【1-9-4】
ガレリオ城は数百年前に建立された荘厳な古城であり、周りは城下町が広がっているために人々の活気が満ちている。途中見知った国民達に声を掛けられながらも我々はひとまず城に向かい王との謁見を行うことにした。
城中には王への謁見の間があるのだが、私達は到着次第父であり、なおかつこのガレリオの王であるガルム=ガレリオへの面通りへ進んだ。
「おお! レオ戻ったか!」
その喜びようを見てはもう少し頻繁に帰ってやればよかったと少し反省をする。しかし少し白髪が増えただろうか。シワも増えている。あの筋骨隆々とした父が、若干とはいえ草臥れていることは否が応でも年齢と月日を感じさせた。
父は祖父からこの国を受け継ぎ、私が生まれた後も統治を続けている。既に前線に立つことはないが、昔は数え切れないほどの武勲を挙げた父だ。戦場の鋭利さは今でも節々に残されている。ただまぁあくまで公式の場で、なのだが。
「ええ。ご無沙汰しておりました。王も壮健そうで何よりでございます」
「うむ。レオも変わりないようで何よりだ」
「して今回の火急のようとはいったい?」
「まあ待て。その話をする前にまずはレオの近況だろう。随分と顔を合わせなかったのだ。話を聞かせてくれ」
早速本題に入った私の出鼻を挫かれる。つらつらと取り留めもない話を尋ねられ、ただそれを返す。ここまで呼び出したのだ。火急のようがあるはずだろうに中々その話題を切り出しては来なかった。
「そうか。長旅で疲れたであろう。少し休むといい」
「いや、しかし」
そのままに体を休める事を勧められる。まだ呼び出された要件を聞いていないことに声を挙げようとしたが、共にいたカイリに妨げられた。
「はい。それではガルム王よ。お言葉に甘えさせて頂きます」
カイリはそんな私の気持ちを黙殺し話を進める。周りもその言葉に倣い給仕達は準備を進めていた。
「ほらレオ将軍。王もそう仰れているのですから、少し身体を休めさせて頂きましょう」
彼女の言葉には有無を言わせない圧力があった。私は仕方なしにその言葉に従いその場を後にした。
案内された先は以前の私の居室で、私が城を後にする前から大きく変化はなかった。父がそのままにするよう命じていたのだろう。私は共についてきたカイリと共にひとまず羽を伸ばす事にした。
「しかしカイリ。要件はよかったのだろうか?」
私の言葉にカイリは苦笑いを浮かべる。私はいまだに意味が分かっていなかった。
「貴方は本当に昔から変わらないわね。ねぇレオ。今回召喚された理由はきっと特にないのよ」
私は頭に疑問符を浮かべる。
「というと?」
「つまり王は貴方の顔が見たかったわけ。だってもう数年も会ってないわけだし、クレアも亡くなって長いでしょう? それは寂しいはずよ」
クレア、私の母は私がまだ幼い頃に流行り病で亡くなった。確かに寂しいことはそうかもしれないが、しかしあの父がそんな理由で私を呼び出すなどとても信じられない。
「それにこれからは大きな戦争が控えてる。それはガレリオも当たり前だけども分かってる。娘の大事に一目でも会いたいというのは変な話でもないでしょうに」
『これくらいしないと貴方帰らないじゃない?』なんて言われても私としては納得がいかないが、大きなため息を吐くカイリの姿を目の前に反論する気にもならなかった。
そして彼女の考えはおそらく正しかったのだろう。その後も私達は特に呼び出されるわけでもなく夕食まで部屋や場内でだらだらと時間を潰した。
「ーーレオは最近どうなのだ?」
夕食を食べながらそんな話を受ける。よくある一般家庭のような風景だ。私達は父と私とカイリの三人、そして最低限の給仕だけを残して会食の間で夕飯を取る事になった。
「いや、特になにも変わらずですが」
淡々と返すが父としては納得が行かないようだった。
「いやほら仕事もあるがそれ以外も色々あるだろう?」
「いえ特には」
「……ねぇレオ。せっかく来たんだから色々話してあげたら? 王が可哀想よ?」
「おおカイリ……。やはり其方を一緒に呼んでよかったぞ」
