないですか……。
「……ありがとうございます。協力してもらってる側なのに勝手な事言ってすみません」
ぺこりと頭を下げる。焦っていた気持ちを抑える。ひとまずは二人の言うように目の前から進めて行くしかないのだろう。相手が相手だ。そんな簡単に超えられるはずもないのだ。レナードは私の声を受けて『いえいえ』と手を振っていた。
「それでだ。今回手に入れた素材なのだがな、ジーが戻り次第移植するぞ」
今はまだジーはモノの面倒を見ている。だからそれが終わり次第ということか。まだ少し時間が掛かるだろうし、それであれば近日中に、ということになるだろう。
私はその後風呂や食事をとり、ベッドで眠りにつく。警戒も無しに寝ることが出来るのは何だか久方ぶりだった。
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