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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第2部】目覚め

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【2-1-3】

 あの後時間も経たないうちにギルゴーシュ殿に呼び出され、やや後方に位置する本陣内にて軍議が開催された。


「――ここが攻め時だぞ」


 開口一番にそんな発言を受ける。目の前に座るはギルゴーシュ殿であり、その周りを私やカイリや他軍の将が囲っていた。


「損耗は多い。ただ得られた成果は大きい。レオ将軍のおかげだな」


 彼は無造作に生えた髭を触りながらにこちらを一瞥した。歳の頃は私よりもむしろ父に近い。すでに老齢に手をかけている年齢であり、この戦争の負荷も大きいのだろう。その顔に余裕はなかった。


「いえ、みなのおかげです」


 彼の言葉に返す。謙遜したつもりはない。多大な犠牲がなければとても不可能だった。


「うむ。しかしここで手を止めてはならない。この出血を無駄としないためにも我々は勝たねばならん」


 言うことは理解は出来る。しかし残されている戦力を鑑みては厳しいといわざるをえない。


「あの、停戦という線はないのでしょうか……?」


 一人の若い将が声をあげた。確かに現実的な提案であると思う。亜族側も壊滅に近い。今であれば聞き入れられる可能性もあるだろう。


 しかし予想はしていたが反対するものも多い。『何を言っているのだ』『それでも将校か』などと声があがる。ギルゴーシュ殿がその場を収める。


「意見感謝する。ただな、実は既に使者は送ったのだ」


 その言葉に私含め何名かの将校が驚きの声をあげた。


「しかし一人たりとて消息が分かるものはいない。……亜族側はどうやら人族の声を聞き入れるつもりはないらしい」


 彼はふぅと大きく息を吐いた。


「あるいは撤退だが、今回は獣人族も参戦している。奴らは死なない限りどこまででも追撃を仕掛けてくる。……それが奴らの生き方であり、誉れだからな」


 ギルゴーシュ殿の乾燥した言葉が響く。つまり、倒すしかないのか。たとえどんな状況になろうともそれ以外の選択肢は残されていないのか。


「今奴らは混乱している。この好奇を逃す手はない。全ての戦力をかけて奴らを叩くぞ。――カイリ、やってくれるな?」

「……ええ、仕方ないわね」

「……どういうことだ? 彼女は私の部下だが? 何か任せているとでも?」


 彼は私の問いに答えるべく、ゆっくりと口を開く。


「この機を逃す手はない。ただこのまま総力戦を続けるのでは我々の勝ち目は薄い。ならば少数で敵を突き、敵将を打ち取る。これしかもはや選択肢はない」


 彼はそこで一度言葉を止め、再度続けた。


「ラースはこの手が通じる相手ではない。生来ゆえか警戒心が鋭いからな。ただヴェルグは粗暴で隙に漬け込みやすい。この作戦では我々はラースへ総攻撃を仕掛ける。その隙に、カイリにはヴェルグへ単独で奇襲をかけてもらう」

「……そんなバカなッ!! 承服出来るわけがないッ!!」


 無茶苦茶な作戦に声を張り上げてしまう。そんなもの死にに行けと言っているようなものだ。


「レオ将軍よ。君の意見はわかるただ――「――これしか方法はないのよ」


 カイリがギルゴーシュを遮り話し始めた。


「これは私が持ちかけた話なの。今の戦況ではこれが最善。相手の大将と直接やり合えるのは、エルフの私しかいない。それに、私なら戦死したとしても国の運営に支障はきたさないでしょうし」


 彼女の言葉に思わず面食らう。驚きすぎて声が出ない。ただそれでも搾り出すように反論をする。


「……なにを、なにを言っているんだ? あなたはそんな簡単な存在ではない。私は認めないぞ……」

「ありがとうレオ。でもそうは言っても、私も死ぬつもりではないのよ」


『むしろ、私がいない間の貴方の方が心配なくらい』なんておちゃらけている。


「しかしだなカイリ――「――はい、この話はもうお終い。やらなければやられるのだから。ギルゴーシュ将軍、話を進めてくれるかしら?」

「……うむ。ではカイリは予定通りすぐに此処を発ちヴェルグを襲撃せよ。我々もすぐに陣を解き、亜族へと進軍する。総攻撃だ。……余力を残す必要はない」


 最後の言葉はやたらゆっくりと、ただハッキリと聞き取れた。卓を囲んでいた将達もまた重苦しい表情を浮かべたままに頷く。


 ギルゴーシュ殿はこの言葉を最後にその場を後にしようとする。私は慌てて彼を呼び止めた。


「お待ちください! まだ話は終わってはおりません。此度の作戦、異議があります。今一度作戦を練り直させてくださいッ!」


 私の声は受け入れられることはなかった。聞き留めるものもいない。私は、私の無力さにただ為す術もなく立ち尽くしていた。


「ねえレオ。大丈夫?」


 そんな様子を気にしたのか、カイリが声をかけてくる。その表情には流石に申し訳なさを写していた。


「ごめんなさいね。でも許してちょうだい。ヴェルグ=ガーランドは必ず打ち取ってみせる。だからあなたは、あなたで自分の命を守り切って」


『貴方を生き残らせないと、ガレリオ王にも面目がたたないでしょ?』なんていいながら笑っている。私は彼女が何故笑っているのか理解ができなかった。長らく生きているとはいえ、それでも生きたいはずだ。それなのに彼女はなぜそんな表情ができるのか。


「不思議そうね。レオ?」


 まるで心を読まれたようだ。しかし、ああそうだ。彼女はいつだって私のことを理解していて支えてくれた。私が生まれて今日までずっと。


「私は貴方を手助けできることが本当に嬉しいの。なにも生むことのなかった人生だけれども、貴方を守ることが出来るのならそれはとても素敵なことよ?」


 彼女の言葉を受けてなお私は彼女を止めたかった。実際に止めるよう交渉もした。


 しかし彼女が首を縦に振る事はなかった。私のいうことなど聞き入れやしない。昔からわかっていたことだ。それが今回だけ変わることなんてありはしない。わかっていた。ただそれでも私は彼女に生きてほしかった。これから先も。


 私の思いは叶わず作戦は実行される。私は自軍を纏めるのに必死で、彼女を見送る時間さえ作る事はできなかった。


 幾許もせず号令がかけられ、私はただ戦場を駆ける。彼女の無事願いながら。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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