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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第2部】目覚め

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【2-1-6】

「レオ、今すぐに引くん――「――うっせえよオッサン」

 

 ヴェルグの爪がギルゴーシュ殿を切り裂く。倒れ伏しビクビクと痙攣した後、彼は動かなくなった。


「……ウソ、だろう?」


 そんなバカな。こんな所で、こんな形で剣聖が打たれるのか。人族の大将がこんな簡単に? 


「ウソ? 何を言ってやがんだ。人族はそんな事すら分かんねーのか」


 ヴェルグは爪についたギルゴーシュ殿の血を拭いていた。ふと彼は何かを合点がいったというように動きをとめる。


「……もしかして今のオッサンって、ギルゴーシュ=ルドリアだったり?」

「……ああ。そうだ」


 こんなやつにギルゴーシュ殿は討たれたのか……? 騎士として決闘の末の死という名誉すら与えられず、誰とも知られずにただ殺されたと? 私の言葉を聞いて彼は突然に笑い始めた。


「ギャハハハ!!! ラッキー!! 俺めっちゃ大殊勲じゃねーかよ! ラースの旦那には感謝しねーとだな!! これで俺の亜族での立場も爆上がりかよ!? ディアの姐さんは認めねーだろうけども、何もしてねーんだ。文句も言えやしねー。あ、ジンのジジイにも自慢してやんなきゃなー!」


 アハハハと笑い続けるヴェルグにただ嫌悪感が身体を包む。ラースにはまだ知性や品位を感じたが、彼からは何も感じる事ができない。彼はしばらくの間笑い続けていた。


「はぁぁ〜、笑った笑った。それで、お前がレオか?」

「……そうだが?」

「ああやっぱな。状況的にそーだろうよ。いやあ噂に聞いた通りに良い女だな? もし俺のモノになるっていうなら生かしておいてもいーぜ?」

「……その問いに答える前に、こちらからも質問をしても?」

「お! なんだなんでも聞いていーぜ? こう見えて紳士だからよ!?」


 彼は思わぬ回答に興奮したようで、長く先端が二つに分かれた舌で唇を舐め回していた。


「ここに来るまでにエルフに会わなかったか?」

「ん? ……ああアイツはお前らの差金だろーものな。聞いてくる辺りお前の身内か?」

「そうだ。彼女はどうなった?」


 心臓がドクドクとなっているのが分かる。頼むから、そうあっていないでくれ。お願いだから。


「彼女なら捕まえて、今捕虜にしているところさ。怪我の手当もしているし命に別状もないだろうな」


 思わぬ回答に思考止まる。ただ、生きていた。それだけで私は身体の力が抜けるのを感じた。顔を伏せ大きく息を吐く。


「そうか。感謝――「――なーんて、なるわきゃねーだろ?」


 思わず顔をあげる。目の前にはヴェルグの顔が迫り、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「殺したさ。あたりめーだろ? アイツは特に手強かったからな。生かしておくなんて考えられねー」


『あとあと面倒くせーからな』なんて言いながらにこちらへと迫ってくる。私は私で少しずつだがその事実、その言葉を飲み込んでいた。頭が真っ白になっていく。怒りが沸々と湧いてくる。


「それでさっきの俺様の申し出はどうかなー?」


 にやにやとした表情を浮かべながらに再度問いかけてくる。受け入れるなどあり得るはずもない。


「――あいにく、トカゲに抱かれる趣味はなくてな」

「……上等だよクソアマ。殺してテメーの死体犯してやるよ」


 ヴェルグが戦いの構えを取る。私もまた剣を構え、彼と対峙する。


 深く息を吸う。余力などない状態で彼を倒すことなど出来るだろうか。いや悩んでいる暇など無い。私は身体に力を込める。後のことなど考えない。長期戦では余力のない自分は分が悪い。一瞬で勝負を決める以外に策はない。全力で奴の首元へ切先を突く。


「うぉッ! はえーな!」


 クソッ。当たってくれよと心の中で独りごつ。ただ動揺を相手に気取られぬよう攻撃を続ける。


「おいおいマジかよ! だてにリアナンシーとラースを倒したわけじゃねーなー!?」


 攻撃自体は受けるか躱される。ただラースと対峙した時ほどの力の差は感じないように思う。今更だが、ヴェルグを見ると身体のそこかしこに怪我を負っている。カイリとの戦闘の跡だろうか。いや今は考えるのはやめよう。ただ目の前の敵を倒すのみだ。


『オラァ! うわやべっ!』とヴェルグは合間に反撃を仕掛けてくるものの、それが私に届くことはない。ヴェルグの攻撃は確かに鋭いが、少しの間であれば私でもなんとか対応できるものであった。相手がこちらの状況を悟らない内にとにかくがむしゃらに攻撃を続ける。策が功を奏したのか少しずつだが、ヴェルグを追い詰めていく。


