【2-7-3】
「――ーニャ。スーニャ。起きて」
何だか最近も似たようなような場面があった気がする。ただ前とは違い何だか肌寒い。それに身体が痛い。何か硬くて尖ったものが肌に押し付けられている。でも私はまだ眠たくて意識を起こす事に抵抗していた。
「う〜ん」
「スーニャ。起きて」
ペチペチと頬を叩かれる。叩いているのはモノだろう。ただ私はまだ抵抗していた。
「モノ〜、トイレなら一人で〜」
「スーニャ、大変。閉じ込められちゃった」
「え!!」
彼女の声に飛び起きる。周りを見るとどうやら牢屋? 独房のような所に閉じ込められていた。石を削って作られた部屋なのだろうか。外を見る窓もなく、岩肌が露出している。人二人が入るには狭い空間しかなく、出入り口には鉄格子が掛けられていた。
「……ああ思い出してきた」
そうだ。私は確かディアさん達から逃げようとして、ちょうどモノと会った。その時に首元に強い痛みを感じて、そこからは記憶がない。ただ捕まってここに閉じ込められたのだろう。
「モノはあの後どうしたの?」
「捕まった。流石にスーニャと連れて一緒に逃げるのは無理」
まあそれはそうか。モノが強いとは言っても意識の無い私を抱えつつ。ディアさん達から逃げるのは難しいだろう。
「そっかあ。どれくらい気を失ってたのかな」
「かなり。スーニャめっちゃ寝てた。いびきもかいてた」
「うそ!? ホントに?」
「うん。スーニャ見てたらモノも眠くなって寝た。でさっき起きた」
ええ……。でもそれならそれなりの時間が経っているのだろう。私達がすぐに殺されなかったのは、ディアさんも例の密会とやらの件で時間がないからだろうか。
とりあえずここから出なければ。無駄からもしれないけれど、私は鉄格子に触れてガタガタと揺らしてみる。なんだか漫画やドラマでよく見る光景だ。これで出してくれーなんて言ったらズバリだろう。
「うーん、やっぱりこの扉を壊すのって難しいよね」
「ちょっとやってみる」
モノが扉へと近づき、同じように揺らす。私よりもモノの方が力自体は強いはずで、実際私の時よりも激しい音が鳴った。
「ちょっと離れてて――「――え?」
モノは手を振り翳して鉄格子を殴りつけた。殴った衝撃からすごい音がしながらも、やはり鉄格子はビクともしない。
「……いたい」
「ほら〜、ちょっと手見せてみな。大丈夫?」
赤くなった彼女の手をさすってあげながらに考える。炎で溶かす手もあるが、この扉を焼き切るとなると相当な熱量が必要だ。そうなるとモノにも燃え移るだろうし。ああそういう理由で一緒にしているのか。
「どうしよう?」
「ね、どうしようか」
二人途方に暮れる。このまま待っていてもジリ貧だし、かといって脱出することも難しい。となると誰かが来た時、または何かの理由でここから出される時に逃げ出すしかないか。殺される時とか。嫌な想像にブルッと身体が震える。
しかしひとまずは待つしかなさそうだ。
「しりとりする?」
「しりとりはもういいよ……」
二人で何か出来ないかと考えるものの、妙案は浮かばない。ひとまずはこの時点で無事であった事を喜ぶくらいだった。
それから、それなりの時間が経過したと思う。外が見えないために時間の経過はわからないが、昼から夜に変わるくらいの時間は経っているのではないだろうか。
まさかこのまま餓死させるつもりとか。……いやそれだとまずいが。
「……お腹減った」
「ね〜、何か食べたいね〜」
「あの甘いやつ食べたい」
「トフィだっけ? あれ美味しかったものね」
本当にそのつもりであれば、モノが危険といえども炎で試してみるしかない。もう少ししてももし何も動きが無ければ、私はいよいよその決断をするしかないと考えていた。
「ーーそれより、スーニャ、次はり、だよ」
「りー? りかぁ。リーリア?」
「あー、あー、アヌ!」
「あ! 前の仕返しだ!」
「ふふん」
ドヤーとモノが得意げな顔をしている。二人キャッキャと笑い合う。しかしこの緊張感のなさである。
「……少しいいかしら?」
「えっ!」
外から声が聞こえて慌てて鉄格子の方を見る。そこには呆れた表情を浮かべたリーリアさんが立っていた。声を掛けられるまで全く気づかなかった。
「……まったく呆れた。状況を分かってるのかしら」
「いや〜、あはは」
頬をかきながらに笑うしかない。いや本当に何も言えなかった。
「それでどうしたんですか?」
「いえ様子を見にきたのだけれども、心配いらなかったわね」
「いやー、出してくれたら嬉しいんですが」
なんて半分本気の冗談を言ってみる。でもリーリアさんはディアさんといる時とは様子が違っていた。やっぱり彼女の前では取り繕っているのだろうか。
「……もしこちら側の条件を飲んでくれるのなら、出してあげてもいいわ」
思わぬ答えに戸惑う。ただ無事に出られるのなら願ってもいなかった。
「……条件というのは?」
ディアさんは、心なしか発言を躊躇っているように見えた。口元が微かに震えている。
「率直に言うわね。――当主を、殺してほしいの」
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