【1-8-1】 無比
不死鳥。ファンタジー世界ではお決まりの、最強の一角。追随を許さない生命力、再生能力。生まれながらの絶対的強者。
その姿は人々を畏怖させ、時には神とすら呼ばれる。その生態は謎に包まれていて、何処から産まれるのかも不明。ただこの世界に彼らはいて、現在存在が認められているものはたった一体のみだという。
「うーん、リム様、突然そんなん言われても困りますて……」
目の前で女性が頭を抱えている。何族の人なんだろうか? 長い耳は狐? のようで、金色の美しい毛並みのそれは困ったように垂れ下がっている。
「……何が問題だ? 私とモノも帯同するのだ。何も支障はなないはずだが?」
「いやですから、そもそもFランク冒険者はS級クエストに参加は出来んのですよ。それに今わざわざAランクパーティを呼んで不死鳥クエストに出させとるちゅーのに、申し訳も立たんです……」
「問題ない。なんだ? その冒険者とやらも一緒に抹殺すれば煙も立たんか?」
恐ろしいことを言っているが、いや貴方一応ギルドの長なんじゃ? とツッコミそうになる。どうも話を聞くと、ギルドは所持ランク毎に受注できるクエストにも制限があるらしい。そして他のパーティが受注したクエストには、原則他パーティは手出し厳禁だそうだ。……いや至極ごもっともなルールである。
「全く……。マーニャレスカ、貴様私への恩を忘れたか?」
「勘弁してください……」
彼女はギルドマスターという役職で、実質的なギルドの全権を任されている。つまりはかなり偉い人物なのだが、リムさんには振り回されているようで内心同情する。
私達はあの後早速フェニックスを狩るため行動を開始した。ただまずはギルドへの連絡が必要らしく、ギルド本部へと赴いていた。グンネラの隠れ家から最寄りの街で馬車を借り、ここに来るまでに二日。今いるのはラフェシアとマグノリアの中間の地域に位置する商都バルディアだ。ギルドは各地域に拠点を構えているが、本部はこのバルディアに置かれているのだ。
初めて赴く外部の都市に、お上りさんさながらにキョロキョロとしてしまう。なにせこんな都市に来るのも初めてなのだから致し方ないだろう。そんな私とは対象的に、リムさんは外行きの黒衣にすっぽりと身を包んでいて極力目立たないようにしていた。ちなみにそれは魔素を一切遮断するアイテムで、着ていると周りに魔素の量やらがバレずに済むらしく、彼女クラスには必須なんだとか。
到着後マーニャさんと話をした結果がこの有様である。責め立てているリムさんの後ろで私はポツンと立っているしかなく、モノはモノで他人事のように大欠伸をしていた。しかし、不死鳥を先に狩られてしまっても問題だ。どうしたものか。
「我々としてもみすみす見逃せる状況ではないからな。押し通るぞ」
話にならないと踵を返して立ち去ろうとする。慌ててマーニャさんが立ち上がり制止した。
「いやいやいや! ホントかなわんなぁ。ちっと待っとってください」
彼女は奥へと入り、程なくして何やら紙を持ってきた。
「ほら! これなんてどうです? S級クエストの祖龍の討伐! 不死鳥とも遜色無いクエストですよ? こっちなら他冒険者も出てないし面倒にもならんです」
「む」
あちょっとリムさんが興味を示してる。確かに祖龍ならそれはそれは良い素材が取れるだろう。
「いやダメだ。まずは不死鳥の素材が必要だからな」
「そうですか……」
うーんと黙り込む。しばし逡巡した後に口を開いた。
「……では、たまたま貴方達が居合わせた体にします。ギルドに所属していない凄腕冒険者もいないことはないですし。ただ私達ギルドお抱えの冒険者はクエストに参加されると困ります。なので、A級のモノさんは連れていかんでください。スーニャさんはFランクということで、たまたま近郊の採集クエストの帰りに出くわしたということにしましょ」
モノって冒険者だったのか。しかもA級という事は最上位ランクじゃんか……。しかしいずれにせよ、無理やりでもそれなら面目もたつのだろう。ようは言い訳が出来できればいいのだ。
「面倒なことだな……。まあだがいい。貸しひとつだな」
いやいやいや、これってこちらが借りを作ったのでは……? まあでもともかくこれで出発出来る。モノは参加はできないようだけども、リムさんと私の二人だけで行くのだろうか?
なんて、そんな事ある筈もなかった。
「――それで僕が呼ばれたわけですか」
私達は早速不死鳥がいるという山岳地帯へと赴いていた。あたりには岩肌があるのみで草木は一切生えていない。それどころか生き物の気配すらなかった。火山活動が活発なのかあたりには熱さと硫黄の匂いが漂っていた。
クエストに参加出来ないモノに入れ替わったのはレナードだった。ジーが来るのかとも思ったが、彼女もまたギルドお抱えの冒険者らしく参加は出来ないとのことだ。
「でもこれって、そもそもリムさんだけで何とかなるんじゃ?」
当初から思っていた考えを伝える。
「無論私だけでどうとでもなる。ただ万が一にも貴様を守る役目も必要だろう?」
そういうことか。もし私へ攻撃がなされても私は確かに対応のしようがない。そうした場合の保険というわけだ。
「スーニャのことは僕が命をかけて守りますよ」
自分の年の半分くらいの子供が私を見てそんな事を言ってくる。彼とはひとまずは協力関係としたものの、どう接すればよいのか未だによく分からず若干気まずいというのが本音だった。
「それとだ、スーニャ。貴様に上の次元のもの達の戦いを見せてやろうと思ってな」
不死鳥というのは相当な強さだろうし、モノを圧倒していたリムさんとの戦いに正直興味はある。私のこれからの勉強にもなるだろう。そうこう話しているうちに、我々は岩山を登り続け頂上近くの噴火口に到達した。
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