「おいって! ウソだろ?!」


 私は勢いのままに剣を振りかぶり叩きつける。しかし私の剣は相手を捉えることなく地面を突く。乾いた音と土煙が舞う。


 標的であったヴェルグは驚いたことに、私に背を向けて走り出していた。一目散にその場を逃げる姿に思わず唖然としてしまう。


 ただ瞬時に頭を切り替える。今奴を討てるのであればこの機を逃す手はない。私は急いでヴェルグの後を追いかけた。


「待て!! それでも将か!?」

「うっせぇ!! 生き残りゃそれでいーんだよ!!」


 私が追いかけヴェルグは逃げる。彼は私たちが戦っていた場から離れた木々の生い茂る森の方へと駆けていた。森の中では私も追いにくい。先に捉えるようにと全力で追いかける。


 しかし奴が森の中へ逃げ込む手前で事態は一変する。突如ヴェルグの近衛兵が現れたのだ。この段階になり、私は誘い込まれたことに気づいた。よもやこんな罠に嵌るなどとは。


 ヴェルグは荒い息を吐きながらこちらを振り返る。


「ハァハァハァ……。いや、よくやったほうだけども残念だったな。ここまでだよ」

「いやいやいやヴェルグ様、戻られないのでやられちゃったかと思いました!」

「ほんとほんと! 僕もヴェルグ様もう死んじゃったかと思った!」

「うるせえよ!! てめぇらいいからやれ!!」


 現れた兵達に対して檄を飛ばしている。私は少しずつ後ずさる。逃げねば。今複数の相手をしている余裕などない。先ほどまでとは完全に状況が入れ替わっていた。今度はわたしが背を向けて走る番だった。


「おいおいおい!! それでも将かよ!?」


 ギャハハと笑い声が聞こえる。屈辱に歯軋りをする。ただそれでも私は止まるわけにはいかなかった。意地も体裁もなにも関係ない。ただただ足を進める。


 しかし、既に満身創痍ともいえる私の体では逃げるにも限界があった。程なくして私は追いつかれ組み敷かれる。抵抗し暴れる私を、奴らは幾度となく暴行した。ただでさえ傷だらけだった身体に更に傷が増える。口の中は血で満たされた。


 引きずられ、ヴェルグの元へと連れ出される。


「クフフ。ようやくこうなったな。さてレオ。もう一度聞こう。俺のものにならないか? 悪いよーにはしねーぞ?」

「……言ったはずだ。私は貴様らのような奴らに弄ばれる趣味はないと」

「そーかい。そりゃ残念だ。まあでも意見が変わったらいくらでもいってくれ? お前のお友達のエルフもそうだったんだから」

「……なんだと?」

「だから、あのエルフの事だって。最後まで助けて助けてって言ってたぜ? なんでもするから許してー! とかも言ってなー」


 にやにやと笑みを浮かべながら話しているヴェルグに殺意が抑えられない。押さえつけられた腕を振り払おうと足掻く。ただそれでも抵抗にすらならない。


「お前もボロボロにされたら気も変わるだろうさ。……やれ」


 私を押さえつけていた連中がよってたかって私の鎧、服を剥がし始める。抵抗しようにもどうすることもできない。暴れる私に彼らは容赦ない暴力を振るう。顔も体も関係ない。

 

 ――嫌だ。いやだいやだいやだ。私はこんな所で慰め物にされるのか。こんな所で死ぬのか。


 今まで犠牲にしてきたものはどうなる。人族の未来はどうなる。私はなんのために生まれてきた。まだ何も成せていない。


 私は隙をついて目の前の相手に噛み付く。怯んだ隙をつき、何とか逃げ出すことに成功した。


 走って、転んで、這って、少しでも奴らから離れようとする。後ろからは笑い声が聞こえるが気にしている余裕もない。私は何としても生き延びなければならないのだから。


 無我夢中に逃げ、どれくらい離れたのかも分からない。もうこれ以上は動けそうもなかった。身体に力を込めるも動かす事ができない。目は霞み周囲がよく見えない。


 ただ前方からガサガサと足音がしたことから、近くに誰かがいることはわかった。


「……すまない。誰かは分からない。ただ、ただ助けて欲しい。お願いだ。私はこんな所で死ぬわけにはいかないんだ。……頼む。助けてくれないか」


 人族なのか亜族なのかそれすらも分からない相手に頭を下げる。顔を土に擦り付け、ただ懇願する。恥も外聞もない。今はもう目の前の相手に頼むしかなかった。


 ーーそれが誰であろうとも。


「……貴方が、レオかな?」


 敵とも味方とも分からない言葉だったが、まるで初めから私を探していたような口ぶりだった。私はそうだと答えるも喉が張り付き、うめくようにしか声は出なかった。ただそれでも彼女には伝わったようだった。


「そう。無事見つかってよかった。それと貴方の依頼だけれども、――安心して。後はもう大丈夫だよ」

「……あり、がとう。貴方の、名前は?」

「私? スーニャだよ」


 これが私がスーニャと初めて会った日。


 私の運命の日だ。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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