【2-3-2】
私はゆっくりと目を開ける。今度は目の前にモノがいるわけではなく、ジーが近くに座り本を読んでいた。そして彼女は私が起きたことに気づく。
「あ! スーニャ起きました? みんなー! スーニャが目を覚ましましたよー!!」
家中に声を掛けて皆に知らせている。私はというと未だに頭がボーっとしていた。
「ねえジー。今回私はどれくらい寝ていたの?」
「えーと、五日間くらいかな?」
『思ったよりも掛かりましたねー』なんて言いながらに笑っている。確かに思った以上に時間が経過している。前回は数日も掛かっていなかったというのに。内容が内容だったのか、それとも回数を重ねる毎に身体の負担も増していくのだろうか。
そうこうしているうちに皆が集まる。私の様子を見て安心するもの、心配するものそれぞれの反応だった。私は彼らに応えようするも手術の後遺症からか、力を込めても思うように身体を動かすことが出来なかった。ジーの助けを受けて、私は何とか身体を起き上がらせる。
「今回は馴染むまで時間が掛かりそうだな」
リムさんが私の様子見て呟く。確かにその通りで身体は動かそうとする毎に電流が走るような痛みが生じた。動かすのが非常に億劫で、当面はリハビリ期間になるのかなんて思う。ただ、生きていた。それだけで良しとしよう。
「……そうか」
レオは、そう一言だけ残しその場を去った。確かに複雑な心境だろう。今どんな言葉を掛けるべきかも分からなかった。
私たちの論争はひとまずの決着となった。といっても私はあの後すぐに部屋を出て、残ったレオとカイリの二人がどのような会話をしたのかは預かり知らない所だ。
カイリの余力が少ないことから、私の手術は急ピッチで行われた。今までは一台しかなかった手術台が二台並べられていて、それぞれに私、カイリが乗っていた。既に彼女は自分で歩くことさえままならない状態で、レオがベッドまで運んだのだ。その沈痛とした表情から内心納得出来ていないことが窺えた。
「では早速だが術式を始める。レオは外に出ていろ」
『途中邪魔されては敵わんからな』とリムさんが言う。レオもゆっくりと頷いた。
「そうさせてもらう。友が切り刻まれる姿は見たくはない。……カイリ、今までありがとう」
「ええレオ。こちらこそ、ありがとうね」
その言葉を最後にレオは部屋を出る。私はまた前と同様に魔法をかけられ、意識を失った。
――今回は、以前のような夢を見る事はなかった。ただ泣いている小さな小さな女の子を、魔法であやす。そんな、ささやかな光景を見たような気がする。
手術後に受けたジーの診察では特に問題は見つからなかった。とりあえずは身体の痛みは時間の経過を待つしかないらしい。私は杖を借り、レオを探した。
彼女自体はすぐに見つかった。彼女は隠れ家の近くに一人立っていた。彼女の目の前には、今までは無かったはずの大きな石が置かれていた。これは何かとレオに話しかける前に、ポツリと彼女が口を開いた。
「これは、墓だ。カイリのな」
『急拵えだがな』と溢しているが、それは想像した通りのものだった。
「……そっか」
私は彼女の隣に立ち、お墓を眺める。徐に私は手を合わせていた。
「なんだそれは?」
「……私の故郷の作法」
「……そうか」
それから私達は話すでもなく短くない時間をその場で立つだけだった。そして私は兼ねてより抱いていた疑問を彼女にぶつけた。
「……私の事を殺したくないの?」
彼女にとっては私は仇そのものだし、敵として認められてもいる。今ここで彼女が私を殺そうとしてもおかしな話ではない。
「……正直に言うと、殺してやりたいさ」
こたらへ眼光と殺気が向けられる。当然の反応だ。しかし、彼女はすぐにその雰囲気を和らげた。
「ただお前はカイリの忘れ形見でもある。ここで今すぐとはいかないさ。それに、だ」
「それに?」
「カイリから言われたんだ。お前を憎むな、許せと。そうしなければ世界はどこまでも憎しみの連鎖が続くとな。――だから私はお前を許すよ」
『それが彼女との最後の約束だからな』と今度は私に笑顔を向けてきた。
「……私の敵だと言う話は?」
「それは変わらない。私は人族のためにラフェシアに尽くす。そしてミーム様とガブリエット様はその中核だ。そのお二人を狙うのであれば、お前は敵だよ。だから次に戦場で会うとすれば私はお前を殺す」
「そっか。……せいぜい戦場で会わないことを祈ってるよ」
話を終え、私は隠れ家の中へと戻る。中に入る前にチラリとレオを見たが、彼女はまだ墓石を撫でているようでその表情までは見えなかった。
それから幾許も経たないうちにレオは荷物を纏め、隠れ家を後にした。どうやら先の戦場へ向かうらしい。目立った将は全て死んだために取りまとめ役が必要な筈だとか。
出立の際私達は彼女を見送った。すでに離れ声も聞こえない距離になった際リムさんに話しかけられる。
「……殺さなくてよかったのか?」
彼女は怪訝とした表情で私を見ていた。
「いいんですよ。彼女が邪魔するなら、その時に殺します」
『甘いことだな』と言われながら家の中へと戻る。彼女の言う通りだ。ただレオを殺す気にはなれなかった。少なくとも今は。
ふと、レオから聞いたカイリの最後の言葉が頭によぎる。
――憎むな、許せと。そうしなければ世界はどこまでも憎しみの連鎖が続くとな。
私は自分で自分の頬を軽く叩いた。皆がどうしたのかと見ている。そんな考えまるっきり私とは逆だ。行き着く先が地獄だとしても、進み続けると決めたのだから。
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