既に公の前でもないために父も私用の様子に戻している。カイリは長らくこの国の統治にも関わってきた。そのために当然ながら父とも関係は深かった。
「いえガルム。中々レオを連れて来れずごめんなさいね。彼女もけして悪気があるわけではないのだけれど」
「いいのだ。レオは昔からこうだし、私がいくら言っても聞かない猪娘だったからな……」
「ええ、ええ。本当に昔から何一つ変わらなくて驚くくらい……」
「おいこら二人とも」
ムッと顔を歪めつつ二人を諌める。私だって色々考えているし成長だってしているのだぞ。
「ははっ。冗談だ。それで誰か良い相手なんておらんのか?」
「ゔっ。それは……」
実は定期的にやり取りをしている手紙からも節々に孫の顔が見たいとの意図は感じられていた。ただ私はそんなつもりは毛頭なく当然良い相手などいなかった。
「レオはこの容姿なので結構言い寄られはするんだけれども、まったくその辺りは子供の頃のままでね」
「しかしだな。そろそろ私も孫の顔が見たいのだ。いや変な相手なら許さないがな?」
私はただただ早くこの話題が過ぎ去らないかと所在無さげに沈黙を続ける。
「まあそれはそうよね。やっぱりレオ、そろそろ見合いでも何でも身を固める事を考えたら? 仕事はしながらでも出来る部分もあるだろうし」
「いや私はまだそういうつもりは……」
「ゆっくりも悪くはないけれども、遅くなると何かと不安も増えるでしょう? 殿方だってどうしても少なくなるわけだし」
カイリの言葉に父もうむうむと頷いている。そしてその後も二人からはぶつぶつと言葉を投げられ、私はたまらず話題を変えようと試みた。
「そ、そういえば、何か新しい話はないのですか? 私も久々の帰郷なので話を聞きたいのですが」
「む。そうだなぁ。そういえばガレリオの話ではないのだが、不死鳥が討伐された件は聞いたか?」
「不死鳥が討伐されたとは、あのアンジェルがですか?」
「うむ。Aランクパーティがクエストを受けたそうだが、どうも立役者になったのはまだ駆け出しのFランク冒険者らしい。俄かには信じられんが」
不死鳥はこの世界でも数少ない賢人の一人だ。その強さは絶対的なものであり、ガレリオが総力をあげても討伐には相当の被害が出る事だろう。それをFランク冒険者が、というのは確かに眉唾物だった。
賢人。太古の神々の後に作られた存在。神々は人型の姿をしており、人族・亜族はその形に準じている。対して賢人は人型の姿を模しておらず、そのために人の姿を持たない獣やモンスターの祖ともされているが、賢人のそれぞれが高度な知能を有し言葉すらも解す。世界で数十体しか確認出来ておらず、全てが太古の昔から存在しており神とも認められる存在。
彼らの中には人々に被害を与えるものもいるためにギルドの討伐対象となっていたことは知っていたが、長らく達成するものはいなかったはずだ。それがまさか討伐に成功するものが現れるとは。
「仰られる通りですが、本当なのでしょうか」
「ははっ。どうだかな。しかし中々面白い話だろう?」
確かにその通りだ。戦時中である我々にとって、もし味方となればそれはそれは心強い存在だろう。今度ツテを使ってギルドへ働きかけてみようか。
「なんという名前か知っていますか?」
「たしか、――スーニャ? だったかな」
「スーニャですか。覚えておきます」
そこからは話題は変わり、国内の警備の話しや臣下達の近況、政り事から父の身体の悩みまで、真面目な話から馬鹿話までを夜遅くまで話し床につくことにした。
私は目を瞑りながらふとあの話を思い出す。不死鳥の件だ。確か名前はスーニャだったな。忘れずに覚えておこう。いつか会うこともあるかもしれない。
関わらぬのであればよし。仲間になるならなおよし。もし敵となるのであれば、排除するまで。
ここまで数えきれないほどの血を流した。それもようやく終わりが見えている。我々の勝利を持って世界を平和とするのだ。それを邪魔するのであれば、容赦するつもりはない。
ーーそれはもはや、世界の敵と同義なのだから。
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