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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第1部】夜明前

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【1-9-3】

 花が咲いている。見たこともないくらい大きく、鮮烈な色を持つ花。赤や白、紫などの色が混ざっている。ただ特徴的なのはその香りだ。強烈な鉄臭さに加え、吐瀉物や汚物の匂いも混じっている。ただ私はまるで縫い付けられたかのように目の前の光景から目を離すことができなかった。


 調停式は何事もなく開始された。というよりもただ開始されただけという言い方が正しい。迎入れる時には柔和な物腰であった相手国は、シェスカ側が席につくと同時に態度を一変させ彼女達に撤回を求めた。応じなければこの場で殺すとの声もあった。


 言ってしまえば最初からそのつもりだったのだ。周りは武装された兵が配置されており、彼女達は出入り口からも離れた奥の座席に座らされていた。シェスカ側が三人で来たこともまた彼らの計画の実行を助長したのだろうと思う。随分と強気に詰め寄る姿を横目に、私はどう展開が転がるのかと傍観していたが、驚いた事に彼女達の反応はひどく冷めたものだった。


「……えーと、じゃあアンタ達はわたし達の提案には乗らないってわけ? それが最終決定って理解でよろしいですかー?」


 ガブリエット殿が臆することなく相手方に応える。臆することなくというよりは、単純に面倒くさそうな様子であった。そして彼女のそんな態度に相手方はさらに激昂していた。


「貴様たちのような弱小国に我々が従うわけなかろうが! 死にたくたければ今すぐに撤回しろ!」


 老齢の男性がガブリエット殿へと詰め寄る。彼には見覚えがあった。確かこの国の宰相だったはずだ。経験を活かしたその戦略は舌を巻くものがあり、自身もまた稀有な剣の才能をお持ちだった。そんな彼が本気で切り掛かってしまえば、普通のものであればひとたまりもないだろう。


 あくまで普通であれば、だが。


「どうするつもりなんだ!? 今すぐに決断しろ! なんなら私が直接相手をしてもいいんだぞ!?」


 彼は怒声を発しつつ威嚇する。それでも彼女達は全く動じていない。


「……はぁ。こうなると思ってたんだよね。つまんな」


 ガブリエット殿はやれやれと肩をすくめる。彼女のその反応に業を煮やしたのか、男性は剣を抜き彼女へと突きつけた。


「貴様、バカにするのもいい加減に――「――はいはい、さよなら」


 ガブリエット殿が男性に指を向ける。そしてパンッと風船が弾けたような、乾いた音が響く。そして辺りに彼の血液と臓物が散らばった。


 皆何が起きたのか理解ができなかった。あまりにも突然の事過ぎた。ただ少しずつ、彼が殺されたのだと理解が追いつく。やがて群衆は、同胞を殺されたことへの怒りに飲み込まれた。あいつらを殺せと声が響く。荒ぶった人々は我先にと彼女達へ襲いかかった。


 ただ彼女達に近づくと同時に、先ほどの男性と同様身体が弾け飛んでいく。一人、二人、三人、四人、彼女達に切り掛かった人々は皆殺されていく。それでもと襲いかかったものもまた全て殺された。辺りには血の海と臓物、人だった物体が積み上がっていく。


 程なくして彼らは戦意を失った。武器をむけてはいるものの、遠巻きから威嚇しているのみであり、向かっていくものはもはやいない。


 しかしそれでもガブリエット殿の手は止まらない。人が弾ける音が響き続ける。死体の山が増えていく。向かっていかずとも関係なしに、地に伏せ謝るもの、逃げ惑うもの、泣き崩れるもの、全てが平等に爆ぜ、部屋の中は彼らの血で溢れていた。


「……レオ将軍、我々も離れた方が」


 慌てた側近の一人から声をかけられる。確かにいう通りだ。私はこちらへ被害が及ばぬうちに、その場を後にしようとする。ただそうする前に彼女達の一人が歩き始めた。三人のうちの一人の少女である。どうやら向かうはこの国の玉座だ。歩くとともに頭のベールがするりと落ちる。


 私はそのあまりの美しさに目を奪われた。掘りの深い顔立ち、大きな真紅の瞳、金色の髪、その造詣はまさしく神が作ったもので、一目だけで我々人族とは異なる存在とわかる。私などでは到底測り得ない存在がその場にいた。


 それでも彼女が玉座へ進む事を止めたのは、この国の主だった。


「貴方がどなたなのかは分からないが、それでも私は、私たちの国を易々と譲るわけにはいかないのだ」


 彼は短剣を持ち少女へと襲い掛かった。ただその刃が届くことはなく、彼もまた他の人々同様に破裂した。熱い血潮が少女の全身に降りかかる。彼女は恍惚とした表情を浮かべながらにそれを受け入れている。そして暫くした後、玉座へと座った。


 皆は一言も発することもなく、ただ少女を見つめていた。


「――花は好き?」


 その声は不思議とよく通った。


「私は赤い花が好き。他の色も好きだけれども、赤が一番好きよ。あと香りが強ければなお良いわね」


 うっとりとした表情を浮かべながら周りを見渡す。その頬から滴る血液をなめとる。私達は不思議とその光景から目を離せず、誰ともなしに跪いていた。


「……もっともっと咲かせてくれるかしら?」


 悪魔のような笑み。それに応えるように花は咲き誇り続けた。私達は巻き込まれない内にその場を後にしたが、聞いた話では相手国は抵抗を諦め降伏を受け入れたらしい。……あの場で生き残ったものは、ごく僅かであったと後から漏れ聞いた。

 

 この後も続き引き起こされる周辺国の凄惨たる惨状を見て、私は自国へ降伏を提言した。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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