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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第1部】夜明前

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【1-2-1】 祈り

「世界は元々何もないただ白い空間だった。そこにアヌ神が誕生なされた。アヌ神から溢れた涙は海となり、吐いた息は風へ、腐り落ちた血肉は大地と緑になった。そうして今の世界の原型が形作られた。

 

 アヌ神は世界を作られた後、すぐ手足となる6柱の神々を産み出される。そして彼女達と共に日毎に新たな生命を創造なされた。始まりの一の日に賢人を、ニの日に人族を、三の日に我等亜族を、四の日に獣を造られた。終わりの五の日に世界と一つになられ、今も我々を見守ってくださっている。

 

 ――これが始まりの五日間。アヌ教が掲げている教典の元となっている話でもあります。つまり、私達は皆アヌ神の申し子であり、この世界は彼女そのものとも言えるでしょう」

 

 俺たちの前で説明を続けているのは里の顔役を務めるサーヤだ。細身な身体に手入れされた長い髪、眼鏡を掛け常に物腰穏やかな彼女は、顔役兼子供達への話し手の役割を担っていた。……身長が低く小柄であることから子供達からよく揶揄われているのだが、それも愛嬌だろう。

 

「アヌ神なんて今更言われてもなぁ〜。何かご利益があるわけでもないし、別に歴史を知ったところで役に立たないだろー? それよりも狩りの仕方とかもっと知りたいぜー。スーニャもそう思うだろ?」


 サーヤに聞こえないように小声で俺に話しかけているコイツはトーリという名前で、数少ない俺の友人だった。日に焼けた浅黒い肌に、顔には若干のそばかす。ツンツンと跳ねた黒い髪の毛。元気を有り余した悪ガキってな具合で、座学に向かないのは見た目そのままだった。


 俺たちはまだ子供と言える年齢で、サーヤから定期的に算術や歴史学、文字の読み書きを学ぶわけだが、確かに今の生活では使う機会も乏しく子供からしてみると退屈なものだろう。


「トーリくん〜? アヌ神を蔑ろにすることはダメですよ〜? それにアヌ教は我々の住むこの世界唯一の宗教でもあります。下手なことをいうとアヌ教の方に怒られちゃいますよ〜? かなり厳格な人たちなんですからね〜?」


 なんてサーヤが脅しをかけてくる。それでもトーリはどこ吹く風といった様子だ。


「だって明日からもう降誕祭じゃん! 俺としてはもっとそっちの準備を進めたいというかさー」

「いやですからトーリくん。その降誕祭自体がアヌ神の誕生を祝ってのものであって、その背景をちゃんと知っておくことが重要なんですよ〜?」


 微笑ましい光景だった。どこの世界でも教師と生徒の関係っていうのは変わらないものだな、なんて思う。それに個人的にはこの世界の成り立ちというものは興味深かった。前世で別に民俗学や宗教論に明るかったわけではないが、異世界の中の文化というのは面白い。……これが大人になると勉強が好きになるというやつだろうか? いやまあ俺は別に前世も大人ではなかったけれど。

 

「あーもうトーリしつっこい! サーヤも困ってるでしょ!? スーニャもちゃんと止めなさいよ! これ終わったら次は演習の時間なんだから、もう少し待ちなさい!」


 カーナからの声で、トーリも『へいへい〜』と真面目に話を聞く体制に戻る。カーナは歳の割に大人びた子供でいわば学級委員長のようなキャラクターだった。伸ばした髪はツインテールにしていて服装もキッチリとしている。顔立ちは子供ながらに整っており将来は美人になるだろうなんて勝手に思っている。ちょっと性格はキツそうだけれども……。


 俺たち三人は仲が良かったが、だいたいがトーリがふざけ、俺が巻き込まれ、カーナに怒られる。そんな一連の流れがお決まりになっていた。


「カーナさんありがとうございます……」

「サーヤももっと強く言っていいんだからね!? 一応顔役なんだからね!?」


 カーナに嗜められ『ハイ……』とシュンとしているサーヤを見て苦笑を禁じえなかった。そこからはサーヤは説明に戻りみんなも話を聞くようになった。俺は俺で平和だなぁ〜なんて外をボーッと眺めていて、またカーナに怒られた。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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