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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第2部】目覚め

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【2-1-2】

 相手の魔法を避け、勢いのままに剣を突き刺す。何としてもここで倒さねばならない。ここに至るまでにどれ程の犠牲を払ってきたか。ここで私が果たさねば全てが無駄になってしまう。私は自分の身体が傷つくのも厭わず、ただ相手に攻撃を続ける。


 やがて相手は崩れ落ち私はすぐさま剣を振り上げる。絶望した相手の、最後の呟きだけが嫌に鮮明に耳に残った。


「――ああ、なぜ? アヌ。これこそ正義なのに」


 剣を相手へ振り下ろす。その勢いからか切った感触は無かった。剣が地面へとぶつかり、遅れて首が落ちる。私は相手を仕留めたことを確認し声を張り上げる。


「このレオ=ガレリオが、リアナンシー=クィーンを討ち取ったぞ!!!」


 私の咆哮に応えるように、周囲の人族の兵士は歓声をあげた。


 ――ようやく。ようやくだ。やっと膠着していた状況に一石を投じる事が出来た。大将首の一つを取ったという事実は非常に大きい。


 ラフェシアの軍隊は九つで構成される。元々のシェスカの軍隊と、彼らが呑み込んだ国が残りを占めている。敵対し従属させられた国、自ら降った国、背景は様々だが、ラフェシアとして統一された後、意外にもそれぞれの国は自国領土の統治を許され介入される事もなかった。ただし戦争への拒否権は持たず、今回の戦争には九つの内の七つの軍が参加していた。

 

 対してマグノリアだ。こちらは大きく四つの軍隊で構成されており、その数は亜属の源流とされる種族数と同数だ。獣人族、鬼人族、竜人族、精霊族。多様な種族を有する亜族だが、大きくはこの四種族からの派生であると言われる。今回の戦争にはそのうちの三種族が参戦し、それぞれの種族の長が指揮を取っていた。


 人族は参戦した七つの軍のうち、すでに三つが壊滅していた。それほどの犠牲を払って、ようやく亜族のうちの一つを倒したのである。その夜の人族側の野営は久方ぶりに明るい空気が流れていた。


「英雄さんのお出ましだ!」

「レオ将軍! こっちにきて一杯注がせてください!」


 普段あまり声の掛けられない私が、今日ばかりは声をかけられる。私も彼らを無碍にすることなく応じた。


「では今日はご相伴に預かろうかな」

「お! 今日は将軍もノリがいーじゃねーか!」

「ヤバイ。将軍って改めて見ると……」

「おい俺の方が先に綺麗だって気づいてたんだからな!」

「お前はガブリエット様派だって言ってただろうが!」


 他愛無い会話に思わず口元が緩む。彼らなりに私の緊張をほぐしてくれているつもりなのだろう。それから約束通りに一杯の酒を受け、たわいない話に興じほどほどでその場を後にする。私がいたところで気を使うだろうし、この日くらいは気のおけない仲間で祝杯をあげて欲しかった。


 しかし、兵の数が随分と減っている。いやそれでもこの辺りはマシな方だろう。他では壊滅状態の軍も多い。兵だけでない。将校らもだ。率いている将軍達の中には見知ったもの達もいたが、お世辞にも戦慣れをしているとは言えないものもいた。それが突然あの亜族達を相手にするなど到底無茶な話だ。


 ひとしきり兵士達への挨拶を終え、私は自分のテントに戻ろうとする。その時にまた背後から声をかけられた。


「レオ将軍、私とも一杯付き合ってもらえませんか?」


 声をかけてきたのはカイリだ。今日の戦果も、彼女が相手を引きつけてくれなければとても倒すには至らなかっただろう。彼女の魔法はエルフの噂に違わぬ凄まじいものだった。敵軍に彼女がいなくてよかったと背筋が冷える思いがしたものだ。


「カイリか。無論だ。しかしどこにいたんだ? 探していたんだぞ?」


 彼女は私たちが野営に戻ってから姿を消していた。どこに行ったのか探していたものの結局見つからず、今に至っていた。


「ふふっ。女性には秘密の一つや二つあるものと教えたでしょう? 変な勘繰りは異性に嫌われますよ?」

「……カイリ。今は戦時中だ。そのような物言いは控えるように」

「あらつまらないわね……」


 言葉通りに口を尖らせている彼女にこれ以上何か追求する気はなかった。必要な事があれば報告はしてくるはずだし、こちらの物言いも半ば冗談だった。


「それで、一杯付き合ってくれるんですか?」

「ふっ。それくらいなら無論構わんさ」


『そうこなくっちゃ』なんて言いながら彼女が酒瓶を取り出し、盃に注ぎ始めた。


「とっておきのやつなんだから味わって飲んでちょうだいよ?」


 得意げな顔をしている彼女を見て私は自分の緊張が解けていくのを感じた。


「……なぁカイリ。私たちは勝てるのだろうか」


 いくらか酒を飲み交わし雑談をした後、ポツリと声が出てしまう。こんな話は彼女にしか出来なかった。


「リアナンシーは確かに倒せた。しかしまだ二人同格の大将がいる。こっちの被害は甚大で、次の攻撃にも耐えられるかわからない。……こんな状態で何が出来るのだろうか」

「……ねぇレオ。そう悲観するばかりにならないで。亜族の長の一人を倒したなんて、人族の長い歴史の中でもそうそうある話ではないわ」


 彼女は盃を傾ける。空いた盃に酒を注いでやった。


「ありがと。しかし動くなら今、でしょうね」

「ああそうだな。今なら奴らも混乱しているだろう。我々が攻め込むには絶好の機会だ」

「……ええ。そうね。きっとそうだわ」


『まあ今日はほどほどにして休みましょう? 寝付けないなら私があやしてあげましょうか?』という彼女の言葉をあしらいつつ杯の酒を喉へ流し込む。


 彼女のなんだか曖昧な反応が気には掛かりはしたが、私も疲労が溜まっていたために程なくして床に着く。明日からの我々人族の快進撃を夢見ながら。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

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