【1-8-2】
私たちは一旦岩陰に身を潜めることにした。前方に戦闘真っ只中の光景が広がっていたからだ。
見たところ四名のパーティで、男性二人が近接戦闘を担当し、女性二名が遠距離からの攻撃と回復を担っているようだった。ただ皆身体に傷を負っている。状況としては劣勢なのだろうか。緊迫した様子が伺えた。
そして相対しているのが、私たちの標的である不死鳥だ。初めてその姿を目にするが、思わずその神々しさに目を奪われる。炎に包まれた身体は黄金色に輝いていて、発光した光から背には虹が見える。背丈は5m程度だろうか? ただ羽を広げた横幅はその倍以上はある。
前世の世界でゲームや漫画で見た不死鳥そのままの存在が、目の前にいた。
「スーニャ。不死鳥が、なぜ不死鳥足り得ているか知っていますか?」
突然レナードが私に話しかけてくる。不死鳥足り得る理由?
「どういうこと?」
「不死鳥はその名の通り死なないことで知られています。ではなぜ死なないのか?」
「うーん? 再生能力が凄いから?」
トカゲの尻尾が生えてくる事のスピードアップ版的な?
「ふふっ。その通りなのですが、その先に理由があるのですよ」
「……ようはだ。奴らはその馬鹿げた程の自前の魔素を、再生に充てている。さらにタチの悪いことに、周囲からも魔素を奪っているんだ」
つまらなそうに戦いを眺めていたリムさんが会話に加わってきた。
「奪う?」
「ええ。不死鳥はその個体自体の魔素量もさることながら、周囲のエネルギーを自己へ吸収することができる。つまり、枯渇することはないんです。――ここに来るまで生物を見なかったでしょう? 草花もなかった。それもすべては不死鳥が起因なんです」
そんなことが……。そしてなぜ討伐対象になっているのかも合点がいった。周囲のエネルギーを奪ってしまうのであれば人里などに現れてしまったら一大事だ。しかしそんな存在を倒すことなど出来るのだろうか。
「今は周りに生物がいない。不死鳥も回復力は下がっているはず。このタイミングを逃さずに討伐したいというのがギルドの狙いでしょうね」
「……でもそんな相手倒せるのかな?」
「ハッ。私たちは不死鳥の心臓が必要だ。倒せなくとも倒すさ。もし討伐されるような事があれば、奪うまでだがな」
再度前方へ目を向ける。Aランクパーティと言っていたが果たして。
「はぁぁぁぁっ!!」
彼は剣士だろうか? まだ若く精悍な顔立ちをしている。魔素を剣に込めているのか、彼が持つ剣が淡く光り始める。そのままに彼は剣を不死鳥へ向け振るう。剣から放出された魔素が不死鳥の身体を切り裂き、不死鳥の片翼がもがれる。身動きが取れない不死鳥へ、ここぞとばかりに攻撃をしかける。後ろに控えていた女性二人も魔法を唱えていた。
「「アイシクルランサー!!」」
宙から発現した氷の槍が不死鳥を貫く。耳を劈くほどの鳴き声をあげ、不死鳥はその場に倒れ伏し、程なくして動きを止めた。
「え、これやばいじゃん。不死鳥やられちゃうんじゃ?」
慌ててリムさん達に話しかける。しかし、シーッとジェスチャーを返されるのみだった。
「まあ見てろ。ここからだ」
リムさんがこそっと私の耳元で囁く。私は釈然としないながらも言われた通りに再度前方を向く。
「やったか!?」
「スタン、ナイス!」
冒険者達は安堵の声をあげていた。ただ同時に警戒を解かないあたりはさすがといったところだろう。素人目にも本当にこれで終わってしまうのでは? などと思ってしまう。
――ただやはり、そうはいかないからこそ不死鳥として名を馳せているのだ。
消えかけていた炎が再度噴き上がる。辺り一体が炎に包まれる。その光は今度は黄金色だけではなく赤、白や青、緑と様々な色彩が混じる極彩色で、私はその美しさにまたも目を奪われていた。
「みんな、今度こそ復活する前に倒すぞ!!」
ハッと意識を戻す。そうだった。彼らはクエスト中なのだ。それも相当な労力をかけて不死鳥を追い込んだはず。回復していく姿をただ放っておくわけにはいかないだろう。
しかし彼らの攻撃は不死鳥の炎によって防がれる。みるみるうちに、切り離された羽根が再生し貫かれた傷が塞がっていく。幾許も経たないうちに、目の前には元通りの不死鳥の姿があった。
「勘弁してくれ……。何回目だよ……」
「どうしようスタン……」
「逃げた方がいいんじゃ……」
冒険者パーティの面々は絶望的な表情を浮かべていた。会話を聞く限りすでに何回も倒し、そして復活をしているようだ。こちらだけが消耗していく中、相手は毎回全快するとあっては心が折れても致し方ないだろう。
「……リムさんどうしますか? そろそろ私達も出ますか?」
「いや、ダメだな。アイツらがボロボロになるまで待て」
「え、でも」
「今の状態で私達が出て倒したとして、だ。分け前を要求されるに決まっている。特に心臓なんて良い素材になる事だからな。だからもう少し、様子を見ようじゃないか。奴らが逃げていけば、それもまた良しだ」
私は再度彼らへと目を戻す。リムさんの言うことは正論だ。私は何としても心臓を持ち帰らなければならない。そこに失敗は許されない。……ただそれでもなけなしの善意くらいは許されるだろう。
「……まあ無理にとはいいませんが、死ぬ直前くらいには助けてあげません?」
「……そこに何か我々への得はあるのか?」
「うーん。マーニャさんに借りが増えるとか?」
「……クク。まあいいだろう。ギリギリ及第点だな」
その後三回私は不死鳥が再生するところを目にした。そして、相対していた彼らはみな地に臥した。
「よし、そろそろ始めるか」
ーーここから私は、絶対的強者の戦いを目の当たりにする事になる。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




