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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第2部】目覚め

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【2-4-4】

 脱衣所は数名が入れるような開けたスペースがあり、戸で浴室と遮られている。服を脱いでいると、ちょうどディアさんが入ってきた。


「あら。お邪魔だったかしら?」

「あどうも。そんな事ないですよ。ディアさんも用事を終えたところですか?」

「ええ。ちょっと汚れちゃったから、流したいと思ってね」


 言われて気づいたが、確かに服が汚れていた。汚れているというよりは、破れたり、焦げたりしているような……。そしていやまさかと思うが、黒い斑点は血液なのではないだろうか。


「やだ。そんな見ないでくれるかしら?」

「スミマセン!」


 慌てて目を逸らす。今から服を脱ぐというのに確かに見過ぎだった。隣ですでにスッポンポンになっているモノはともかく、ディアさんへのデリカシーは足りていなかった。


 その後私たちは三人で湯船に浸かる。その浴室はその人数で使うにはとても贅沢すぎるくらいの作りだったが、久々に浴びるお湯は身体の汚れだけでなく、疲れも流してくれるようだった。


 思わずふ〜と息を吐く。生き返る〜なんて言ってしまいたくなるところだ。ふと視線を感じ、顔を向けるとディアさんが意外そうな表情でこちらを見ていた。


「あら、スーニャって思ったよりも……」

「ふふん。スーニャのお――「――いやだからそういうのはいいって!!」


 その後程々にお風呂を出て、ディアさんと食事をいただく事になった。用意頂いたものは全て手が込んだものであり、非常に美味しく、自然と会話も弾んだ。配膳をしてくれていたリーリアさんは、流石に先ほどのような態度は取っておらず職務を全うしていた。


 ある程度時間を過ごし胃も満たされたころにその場もお開きとなる。モノも流石に疲れもあるのかすでに眠そうだ。私はそろそろとその場をお開きにしようとする。


「ディアさん。それではそろそろ」

「ええ。モノちゃんも限界そうだものね。――リア? モノちゃんをお願いできるかしら?」

「はい承知いたしました」


 リーリアさんがモノを抱き抱え部屋を出て行こうとする。私も慌ててその後を追いかけようとする。ただそれはディアさんによって止められた。


「……スーニャは、少し残ってくれるかしら?」


 その言葉を受けて、私はモノ達を見送り、再度自分が座っていた席に座る。素直に従ったのは、彼女が纏っていた雰囲気が変わっていたからだ。ディアさんは給仕達にも下がるように伝え、部屋には私と彼女の二人きりとなった。私は彼女の言葉を待つ。


「……何の用かと、聞いていたわよね」


 彼女は酒の入ったグラスを傾けていた、その様はまるでワインに空気を混ぜ込むような仕草だった。何回かグラスを回し、満足し終えたのか、その紅い色の液体を口に流し込み、ふぅと息を吐く。そこらの男性が見ていたら一瞬で恋に落ちていそうな妖艶さだ。


「ええ聞きました」


 私もまた注がれていた酒を飲む。すでに時間が経っているからか、常温に近くなっていて酸味が増していた。


「改めて聞きましょうか? 私に何の用なんです?」


 彼女は新たなボトルを開けて、グラスへと液体を注いでいた。丁寧に、空気に長く触れられるよう少しずつ注いでいる。そして注ぎ終えた後にも、グラスをゆっくりと回していた。


「……貴方に、会いたいという人がいるの」

「はい。それは最初に聞いた気がします」

「ええ。そうだったわね」


 なんだかディアさんらしくない。その証拠に彼女も積極的には話を進めたく無いのか、せっかく整えたお酒を一口で飲み干していた。そしてまたお酒の準備を始めていた。


「……それで、その人は誰なんです?」


 今度は私が話をむける。そもそもが最初からその人が私を呼んできたのだろう。ディアさんはその人の命を受けて、私の様子を見にきた。今日までの親切もそのためだろう。


「相当な方、なんでしょうね?」

「……意地悪ね。想像はついているのでしょう?」


 またグラスを傾ける。しかしディアさんお酒強いな。いやそれよりもこの会話に集中しないと。


「もし私の想像があっていたら、なんで? というのが最初に来ますね。わざわざ私を呼び出す事などないでしょう?」

「ふふっ。それは本人に直接聞いてちょうだいな。私は彼女の希望を聞いただけ」


 彼女はグラスに残ったお酒を飲み干し、立ち上がる。


「そろそろ、いきましょうか?」


 私もまた自分のグラスを空にし席を立つ。すでに真夜中に入り、給仕達も寝静まった館内を私達は音を立てぬように歩く。件の彼女は、館の隅の塔、その最上階にいるようだった。


「貴方が来ていることは、伝えておいた」


 塔の上階へ向かうためにはまず館の隅に行き、そこから階段を登る必要がある。その階段はとても長いもので、気が遠くなるほどに段数がある。移動している最中ディアさんは、私に喋りかけているものの、振り返ることはなかった。


「若干不安定だったけれども、貴方が来たことを伝えたら、連れてくるようにと言っていたわ」


 最初にも話していたが、不安定とはいったい? なにか病気でも患っているのだろうか?


「ディアさん。彼女は――「――ほら、着いたわよ」


 私の言葉は彼女の言葉で遮られた。彼女のランタンの明かりを頼りに、目の前の扉を見る。その扉は何重にも鍵がされていた。それも外側からだ。私は呆然とその様子を見ていた。


「ディアさん、これはいったい?」

「……」


 ディアさんは私の言葉に答えようとはせず、ただカギを外していた。この先にいるものは果たして何者なのなのだろうか。


「ほら、開いたわよ。中に入ってちょうだい」


 彼女が戸を開き、そして私は言われた通りに部屋の中へと入る。


 最初中は暗く何も見えなかった。ただ部屋自体は窓が多く、外からの光が入りやすい構造になっているようだ。今は雲に隠れて月の光も入ってこないけれど。


「……だれ?」


 部屋の奥から声が聞こえる。目を凝らすと少女がいることが分かった。顔は見えないが、かろうじて姿が見える。その子は椅子に三角に膝を立てながらに座っているようだった。部屋のなかには、彼女と椅子、奥にあるベッド以外目立ったものはなかった。


「……こんにちは。私はスーニャといいます。貴方が私を呼んだのかな?」


 可能な限り穏やかに、優しい声で彼女へと声を掛ける。意図も分からない内に刺激するのは良くはない。敵と思われぬよう最善の注意を払う。


「ね、貴方のお名前は?」

「……名前?」

「そう。なんて言うのかな?」

「――ククル=マグノリア」


 当たらないでくれとは思っていたものの、外れるとも思ってはいなかった。想像した通りに、私を呼び出した張本人は太古の神々が一柱であり、亜族の神とされる存在、ククル=マグノリアだった。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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