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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第2部】目覚め

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【2-3-1】 加速

「ーーふざけるな!!」


 レオの怒号がこだまする。まあ当然と言えば当然だろう。彼女の友かあるいは親、ともかくは心の拠り所とも言える存在を殺し、そして誰かも知らぬ相手に移植するというのだから。


「……レオ、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか!?」


 かたやその張本人であるカイリは至って冷静で、彼女を諌めていた。


 私達はあの後にすぐに隠れ家へと戻った。今回は歩いて帰る事もなく、ジーの魔法で一瞬で戻る事ができた。どうもリムさんにとって、前回の徒歩での帰宅が相当に応えたらしい。この帰り方があると知ってからは強制的にレナードとジーにその魔法を習得させていた。


 ちなみにこの魔法はそれぞれの位置に対象となる術師がいないと成立しない。そのために行きには業者の馬車で移動をしていたのである。


 帰ってからはそれぞれが一息を吐き、そして事の顛末と我々の目的の説明に移った。その結果が今のレオの激怒である。私は久方ぶりともいえないが、モノの手触りの良い毛並みを撫でながら様子を伺っていた。


「レオ。私は彼女達に約束をしたの。その運命を受け入れてもいる。だから貴方が気に病む必要はないわ」

「そんな馬鹿なことがあるか!! 貴方はまだ生きているではないか!! それを易々とはいそうですかと受け入れられるか!!」


 彼女達の喧嘩には私達側の誰も口を挟まなかった。リムさんも悠々とお茶を飲んでいる。事の成り行きを静観するつもりなのだろう。


「……レオ。私はね、今既に限界を超えてる。会話が出来ているのさえジーさんの処置があったから。ただそれすらも所詮は一時凌ぎでしかないの」


 事実彼女はベッドに横たわって動く事も出来ない状況だった。その姿を目の当たりにしつつ、その張本人の言葉にレオの瞳が揺れる。


「だからと言って、その身を切り刻まれる理由にはならんだろうが!?」

「……五月蝿い女だ。殺してしまってもかまわんのだが」


 リムさんが気怠げに話に加わる。その言葉は冗談ではなく、本気の殺意が籠ったものだ。


「リム様。待って。レオも理解はしているの。ただ受け入れるのに時間がかかっているだけで……」

「私達は子供を看る親では無い。自分たちの目的のために貴様を連れてきただけだ。そもそもがこの場にこの女を連れてくる事自体、貴様の我儘を呑んでやったことを忘れるなよ?」

「はい。ですから少しだけ、時間を貰えないかしら?」

「時間?」

「ええ。私とレオと、そしてスーニャの3人で少しだけ」


 リムさんは納得いかない様子ではあったが、その言葉を受け他の面々は部屋を出る。シンとした部屋の中に、私達3人だけとなった。


「それで、話というのは?」


 私はカイリへ会話を促す。あえて私を残したというからには理由があるはずだった。


「……話はリムさんから聞いたわ。貴方がしようとしていることも知っている。本当にやるつもり?」


 なんだそんな話か。当然だ。私の心は決まっている。


「当たり前でしょ? 何も変わらない。私は私のために復讐を成し遂げるだけ」

「……なんの話だ?」


 そういえばレオは知らないのか。私はカイリに視線を向けて説明するよう促す。彼女は私の意を理解し、私の目的と今の状況を掻い摘んで説明した。


「……そうか。お前はあの里の生き残りか」


 レオは話を聞き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


「そう。だから私はガブリエットを、そしてミームを許さない。絶対に復讐すると決めたんだ」

「……」


 レオは俯き黙り込む。例え彼女が何を言ったとしても私の意思は変わることはない。改めて彼女へ問いかける。


「それで、カイリはどうするつもり?」

「私はいずれにせよ生き残ることは出来ないわ。言っておくけども、今会話しているのも本当はかなりしんどくてね。意識も飛びそうなのよ?」


 確かに顔色は戦地の時から更に悪化しているよう思える。ただ私の問いに関して無視させるつもりはなかった。


「回答になってないね?」

「……私はね、ガレリオを守り続けることが自分の役割だと思っていた。死んだ後の事なんて考えた事もない。ただもし、私が死んでも私の一部が他人の中で生き続けるなら、それは幸せな事だと思わない?」


 まるでアンジェルが言っていたことのように思える。長寿の種族はそれぞれ似たような考えに行き着くのだろうか。


「――だから私は受け入れるわ」


『まあそもそもそういう約束だったしね』なんて笑っている。


「願わくば平和な未来を見せてちょうだい。それが途方もない犠牲の上に成り立つものであったとしても、ね」

「……それはちょっとご期待に添えないかもだけど?」


 私の回答にカイリは苦笑いをしていた。そもそも私が行おうとしていることは、統一しかけた基盤を揺るがすものだ。平和とは真逆なものである。


「……話が進んでいるようだが、私からもいいか?」


 沈黙を続けていたレオが口を開く。その眼差しは私へと向けられていた。


「助けてもらった事には改めて感謝する。ただ貴方の目的は、私にとっては看過はできない」

「……そうだろうね」

「今回の戦争で遅れは出るだろうが、それでも私はラフェシアの、人族の平和を築き上げてみせる。そしてそれを邪魔するというのであれば」


 レオは一度息を吐き、言葉を紡いだ。

 

「――貴方は、私の、世界の敵だ」

 

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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