【1-8-5】
「ほんっとーに、ありがとうございましたっ!」
金髪ボサボサ頭の青年に頭を下げられる。彼はパーティのリーダー的な存在らしく一番に話を進めていた。
歳の頃は私と同じくらいだろうか? 精悍な顔つきながらもまだ幼さが残る表情が印象的だ。彼と同じパーティの三人も後に続き私たちに頭を下げる。
「皆さんがいなかったら俺たちは全滅でした。本当に命の恩人です。どれほど感謝すればいいのか……」
あの後私達は魔法を解き彼らを起こした。ひとまず私たちが不死鳥を撃退したと説明をして、もう危険は去ったことも伝えた。彼らはすぐには納得はしなかったものの、不死鳥の死骸を見ては受け入れる他なかったようだ。
「しっかし貴方がそんな熟練した戦士だとは。俺全然分かりませんでしたよ!」
誤算だったのは、私がほとんどの立役者に仕立て上げられたことだ。リムさんもレナードもまだ外見だけは幼い。それに面倒ごとはごめんだと、今回の件は全部私の所業だということになった。いやまあいいんだけど……。
「でもどうやって倒したんですか? やっぱり何回も何回も倒して復活してを繰り返して、やっと倒したとか?」
「いやまあ、そんなとこかな……」
アハハとお茶を濁しつつ回答を続ける。……やめてそんなキラキラした目で見ないで。責めるようにリムさんを見るも、彼女は私の視線など気にせず不死鳥の死骸を観察していた。
「それで怪我とかは大丈夫なのかな?」
「お陰様で! 勿論ところどころ怪我はしてますが、重傷とまではいかないので」
実際は彼らを起こす前にレナードが回復魔法を掛けていたのだが、あえて話す必要もないだろう。それに生き延びられたのは彼ら自身の力でもある。実際に数回は不死鳥を倒していたわけだしその実力は本物だ。
「えっと貴方達は……」
「あ、俺はスタンといいます。出身はラフェシアなんですが今は冒険者です。それと一応みんな紹介しますね」
その言葉の後にパーティの三人が横に並んだ。
「左からラルフ、セラム、ニーナです。ニーナは俺と同じ人族、ラルフは獣人族、セラムは精霊族ですね」
ラルフと呼ばれた男性は、全身を毛皮に覆われた姿をしていて、言い方は悪いが獣が人を模ったような姿をしていた。セラムという精霊族の女性は傍目には人族と大きな差はない。強いていえば耳がエルフのように尖っていた。しかし人族と亜族が同じパーティというのは珍しいのではないだろうか。
「複数種族のパーティなんだね?」
私は思ったままの感想を口にする。ただそれを聞いてスタンは顔を顰めた。
「……今は人族と亜族は戦争中です。ただ俺は種族で壁なんてないと思ってます。俺たちだってこんな仲良くやれてるんだ。人数が増えたって何とかなるに決まってる」
その言葉を聞いてスタンはまっすぐで純粋な子だと思った。私も意見自体には同意だが、そう簡単なものでもないのだろう。
「ん? 貴様、アヌ教のものか?」
リムさんが突然話に加わってくる。どうやら死骸の観察もひと段落したようだ。そしてスタンの横にいたニーナの首飾りを見てアヌ教と分かったようだった。ニーナは少し驚いた表情を浮かべた後に頷いた。
「ええ。仰られる通りです。私は長らくアヌ教に入信していているのですよ。もしや貴方も?」
確かに小さな首飾りなのによくわかったものだった。リムさんはフンと鼻を鳴らしながら答えた。
「私は違う。ただまあ知り合いが、色々とな」
「そうですか。アヌ教の教えはとても素晴らしいものです。ご興味があれば、ぜひ話を聞きに来てくださいね」
柔らかな笑みを浮かべる彼女を見るとまるで聖母のように感じる。こんな人がいるのであれば入信しようとする人も少なくないだろう。
「機会があればな。さて雑談はおしまいだ。これからの話だが」
リムさんが場を仕切り始める。
「不死鳥の素材だが貴様らには片翼をやろう。他は我々が頂く」
文句は言わさないと言った雰囲気を感じる。スタン達は若干気圧されながらも返答する。
「ええ。構いませんよ。俺たちだけでは死んでたんだ。貰えるだけ有難いです」
「そうか。では交渉成立だな」
そのあとは死骸の分割をスタン達に任せて我々は休憩をしていた。
「リムさんってアヌ教に知り合いがいたんですね」
宗教とは縁遠い人だと思っていただけに意外だった。
「ん、まぁ、な」
珍しく歯切れの悪い回答だった。
「まあなんだ。あの娘はあんなことを言っていたが、あそこには関わらない方がいい」
失礼だが、唯我独尊な彼女に苦手なものがあったとは。逆に興味が湧いてしまう。
「ちなみに素晴らしい教えってどんなものなんです?」
興味本意で聞くもやはりリムさんは苦々しい顔を浮かべていた。
「……知らん。知りたければ自分で調べろ」
リムさんのその話したくない様子に私もそれ以上聞くことはしなかった。まあ関わる機会なんてないだろうし別にそこまで興味があるわけでもなかった。
程なくして解体作業が終わりスタン達と別れる。彼らは私たちの取り分も街まで運ぶと言ってくれたのだが、丁重に断った。下手に共に行動して我々への疑念が生まれても困るからだ。
「本当にありがとうございました。今度は俺たちが恩を返す番なので、次会った時には何でも頼ってください!」
そんな言葉を受けつつ彼らを見送る。冒険者なんて次会えるのかも分からない人生だろうが、また会える日を夢見て。そして私達も収穫とともに帰路へとつく。
「いやこんな重たいの運べないんじゃ……」
「レナードが常に魔法をかける。重量も鮮度も問題ない」
「え、とはいえでも結構距離ありますよね?」
「リム様……。いえ分かりました。やりましょう」
「勿論。貴様も手伝えよ?」
「……えっ」
私達がバルディアへと着いた頃には私もレナードも結局は息も絶え絶えになっていて、少しだけ休憩を取る事にした。
しかし、別れ際にスタンから気がかりな事を聞いた。
『ーーそういえば、もう少ししたら人族が亜族へ全面戦争を仕掛けるらしいですよ。だからクエストがあってもマグノリアとラフェシアの境らへんは行かない方がいいかもです!』と、そう言っていたのだ。
戦争ということはあのガブリエットも出てくるだろう。私はその顔を思い出し、自然と手を強く握りしめていた。
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