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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第1部】夜明前

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【1-1-1】 願い

 前世の記憶はあまりない。生まれた町や友達、家族の顔、自分の名前すらも思いだせない。覚えているのは自分が病気だったこと、満足に動く事もできなかったこと、そのせいで家族に迷惑をかけていたこと。


 あとは姉の記憶。俺の前世の記憶は、姉に大部分が占められている。……先に伝えておくがシスコンではないからな?

 

「ねぇ✖️✖️は大きくなったら何になりたいのー?」

「んー、……正社員?」

「あー正社員かー、なるほ、え!? 正社員!?」

「だって今の世の中、安定した企業で正社員になるのが一番スマートだってみんな言ってるよ?」

「いや、まあそうかもだけども……」


『お姉ちゃんとしてはさぁ、スポーツ選手とか俳優さんとかそういう一般的に夢がある答えを求めていた訳で……』とゴニョゴニョ言っている彼女は俺の姉だ。年齢的には確か三つ、四つ上だったか? もはや顔も名前も覚えてはいない。ただ弟ながらにも整った容姿を持ち、周りの同年代の子供と比べ利発であったと記憶している。――姉は、俺の自慢だった。

 

 具体的な病名は長ったらしくて忘れたが、俺は子供の頃から病気を患っていた。少しずつ免疫が低下していく病気。徐々に身体の自由が効かなくなり、最終的には動く事すら出来なくなる。すでに俺は車椅子の生活で、成人を迎えるまでの生存率は控えめにも二割を超えることはないらしい。


 つまりは俺はハズレくじを引いた訳だ。満足な生活もできず、生きていられる時間も短い。周りには手間と時間とお金をかけさせる。クソッタレな存在。そんなもんだから、この病気に罹ったことが分かった時にはそれはそれは俺も、そして両親も落ち込んだものだ。


 だがその中で空気を取り持ってくれたのがこの姉だった。彼女だけは幼いながらも毅然としたままに事実を受け入れていた。宣告されたその日から、ほとんど毎日のように病室に見舞いに訪れては俺と話をしてくれた。病状を理解しているであろうにも関わらずそれをおくびにも出さない。そんな姉のことを素直に尊敬していたし、大好きだった。

 

「どうせ✖️✖️はネットとかで変なのばっかり見てるんでしょー?! それで変な影響を受けてるんだ!」

「いや姉ちゃんも少しは色んな情報を見て将来のこと考えた方がいいよ……」

「あー! また大人ぶってバカにして! ✖️✖️なんてまだ▲▲歳じゃない!」


 ぷりぷりと頬を膨らませコロコロ表情を変える姉を見ているとふっと口元がゆるむ。本当に、この時間だけは病気のことも忘れることができた。

 

 その頃の俺にとっては、この嫌になるくらい白に染められた病室と劣化し茶色がかった窓から見える気持ちばかりの緑、そして姉の存在。それらが世界の全て、だった。


 友達や両親は何をしてるのか? 当たり前の疑問だろう。ただ、俺はこの病気を小学生にあがると同時に発症していてそれ以降は基本的には自宅療養、症状が進行してからは病院生活だ。仲の良い友達もいないことはなかったが一年と待たずに会いにこなくなった。

 

 じゃあ両親は? ……俺の両親はとても良い両親だった。ただ今の状況からは無理からぬことだと思っている。特段裕福な家庭でもなかった訳だし、子供が突然こんな病気を発症し世界が一変してしまったんだ。現実を直視したくない気持ちもわかるだろう? 


 だから、入院してからは必要最低限しか会いにこない事も、俺といる時は常に貼り付けたような笑顔を浮かべたままに目も合わせてくれない事も、全て仕方ない事なのだと受け入れていた。

 

「✖️✖️。これが今週の着替えだ。それとお小遣いだからな」

「うん。ありがとう」

「……身体の調子はどうだ?」

「うん。調子はいいよ。この間は散歩にも行けたし、少しだけボールを蹴ったりもしたんだ」

「そうか。それならよかった」

「父さんは最近どう?」

「こっちも変わりない」

「そっか」

「ああ。……そろそろ時間だから戻る。何か必要なものがあれば何でも言いなさい」

「うん。ありがとう」


 週に一回父さんか母さんが荷物を渡しに面会にくる。その時には少しだけ会話があるがいつも内容は変わらない。調子はどうか? 調子はいい。そうか。じゃあ時間だから戻る。この四点セットだ。目まぐるしく変わる世界の中で、この言葉達だけはそのままでなんだか滑稽に思える。


 俺の症状は悪くなる一方で昔は持てたグラスも今では持てなくなった。何もなくても起き上がれたところを支えがないと起き上がれなくなった。昔は食べられたものも噛みきれないものが多くなった。病気を患う前には人一倍運動が大好きでそこら中を走り回っていたんだ。何年経ったって両親からしたら直視したくない、認めたくない現実だろう。……俺だって、なりたくてこうなったわけでは勿論ないのだけれど。


 ただそんな空気を感じ取っていたのか、姉が家族全員で食事をしたいと言い出した。家族間の空気を変えたかったのだろう。ちょうど俺の▲▲歳の誕生日を控えていた事もあって、その日は家族全員でケーキを食べようと、でなければ家出も辞さないなんて言ってるらしい。


 俺からすると、まあ有難い話ではあるのだけれども、若干の気まずさがあったことを覚えている。今更両親とゆっくり会話なんて出来るだろうか、と。両親の作られたような笑顔と気を遣われた態度は子供心にも咀嚼が難しく、見舞いにきた時だって『では帰る』という言葉に内心ホッとしていたことも事実だった。姉に話したら『自分の家に帰って家族と会話するのに何が緊張するのよ』なんて一笑されてしまったが。

 

 自分の悩みとは関係なしに計画は着々とすすんだ。病院側への申し入れは滞りなく進み、特別に一晩だけ自宅に帰れることになった。担当医師のその回答を家族で聞いていた時、いたく喜んでいる姉の横で、俺は何とも言えない微妙な気持ちを隠したままに曖昧な笑みを浮かべていた。


 ――今でも考える事がある。なぜそうなったのか。誰が悪かったのか。避けられる選択肢もあったのか。ただその日を迎えていなければ、この物語は始まる事はなかった。

 

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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