【2-2-3】
ゆっくりとカイリへと近づく。彼女は逃げるでもなくこちらを見るだけだった。
「お前がエルフのカイリだな」
「……何の用? さっきのもあなた達のせいでしょ?」
「ああ。あそこで貴様の身体が吹き飛んでしまうのは困るからな」
言う通りに、彼女の攻撃を止めたのは私たちだった。その身体がなくなってしまう恐れがあったために、ジーの魔法で彼女の魔法を打ち消したのだ。
「目的はなに……?」
「貴様の身体だ。その肉体を頂く」
「……どういうこと?」
当然の疑問だ。言葉通りの意味だとはまさか思わないだろう。
「……いやちょっと待って。あなたってもしかして太古の神々の一柱?」
「そうだが? よく分かったな」
カイリは驚いた表情を浮かべていた。確かにまさか伝説ともいえる存在にこんなところで遭遇するとは思うはずもない。
「ええ。魔素がミーム様に似ている。雰囲気は大分違うけどね。それに貴方達、随分おかしな組み合わせね。あとの二人はなに?魔素の流れがおかしい。何か混ぜ合わせているような」
さすがとも言える洞察力だった。彼女の言う通り、私は混じり物という表現が正しい。ジーの詳細は知らないが多分遠からずだろう。
「それで、私は今や抵抗も出来ないから従うしか無いわけだけれども。……最後の攻撃を止められた恨みもあることは理解して欲しいわね」
「ふむ。それで? 抵抗しようにも今の状況で我々に敵うはずもないことは分かっているだろう?」
「貴方を相手にしたら、私が万全でもとても敵わないわよ。貴方達の目的を邪魔するつもりもない。ただ、最後に私の願いを聞いてほしい」
「それが我々にどのような利があると?」
「貴方達が私の願いを叶えないのであれば、私はここで自殺する。それも身体がバラバラになるようにね」
『身体が吹き飛ぶのは困るのでしょう?』とカイリはリムさんを睨み返す。リムさんに対して誰かが真っ向から歯向かっているものは初めて目にした。
「ジー?」
「はい、彼女が言っていることは本当です。私が動く前に彼女は自死するでしょうね」
『すでに魔素が身体中に張りめぐらされています』とジーはカイリの身体を見つつ答える。
「……なるほどな。少しみくびっていたか」
リムさんはカイリを睨み返しため息を吐いた。
「既に魔素も限界を超えて使用している。反動で貴様はもはや長くない。それを更に早めるようなことまでして、何を我々に願うのだ?」
「……私には守ってあげなければならない子がいる。その子を私の代わりに助けてほしい。さっきヴェルグを仕留め損なった。奴はきっと亜族の陣地へ戻るはず。だから何とか助け出してあげてほしい。それさえ叶えてくれたら、私の身体なんてどうして貰っても構わない」
「チッ。面倒だな」
「……元はと言えば、貴方達のせいでヴェルグを仕留め損ねたのよ?」
彼女も語気を強める。まあただ彼女の言い分も最もではある。
「仕方ないな。乗ってやろう。ただ貴様それまでに死ぬんじゃないぞ? 抵抗も許さん」
「よかった……。ええ大丈ゴホッゴホッ」
その咳き込みとともに血が飛び出る。よく見ると段々と血の気が引いてきているようにも思える。想像している以上に、彼女に残された時間は短いのかもしれない。
「それで、貴様の言っているものの名前は?」
「――レオよ。レオ=ガレリオ」
その後私はすぐに言われた場所へと向かった。
そして彼女、レオは見つかった。ただ、ギリギリな状況だった。もう少し遅かったら彼女の命も危なかったかもしれない。彼女を抱き抱え木陰で休ませる。しかしまさか、故郷を滅ぼしたラフェシアの将を助けることになるとは因果なものだと思う。
「……すまない。面倒をかける」
「構わない。私も頼まれているわけだしね」
「頼まれているというのはいったい……?」
「ああそれは、……いや説明は後にしようか」
目の前には既に龍人族の兵達が迫ってきていた。悠長に話している余裕はなさそうだ。
「一切合切葬られたはずなのに、また随分と集めてきたんだね……」
これは骨が折れそうだ、なんて他人事のように思う。リムさんとジーはカイリと共にこちらへと向かっているが、先行して私だけがレオの元へ来ていた。ジーはカイリの手当てを、リムさんはもしカイリが不審な動きをした場合の対応を、とのことだ。
私一人で大丈夫なのかとも思ったが、彼女曰く『用意しておいたものが役立つ機会が出来てよかった。これを使えばスーニャでも問題ないだろう』とのことなのだが果たして……。
そして私は早速預かり物を眼前へと取り出す。その中身は革布で幾重にも巻かれており封を開けると、出てきたものは真っ白な剣? だった。
「剣? と言うよりは刃、かな?」
いったいこれはなんだろうか? 見た目よりも随分と軽い。手触りからは金属のようにも思える。あるいはまるで、骨のような。……いや迷っている暇はない。私もまた自分の身体を覆っていた上着を脱ぐ。その服は魔素の吸収を阻害するために着用していたものだ。
瞬間身体が魔素を吸収し始める。炎が立ち上り私の皮膚を焼く。
ただそれはほどなくして止んだ。代わりに剣と呼ぶべきかは定かではないが、刃先から炎が立ち昇る。どうやら私の身体から魔素を吸い上げ炎に還元しているようだった。
「よく分からないけども、まあちょっとやってみましょうかね」
――私は、この身体になって初めての戦闘に臨む。
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