【1-10-5】
「スーニャー、おめでとー♪」
ジーが満面の笑みを浮かべながらケーキを持ってきてくれる。この世界でも祝い事の際には身内でご馳走を囲むのが通例だ。今回は私が無事に手術を終えた事へのお祝いというわけだ。
「いやー、でも本当にもうダメかと思いましたよー」
ケーキを切り分けながらジーが話す。
「ありがとうねみんな。いや本当に死ぬかと思ったよ……」
冗談でなく本気で死ぬかと思った。それに周りから見たら意識を失っている間など、気が気ではなかったはずだ。私が生き残れたことは、ひとえに彼女達のおかげと感謝の念が絶えない。
私はあの夢から覚めてすぐに体調を取り戻した。生来の丈夫さゆえか不死鳥の回復力ゆえか、はたまたその両方かは分からなかったが、傷はすぐに癒えた。
ただ自然と魔素を取り込んでしまうために、自然発火のように炎が出てしまうことはどうしようもなく、これだけは対策を講じる他なかった。
「ふむ。しかし上手くいったものだな。その外装がこうして役に立つとは」
リムさんは飲み物を飲みながらにそう話す。私は今、リムさんがバルディアを訪れた際に着ていた黒衣を纏っていた。この衣は魔素を内にも外にも一切通さないのだ。
本来であれば、周りに自分の魔素を感知させないための装備で、不要な諍いを避けるため用いられる。ただ私にとっては、無闇に吸収してしまう魔素を遮断するための道具となっているわけだ。
「しかし、ククッ。笑いが抑えられんな。本当に成功するとは」
「いやいや、貴方成功させるって言ってたじゃないですか……」
一人モリモリとご馳走を食べているモノを撫でながら、私は呆れた声を上げる。相当に危険な手術ではあったのだろうが、そう言われると少し釈然としない部分あった。
「まあまさか失敗するかも、なんて言えないですからね。でも俺も本当に驚きましたよ。今は何ともないんですよね?」
レナードは話しながらに私へ料理を取り分けてくれた。
「今は驚くくらいに何ともないね。まあ若干身体が熱いけどそれくらいかな」
「本当に、無事で何よりですスーニャ」
レナードもまた最後まで私の看病をしてくれていたらしい。リムさんからの命令があったとはいえ、彼のサポート無しには手術の成功もなかったことだろう。面と向かってお礼を言うのはまだこそばゆいので、心の中でだけお礼をしておく。
「しかしこれは大きな前進だぞ。言わずもがな、不死鳥の魔素を取り込む特質とその回復力は他の追随を許さん。貴様がその性質を使いこなせれば、既にかなり上位の存在となり得る」
彼女がそう言うのであればそうなのだろう。ただ自分では実感はわかず、どんな具合なのかも全く分からないわけだけれども。
「ーーそれでこれからどうするか、なのだが」
彼女は早速次の話を始める。
「え。ご主人もう先の話をするんですか?」
食事を取ろうとしたジーが思わず顔をあげる。確かに術後に幾許かも経っていないのに、性急ではあることだろう。ただ私もリムさんの意見に賛成だった。
「……私も同意見です。体調に問題が無い今、進められるのであれば進めていきたい」
四方から驚いたような反応が上がるが、意見は変わらない。元々私の目的のために皆の力を借りているわけだし、休んでる暇などなかった。
「いいぞスーニャ。それでこそだ」
リムさんはまた笑みを浮かべる。先ほどの笑みとは異なり凄みを感じさせるものだった。
「次だが、元々は貴様の膂力を高めようと骨、肉と進めるつもりだった。だがそれは止めだ。まずその魔素をどうにかせねばならん」
私も同じ意見だ。今のままでは、装備を外した途端に自滅してしまう。しかしどうやって抑え込むのか。
「魔素は心臓から生まれ臓器に宿り、神経でコントロールされる。つまり、次の目標はそれら素材の確保だ」
次は魔素関係を強化するということか。それであれば魔法に優れた種族が次のターゲットということだろう。
「それで何を狙うんですか?」
「――ああ。次はエルフを狩るぞ」
エルフ。魔法の扱いにおいては最右翼とされるもの。だがその希少さから、すでに絶滅の危機にも瀕していると呼ばれているはず。
「クククッ。貴様はとことん神に愛された存在だよ」
笑っている彼女であるがどう言う意味かわからない。私は彼女の言葉を待った。
「近い内に亜族と人族は全面的に戦争をする。その戦いの中にはエルフもいると聞く。私達は秘密裏にそいつを狩る」
『戦争中なら人一人死んだところでおかしくもなかろう?』と彼女は非常に上機嫌に話していた。私は私で異論を挟むつもりもなかった。むしろ確かに幸運だとさえ考えていた程だ。
早速私たちはどのように戦場に入り込むかの相談をし始めた。レナードは最近までラフェシアに属していた事もあり、ラフェシアが取るであろう戦術やマグノリア含めての情報を細かく説明してくれた。彼の話へ皆で耳を傾ける。気がつけば、食事をそっちのけで話に夢中になっていた。
全てが目的へ向け進んでいくのを感じていた。リムさんではないが、このスムーズさには気味が悪いものすら感じてしまう。ただ、歩みを進めることに躊躇いはない。
里を滅ぼされたあの日、俺は私になった。姉の身体を受け継ぎ、ただ一人生き延びた。
そして誓ったのだ。なんでもする。絶対に復讐すると。たとえその結果、ーー世界の敵と呼ばれようとも。
これが私、スーニャの物語の始まり。
長い長い戦いの、第一歩。
この投稿をもちまして、第一部が完結となります。
ご愛読いただいている皆様に心より御礼申し上げます。
皆様の応援と支えがあったからこそ続ける事が出来ております。
明日以降は第二部の投稿を開始いたしますので、
引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。
なお活動報告にてこの物語の世界地図を公開しております。ご興味のある方はご覧下さい。
これからもどうぞ宜しくお願い致します!




