【2-8-2】
「――あああ゛゛ァァァァ!!!!!」
私の絶叫が暗闇に飲み込まれる。ただ何と思われようが、どう見られようが関係なかった。クソクソクソクソ。ガブリエットを前に何もできなかった。千載一遇の機会をこの手で潰してしまったんだ。
今まで私は何をしていたんだ。多少なりとでも強くなったつもりだったのか。足りない足りない足りない。まだまだ足りないんだ。もっともっともっと強くならないと。私が私のしたいことを為すためには。
私はすぐさまにその場を立ち去りたかった。すぐにでもまたリムさん達に会わなければ。ただディアさんがふと視界に入る。ーーそういえば、ある約束をしていた。
「ディアさん。私忙しいんです」
ずっと傍観していたディアさんに話しかける。
「でも約束は約束なんで。貴方は殺します」
体中から炎が噴出する。感情が制御できない。
「……貴方、改めてなんなの?」
私の様子を見てディアさんが尋ねてくる。ただ私にはそれに丁寧に答える心の余裕はなかった。
「私? ご存知でしょう? スーニャですよ」
「……まあいいわ。知られてしまったからには、やっぱり殺すしかないわね」
白々しい。最初から殺すつもりだったくせに。そういえばガブリエットが一つ漏らしていたな。
「……ディアさん。貴方だったんですね? 私の里をガブリエットに教えたのって」
「……ええそうね。言い訳するつもりもないわ」
『そうですか』とボソリと呟く。それなら彼女もまた、私にとっての復讐の対象だ。
「……それなら、貴方は私にとっての仇でもある。――殺しますね?」
彼女へ向かい剣を振るう。纏っていた炎が彼女へ放たれる。炎はディアさんにまとわりつき、その身体を焼く。ただそれを彼女は容易く払う。そしてこちらへ向かって突進してくる。
「ッ!?」
私は慌てて距離をとりつつ、再度炎を放つ。だがディアさんは私が目を向けた瞬間には姿を消していて、私は彼女を見失ってしまう。周囲を見渡すも彼女を捉えることが出来なかった。
「……舐められたものね」
彼女の声は後ろから聞こえた。それと同時に首を掴まれる。その力の強さに驚く。私は身動きをとることすら出来なかった。
「これでも私は鬼人族の長なのよ? ガブリエットには劣るにしても、貴方程度容易く殺せるわ」
グググと掴む力が増していく。痛みに顔が歪む。私は持っていた剣の切先を彼女へ向けて走らせる。ただそれもまた受け止められる。
「まったく面倒なことを……。ただまあ考え直せば、これはこれで都合がよかったのかもしれないわね。貴方達の処分も迷ってはいたところだし」
骨がミシミシと音を立て始める。堪らず声が出る。私は全身から炎を放ち、彼女の手を焼く。彼女は素直に手を離し、炎を振り払った。
「……馬鹿の一つ覚えね。つまらない」
「は?」
「貴方は炎をただ闇雲に出しているだけ。剣の扱いもなってない。本当に、ガブリエットを追い詰めたのかしらね?」
イライラする。私は剣を彼女へ向けて振る。ただ剣は掴まれ攻撃も止められる。
「肉体が貧弱なのかしら? そんな速度じゃあ当たっても恐くはない。そんなのでよくヴェルグやジンを倒したものね」
彼女は吐き捨てるようにその言葉を発した。そして掴んでいた剣を私から奪い、クルクルと回し弄んでいる。
「まああの時は他に加勢していたお仲間がいたものね? それがいないならこの程度か」
『多分ヴェルグの時もそうだったんでしょう』と言いながらに持ってた剣を今度はこちらへと投擲してきた。剣は私の頬を擦り後方の木々へと突き刺さる。時間差で私の頬からは血が滴った。
「……私を殺す、とか言ってたわね?」
瞬間私の側頭部に衝撃が走る。勢いから横に身体が吹き飛ぶ。
「そんなザマで、どうやって私を殺すのかしら?」
ツカツカとこちらへと近づいてくる。私は慌てて体勢を立て直す。また同じ衝撃が私を襲う。ただ今度はどうにか見ることが出来た。これはディアさんの蹴りによる衝撃だ。余りにも速すぎてさっきは見えなかったが、目を凝らすことで何とか認識することができた。
「私へ攻撃もできず、自分を守る事も出来ない」
今度はその拳で身体を殴りつけられる。身体がゴム玉のように跳ね転がる。彼女に蹴られ、殴られ、抵抗しようにもそれも意味をなさない。私は彼女のなすがままだった。
首を掴まれ、再度身体を持ち上げられる。私はただ彼女を睨みつけることしか出来ない。
「――本当、無様」
吐き捨てるように喋っている。
「なんで、あの子はこんな……」
「な、に?」
そういえばなぜ彼女は私を嵌めようとしていたのか、まだ聞いていなかった。邪魔になると言っていたがそれはどういう意味なのか。
「……ああそういえば貴方に説明していなかったわね」
首をぱっと離し私は地面に落ちる。締められていたからかゴホッゴホッと咳き込む。
「――いいわよ。話してあげる」
私を睨むその視線は、明確に殺意が込められたものだった。
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