【1-8-3】
リムさんが不死鳥へと向かっていく。冒険者パーティの面々は早速こちらに気付くものもいて慌てて声をかけてくる。
「おい! なんでこんな所にいるんだ! 今すぐに逃げろ!」
「女の子?! なんでここに!? 早く離れて!」
「……レナード、こいつらをよけてくれ。邪魔だ」
「はい。承知しております」
レナードは何やら魔法を唱え始め、即座に彼らは意識を失った。睡眠の魔法なのだろうか。次に彼らの身体が宙に浮き、先ほどまで私たちがいた岩陰へと運ばれていく。ひとまず前線からは退かしておこうということだろう。
「さて仕切り直そうか。しかし不死鳥と相対するのはそういえば初めてか」
リムさんが不死鳥の眼前に立つ。私たちは攻撃が及ばない程度に離れた場所で様子を伺っていた。
「……貴方はもしや、太古の神々の一柱では?」
驚いたことに、それは紛れもなく目の前の不死鳥の声だ。
「いかにも。私はアヌ神が五女、リム=グネフェネだ。言葉を解するとは貴様は賢人の一人か?」
「その通りです。名をアンジェルといいます。お会いできて光栄です」
賢人には具体的な定義はない。ただ、世界で賢人として認定されているものは二十にも満たないと聞いている。原初の神々の後に生を受け、今日まで生き続ける存在。彼らは言葉を解するとは聞いたが、まさか実際に目の当たりにするとは。
「それであれば話は早いな。貴様の心臓が欲しいのだ。譲ってくれるな?」
「……理由をお聞きしても?」
「うむ。私の夢のためだ。貴様の心臓を使い、私達すら超える生物を作りあげたいのだ」
誇らしげに話しているが、不死鳥側からしたらたまったものではないだろう。それではいそうですかと譲ってもらえるはずがない。
「……貴方がそう望むのであれば私は構いませんよ」
しかし彼? 彼女? は提案を飲むという。ただある条件を掲示した。
「ただせっかくお会いしたのです。冥土の土産くらいは頂いても宜しいでしょうか?」
「いいだろう。なんだ?」
その言葉に不死鳥の炎が揺らめいた。
「ーー貴方と戦ってみたいのです。貴方ほどのスケールの存在を私の身を持って感じてみたい。自分の矮小さを再認識してみたい。それが私の望みです」
先ほどから想像だにしない展開が続いてる。ただリムさんは笑った。
「ハハハッ。構わんぞ。しかしそんな望みとはな」
「……私は少し長く生きすぎました。貴方からしたら何を言っているのかと思うかもしれませんが、それでも私からしたら長かった。友も家族もなく、相対するのは私を殺しにくる冒険者のみ。例え話しかけても化け物と畏怖されるだけ。同族を探したこともありましたが、とうの昔に諦めました。……この生に、少し飽いてしまったのです」
『ふむ?』とリムさんが眉を顰める。
「理解できんな。そもそも貴様、生まれた時から一人だったのではないのか? 飽きたというのも、何かと比較しているからだろうが」
「……実は少しの間だけ、ククル様と共に過ごした時期がありました。あの時期が、私にとっては生涯で一番幸福だったかもしれません。今では道は分かれてしまいましたが」
思ったよりも賢人と呼ばれる生物も人間的なのだろうか。話を聞いている限りその感性に私たちとの違いは感じられなかった。
「そうか。まあどうでもいい話だ。ただ、希望の手向けは添えてやろう。存分に味わっていけばいい」
リムさんの雰囲気が変わる。不死鳥は感謝を表すようにその両翼を振り掲げ、雄叫びをあげた。
絶対的存在同士の戦いが始まった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




