【2-8-4】
「ーーいい? まずは私が先に行く。モノ達は後から合図したら出てきて」
「ん? どうして?」
「だってどんな状況かも分からないし、油断してくれるかもでしょ? ……それと、もし私が暴走してたら宜しくね?」
「……ん。分かった」
「スーニャ。私が言うことでもないのだけれど、気をつけて」
「ええ。リーリアさん。ありがと」
ーータイミングはバッチリだった。一瞬後方に気を取られた隙に、モノは大剣を振り翳し現れた。すぐにその存在に気づいたものの、体勢を整える前には、モノは剣を振り下ろしていた。
「くッ!!」
ディアさんはギリギリで身体を捩り直撃を避ける。ただその剣は確かに彼女の身体を切り裂いた。身体の正面から真横に負った傷は、致命傷ではなくとも、軽傷ともいえないはずだ。事実彼女は痛みに耐えかね呻き声をあげていた。
「……どこに行ったかとは思っていたけれど、少し油断したかしら」
ディアさんは傷口を抑えつつ、私たちから目を離さずにいた。間をおかずモノは追撃に出る。その小柄な体型からは想像出来ないほどに軽々と大剣を振るう。ただディアさんが一枚上手なのか、中々攻撃は当たらないでいた。
「ゔ〜〜」
「モノちゃん強いわね。でも私を相手にするには、些か足りないみたいね」
今度はディアさんの番と反撃に移る。モノも何とかそれを受けているが、ただ傍目から実力差は歴然だった。傷を負っていてもなお、まさかあのモノとそれほどの差があるとは……。
ディアさんがモノの腹へと拳を捩じ込む。痛みから膝を突くモノを見下ろしている。
「これでお終い? なら、本当に終わってしまうわよ?」
「――いえ、まだ私もいますよ」
姿を現したリーリアさんを見て、ディアさんは驚くでもなく、ただ淡々としていた。
「あら。貴方が手引きしたのね、リーリア」
「……お許しを。もはや貴方には付いていけません」
「そう。残念ね。なら死になさい」
ディアさんがリーリアさんへ蹴りを見舞う。リーリアさんはモノを庇いつつ、後方へと下がる。
「三対一というわけね。まあ構わないけれども」
この状況においても、余裕さが消えていないようだ。それほどまでに彼女一人との実力差に乖離があるのだろう。
「……スーニャ。なにか案はあるかしら?」
「いや〜、正直ないね……。あんな化け物みたいに強いなんて。リーリアさんは何かありますか?」
「そうね。やれることをやるしかないわね。私達鬼人族は、肉体での攻撃手段しか持ち合わせていない。だから、私とモノで前衛を、スーニャに後衛をお願するわ」
「分かりました。無理しないで下さいね」
作戦なんてあってないようなものだ。ようはリーリアさんとモノで、ディアさんとボコボコに殴り合う。私は後ろから出来る限りの炎でディアさんを攻撃する。確かにこれしか方法はないだろう。
「じゃあ気合い入れていきましょうか」
改めてディアさんをみると、彼女はその余裕さからか、私達の話し合いが終わるまで待っているようだった。
「あら? 終わったかしら。もう始めていい?」
「待っててくれて、どうもありがとうございま、っす!」
言葉の最後とともに彼女へと炎を放つ。それと同時にリーリアさんとモノがディアさんへと攻撃を仕掛ける。モノは武器柄精微な動きが取りづらい。それをリーリアさんがカバーしつつ、連携を取る。リーリアさんが攻撃をし、作った隙をモノが狙う。
少しの間でしか無いのに、ほどなくして二人は連携ともいえるものを構築していった。
「……あんまり時間を与えてしまうと、面倒そうね」
ディアさんも戦い辛そうにしている。ディアさんが放つ攻撃は基本的にはリーリアさんが受ける。そしてそれにまたモノが合わせる。それではとモノを狙えば、すかさずリーリアさんがフォローへと入る。
少しずつだが、二人はディアさんを押し始めていた。
「……まったく厄介なことね」
再度ディアさんは距離を取る。私は彼女に時間を与えないようにと炎を向ける。ただそれは彼女に簡単に払われてしまう。
「その炎をいくら私に放っても無駄よ。どれだけ研究したと思う? 例え身体中を包まれたとしても、私には無意味よ」
確かに彼女は最初からこの攻撃でダメージを負っている様子はなかった。しかしそれではどうしたらよいのか。何か彼女へ攻撃するすべを見つけないと。
ただ、モノとリーリアさんの追撃は凄まじかった。ディアさんは次第に防戦一方になっていく。このまま押し切れるのではなんて傍目からは思えてしまう。それくらいに二人の攻撃は脅威的なものだ。
やがてモノの攻撃を避けるために、ディアさんは姿勢を崩す。それは今の状況では致命的ともいえるほどの隙だ。リーリアさんはそれに合わせて、渾身の攻撃を捩じ込む。決まれば、決定打になる得る、力を込めた渾身の一撃。
それは凄まじい音と共にディアさんの腹部に叩き込まれた。
「――ゴホッ。ガハッ」
ディアさんの咳とともに血もまた吐き出される。ただ彼女は何故か笑みを浮かべていた。
「……強くなったわね。リーリア」
「ディア様……」
ディアさんはゆっくりとリアさんを抱きしめる。リーリアさんもまたそれを受け入れていた。
「……本当に強くなった。驚いてしまったわ。――こうでもしないと捕まえられないなんて」
リーリアさんはディアさんの雰囲気が変わったことから、慌てて距離を取ろうとする。しかしすでに身体は抑えられ逃げることもできない。
「ーー思った以上に手傷を負わされたけれども、まずは貴方からね」
言葉が終わる前に、彼女はリーリアさんの腹部へその膝を、顔に拳をぶつける。その衝撃でリーリアさんは数メートルは吹き飛ぶ。慌てて駆け寄るも既に意識は失っていた。
「……これでようやく一人減った。次はモノちゃんね」
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




