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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第2部】目覚め

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【2-6-4】

「おお……!!」


 訪れた鬼人族の里に驚く。まずはその建物の多さだろう。以前ギルドの本部があるバルディアへ赴いたが、それよりも更に多く、そして栄えている。半分程度は日が落ちているというのに、道々に添えられた提灯と家屋から漏れ出た光のためにまるで昼間のようだった。


 大通りには出店が立ち並び、干し肉や魚といった食材から、冒険のための武具、寝袋、装飾品と幅広く扱いがある。この場だけで生活や冒険などに必要とするすべてのものが揃ってしまいそうだ。


 当然それらの中には食べ歩きに適した甘味であったり、揚げ物なども売られている。私は物珍しさからその光景を眺めていると、モノはその中の一つの屋台に近づいて、店頭に並べられている商品をジーッと見つめ始めた。


 どうやら果実を砂糖つけにしたもので、子供や女性が好む菓子のようだ。とても綺麗な菓子で、果実をそのまま宝石にしたような見た目をしている。


「スーニャ〜?」


 甘えた声を上げて私に物欲しげな視線を向けてくる。何だか最近こんな展開ばっかりな気がするんだけど。でもモノ。貴方に買ってあげることは出来ないんだ。


「……ごめん。また今度買ってあげるから」


 ガーンと絶望をした表情を浮かべていらっしゃる。ただ彼女は諦めずにまだこちらを見続けてくる。


「……本当にダメ?」


 ううそんな目で私をみないで。何だか世知辛さを噛み締める。まさかここでこんな親のような気分になるなんて。でもだって、私お金持ってないんだもの……。


「今度リムお父さんからお金貰ってくるからね……」

「……うん分かった」


 ションボリと肩を落としている。店頭でこんなやり取りをしているために、店主も若干気まずそうにしていた。彼にも悪いしそろそろ行かないと。私はモノの手を引きその場を後にしようとする。


「……えーと、私でよければ買いましょうか?」


 黙って見ていた給仕さんからおずおずと申し入れが入る。その言葉を受けてモノの表情がパーッと輝いたが、しかし流石にそこまでして貰うわけにはいかないだろう。


「いえいえ、お気遣いだけで」


 またしてもモノの顔が信じらないとでも言いたげに引き攣る。ただ彼女はあくまで私達をこの里へ連れてきてくれただけで、これ以上お世話になるわけには。


「いえ、構いませんよ。これ私も好きなのでぜひ召し上がってください」


 給仕さんの雰囲気がフェニスの館にいる時よりも和らいでいる。自分の里に来たからなのだろうか。ただこうまで言ってくれるのであれば、お言葉に甘えさせて頂こう。


「すみません。ではせっかくなので。ほら、モノもちゃんとお礼言って」

「ありがと」


 ペコリと頭を下げる。よしいい子いい子と頭を撫でてやる。『いいんですよ』と言いながらに彼女は菓子を買ってくれた。どうやらモノと私の二人分を買ってくれたようで、そのままに私たちに手渡してくれた。


 その菓子は果実の周りを砂糖が覆っていて、そのまま手で持つと溶けた砂糖が手につくために串に刺されていた。こちらの世界では甘いものを食べる機会は少なかったために、純粋に期待している自分がいる。


 隣のモノはすでに頬張っていて、蕩けそうな表情を浮かべていた。私も菓子を口に入れる。最初には砂糖の強烈な甘さが口の中に溢れる。そして噛み締めると果実の果肉が現れて、その瑞々しい食感と酸味が更に口の中で混ざり合う。


 ただ甘いだけではない。果実自体の甘さが砂糖と調和している。露天で売るなんてとんでもない。とても完成された菓子だ。久方ぶりの美味しい菓子に、私も夢中で食べる。これであれば何個でも食べられてしまいそうだった。


「ふふっ。美味しいですか?」


 給仕さんが笑顔でこちらへ声を掛けてくる。思わず夢中になってしまっていた。


「ええ、とっても美味しいです。こんな美味しいお菓子があるんですね」


 お世辞じゃなく心からの声だった。私の返答に満足したように彼女は頷いていた。『私も一つ』と店主に伝え買っている。そして彼女も菓子を頬張り、『ん〜!』と声をあげている。


 とても美味しそうに食べていて、その様子に思わずモノと二人で見入ってしまった。そして私たちの視線に気づいたのか恥ずかしそうにタハハと笑っていた。


「この菓子はトフィといって私たちの昔からの菓子なのですよ。私も大好きで今でもよく食べているんです」


『お二人を見て私も食べたくなっちゃいました』などと言っている。その幸せな表情から本当に好きなのだろうということが伺えた。そして少しの間私達は喋ることもなく菓子を味わい、その時間を満喫した。


 ひと心地ついた頃に、給仕さんが喋り始めた。


「……本当の事を言うと、最初貴方達が恐ろしい人だと思ってました。ただとてもそんな人達ではありませんでしたね。きっと何かの間違いなんでしょう」


『ずっと良くしてくれていたのに、すみません』などと頭を下げてくる。彼女の立場としてもあまり客人にフランクな対応は出来ないだろうし、全然気にしない。むしろ手を煩わせてしまったことに申し訳なさを感じる。


 しかし間違いとはどういうことだろう。何か事前にウワサでも回っていた、ということだろうか? しかし、それを聞く前に彼女に遮られる。


「ほら! まだまだオススメの食べ物もあるんですよ? せっかくなんだから紹介させてください」

「……でもお金ない。スーニャ甲斐性なし」


 いやそうなんだけど。モノがそれを言わなくても……。


「大丈夫です! 私がお支払いしますので」

「いやいやいや、それは流石に……」


 道中でやいのやいのとやり取りをして、最終的に次会うときにちゃんとお返しすることで妥結した。


「じゃあホラ行きますよー!」


 その後私達は露店を練り歩いた。途中途中彼女のオススメという食べ物を味わう。菓子だけでなく、串に刺され油滴る塊肉や、芋を揚げ甘辛いタレを漬けた軽食、他にもたくさんの食べ物を買った。彼女の勧めるものはいずれも美味しくて、私達は夢中になって食べた。


 ひとしきり見終り、私達は給仕さんに案内され、里の一番大きいのであろう館へと到着する。どうやらここにディアさん達がいるらしく、私たちはドアをノックして玄関口の前で待つ。程なくして別の給仕が現れ、中へと案内された。


「私は、ここまでです。お二人ともありがとございました」


 今まで案内してくれた給仕さんとはここで別れることになった。彼女に名前を聞いておこうと思ったのだが、それも叶わずにドアは一方的に閉められる。


 そして館の中に招いてくれた給仕さんは足早に進んでいく。私達はただ慌ててその背中を追いかけた。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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