【1-10-3】
彼女との出会いは偶然だった。ただ今にして思い返すと運命だったかのようにも思える。
私は棲家を探していて、大昔に滅びた人族の王国跡を訪れていた。そこは一部の建造物が残るだけで草木や生物も少ない。私にとって更に都合が良いことに、その跡地の中には高い塔が残されていて、その頂上であれば滅多なことがなければ誰かの目につくこともなさそうだった。私は早速この地を新たな棲家として決め頂上へと向かった。
予想外だったことはすでに先客がいたことだ。見たところまだ幼く少女と呼ぶ程度の年齢だろう。驚く私を気にもせず彼女は気持ちよさそうに眠りについていた。
私は折角見つけた貴重な棲家が無駄になったことに若干機嫌を損ねていた。彼女を起こして叩き出してしまおうかとも考える。自然と身体の炎の勢いも強くなっていたのか、件の彼女は暑そうに身を捩り程なくして目を覚ました。
「うゅ……。誰かいるの?」
彼女は目を擦りながらこちらを見る。私は敵意を隠すつもりもなく彼女へと警告を行う。
「この場所は私が貰う。貴様は今すぐにここから立ち去るがいい。死にたくなければな」
相手が萎縮するよう圧をかける。ただ相手は一向に意図した反応を返すことはなかった。
「うわぁ! かっわいい! 小鳥さんかな? なんで言葉を喋られるのー!?」
私の身体はまだ小さく幼体だった。不死鳥の成長はゆっくりと進む。数百年を掛けてようやく成体となる。今の私のサイズは確かに小鳥ともいうべき大きさで彼女の肩にも乗れる程度だった。だが目の前の少女をかき消す程度のことは容易だ。
私は話すつもりもなく彼女へと炎を吐く。これで彼女は燃え消えて私は一人この環境で長いことを過ごすことになるだろう。……などと考えいたのだが、彼女は予想に反して何もダメージを負っていなかった。ここにきて私は彼女もまた特殊な存在なのかと疑念を抱き始めた。
「……貴様はなにものだ?」
「あなたの炎、綺麗……」
彼女は私の炎の残り火をうっとりと眺めていた。そしてその目線はやがて私へと向かう。
「――ねぇ、もっともっと見せて?」
私を射抜く眼差しに、初めて背筋が冷えるという思いを経験する。生涯で一度も窮地に追いやられたことのない私が、初めて自分を脅かすのではないかと思える存在と相対することになった。
私はすぐさま彼女へと炎を吐き攻撃を繰り出す。だがそのどれもが効果は無い。――やがて私は初めての敗北を知る事となる。
「……私の負けだな。こんな所で死ぬとは思いもしなかったが、これもまた定めなのだろう。貴様の好きにするがいい」
頭を垂れた私を彼女は不思議そうな顔で見ていた。
「えー? もうおしまい? もっと遊ぼうよ!」
そこからは彼女が言うところの、遊びという名の壮絶な攻撃が始まった。私は逃げる事もできず、なす術もなく何度も何度も死に、そして生き帰った。……もはや早く殺してくれと言いたいくらいの扱いだった。
「あははっ。アナタ面白いねー! 壊れないオモチャって初めて! アナタなら私の友達になれるかな?」
「貴方は、誰なのですか……? それに友達になるとは……?」
すでに心身ともにズタボロにされた私は、言葉半分に彼女の話を聞いていた。
「ねーねー! アナタのお名前は? 友達になるなら相手の名前を知っておかないといけないんでしょ!?」
「……私に名はありませんよ。好きに呼んでください」
「えー! そーなの? んーじゃあそうだね〜」
彼女は顎に手を当て考え込む。少しの逡巡の後、彼女は嬉しそうに私へその名前を伝えた。
「――じゃあアンジェル! アナタの名前! どう素敵じゃ無い?!」
鼻息荒くこちらに詰め寄り、私の反応を見ている。
「アンジェルですか。別に構いませんが、その由来をお聞きしても?」
「だってアナタが纏っている炎とその翼、まるで天使みたいだもの!」
分不相応な名前だと思う。ただ私は名前を与えられた事、名前を呼んでもらえたことを喜んでいる自分に気付いた。
「そういえば、貴方の名前をお聞きしていませんでした」
「私? 私はククル=マグノリアだよ!」
こうして私は彼女に出会った。彼女が太古の神々であることもこの時に初めて知ったのだ。
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